【晩冬お悩み相談ウィーク】正しい生き方の話

今週一週間は「晩冬お悩み相談ウィーク〜この時期が一年でいちばんきつい〜」と題して、皆さんから事前に頂いたお悩みに回答していきます。

森さん、匿名ですが、初めまして。 いつもnoteや本を拝読していて、森さんの文章は何かとても「しっくり」くるように感じられて、わたしは大好きです。 いつもこっそりと応援しております。
さて、質問というか相談に近くなってしまいますが、わたしは女性ですが、結婚して、出産して、みたいな日本社会で「正解」とされるような生活を送っていません。 それでも自分なりに小さい幸せを感じたり、自分のペースでのんびり暮らすことに満足しています。
けれども、時たまわたしの暮らしや大切なものを否定するような、ひどい言葉を投げつけられることがあります。「女のくせに〜」「子供を産め〜」など。 こうした価値観は、相当に古いですし、そうしたもので誰かを縛るのはあってはならないですし、言う方が間違っているとわたしは考えますが、それでも何かダメージを受けてしまって、立ち直るのに時間がかかります。 情けないなと思いつつ、涙が出ることもあります。
森さんにもこういうことはありますか? またそういうとき、どうやって自分をなぐさめてあげるのでしょうか、なにか良い方法がありましたらアドバイスいただけると嬉しいです。

まずはお褒めの言葉、本当にありがとうございます。「しっくり」きているという状態は、あなたの表層ではなく芯の部分に響いているような感じがして、書いてきてよかったなと思います。

僕自身も、「正解」とされる生活を送っていません。再来月には32歳になるのにまだ結婚もしていないし、マンションも買っていないし、定職にも就いていません。預金通帳を客観的に見れば、僕は「翻訳者」というよりも「退職金受給者」というほうが適切です。

幸いにも僕の周りには、直接的に僕を責めてくる人はいません。数年前までうつで引きこもっていたからでしょうか、「おまえは生きているだけで偉い」みたいな視線を感じます(妄想かもしれません)。それでも、出席した結婚式などで同年代の友人と会うと、自分の普通ではなさに密かに傷ついたりもします。本当は傷つく必要なんてないのですが。

こんな風に直接言われていない僕でもつらいのに、「子供を産め」などという言葉を直に投げつけられるあなたは、どんなにつらい思いをされていることでしょう。よろけたふりして、言ってきた相手に頭突きの一発や二発かましてもバチは当たらない気もしますが、それは最終手段にとっておいて、別の策を考えていきましょう。

論理や倫理の観点で言えば、100パーセントあなたに分があるでしょう。ならばそれを武器にして暴言の主に反撃したいところですが、「子供を産め」などと言うやつに正論が通じるわけがありません。相手が政治家や有力者であれば然るべきところに暴言を報告しておいて、それ以外であれば放っておくほうがいいと思います。立ち向かっても余計に傷ついて、あなたの美しい生活が損なわれるだけです。

数年前、ある大型書店に行きました。新刊の平積みをチェックしていた僕の目に、信じられない光景が映りました。四十代から五十代くらいの男性が、自分の荷物(たしかブリーフケースだったと思います)を平積みの上にドーンと置いて、立ち読みをしていたのです。そのとき僕は思いました。「本に書かれている美しいことを、こんなやつが読み取れるわけがない」と。「こいつの何倍も長生きして、本でもなんでも美しいものを何倍も感じてやる」とも。

「子供を産め」などと言う人には見られないものを、あなたは見られるはずです。そんなあなたに頭突きは似合いません。(かぶっているなら)すてきなお帽子が乱れてしまいます。

次回更新は2月26日火曜日、正午です。
引き続き、こちらにてお悩みを募集しております。
能力と時間の都合で、すべてには答えられないことをご了承ください。ごめんなさい。

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