ファーストバイトの話

ああ、頭が痛い!二日酔いのせいか、低気圧のせいか、それとも昨日パンを6個も食べたせいか、とにかく頭が痛い。右のこめかみのすこし上あたりを、菜箸の持つ側で押されているくらいに痛い。逆側でないことは不幸中の幸いだったが、大人が落ち込むレベルで痛いのは事実である。

ケチで名高いわたしが二日酔いになるほど酒を飲み、小ぶりなパンを6個も食べたことからわかるように、昨日わたしは宴席にいた。大学時代の友人の結婚披露宴である。この日の酒とパンの消費量は、祝福の気持ちで欲のリミッターが外れたことに由来する。決して、「いくら食べてもタダ」だからではない。

さて、ファーストバイトである。それがどれほどの頻度で行われるのか、どれほどの歴史を持っているのかは知らない。しかしこの10年近く、わたしが出席したすべての披露宴でこれが行われていた。もちろん昨日の宴席でも。語頭に定冠詞のtheが必要な気もするが、まずはこの儀式の概要をおさらいしよう。結婚情報ウェブサイト「結婚スタイルマガジン」では、こんな説明がなされている。

ケーキ入刀の後に行われる定番の演出と言えば「ファーストバイト」。新郎新婦がウェディングケーキを食べさせ合う演出です。
新郎から新婦へは「一生食べ物に困らせない」新婦から新郎へは「一生美味しい食事を作ります」という意味が込められています。
新婦から新郎へは、大きなスプーンやしゃもじなど、普通のスプーン以外を使って盛り上げるのが人気です。
新郎が口のまわりにクリームをいっぱい付けた様子に笑いが起きて、盛り上がることも多いよう。

さすがは「結婚スタイルマガジン」、見事な説明である。きっと読者の皆さんも同感であろう。夫婦の気持ちを可視化する、さらには「映える」という意味で、この儀式が重宝される理由はわかる。

わかるがしかし、二文目に引っかかるものがある。夫婦の形は人それぞれであるから、このスタンスに合致しない場合も多いだろう。だからと言って、儀式から「意味」が失われれば、それはそれで味気のないものになってしまう。

しかたない。わたしが一肌脱ごう(最高気温5℃)。ザ・ファースト・バイトの盛り上がりはそのままに、夫婦を縛りすぎない「意味」をいくつか考えていこう。

1. 新郎から新婦へは「おいしい食べ物はすべて君と分かち合いたい」新婦から新郎へは「食べ物以上に、あなたと分かち合う『時間』そのものが愛おしい」という意味
性差に関わる表現を最小限に抑えつつ、二人の考え方の違いを出してみた。次の試案を考えるのが億劫なくらい、これでいいという気がしてきた。

2.新郎から新婦へは「一生食べ物に困らせない」新婦から新郎へは「わたしだって、一生食べ物に困らせない」という意味
共働き夫婦に最適と思われる。披露宴の司会者にはぜひ、「わたしだって」を読むときにはこぶしをきかせてほしい。

3.新郎から新婦へは「ダイエット中なのに、こんなに甘いものを食べさせてごめんね」新婦から新郎へは「わたしたちの結婚を祝福してカロリー側が遠慮するから、実質カロリーはゼロ」という意味
「という意味」の意味がわからなくなってきたが、サンドウィッチマン伊達氏のカロリー理論を信奉する方におすすめする。

いかがだろうか。皆さんのザ・ファースト・バイトの参考になれば、わたしは幸せである。

次回の更新は2月12日火曜日、正午です。

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