冬のにおいの話

いい加減にしてほしい。とにかく朝が寒すぎる。ずっと寒いのなら諦めもつくが、日が出ればまだまだ暖かいのである。だから、ベッドからソファに移動させた毛布を、またソファに戻さねばならない。めんどくさいし、ホコリも舞うし、こんなことなら朝の間だけ我慢すればよかった。ホコリを散らすために窓を開けると、冬のにおいがした。

フラワーカンパニーズというロックバンドの、『冬のにおい』という曲が好きだ。メロディもさることながら、「冬のにおい」というフレーズにぐっとくる。「冬のにおい」は「水のうまみ」のように、「味」がない。無臭の澄み切った冷たい空気が鼻の奥を突く感じ、あれが「冬のにおい」である。だから厳密に言えば「痛み」なのだが、それを「におい」と表現する詩情がたまらない。

冬のにおいを感じるたびに思い出すのは、大学の学園祭のことだ。

わたしの通っていた大学では、毎年11月の下旬、勤労感謝の日あたりに学園祭が催される。記憶が美化されている可能性もあるが、学園祭の準備期間に、その年初めての「冬のにおい」を感じていた。

ずっと考えていることがある。大学の学園祭というのは、人間が効率的に恋愛関係に陥るためのシステムではないか?

第一に、寒い。寒いと人は人を求める。

第二に、接触時間が長い。朝から夜まで、男女が同じ空間を共有する。互いの魅力を知る機会も多い。

第三に、目標を共有している。ゼミであれサークルであれ、趣は違えど一致団結している。目標を達成したよろこびが、一緒にいるよろこびにすり替わる。

わたし自身はその恩恵に預かっていないことが発覚したので、この怒りを創造力に変換したい。

わたしの創造力の限界はこうだ。『テラスハウス』の舞台を、ベーリング海のカニ漁船にすればよい。上記の三要素を完璧に含んだうえに、ディスカバリーチャンネルでも放送でき、フジテレビの増収につながる。

来週には、わが母校の学園祭が開催される。わたしは会場にはお邪魔せず、家でカニ汁でもすすりながら成功を祈るつもりだ。

次回の更新は11月16日金曜日、正午です。


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