つらみの因数分解の話

たいへんにつらい。将来への不安か冬の寒さか空の暗さのどれか、もしくはそのすべてが原因でめちゃくちゃにつらい日々を送っている。

毎日朝8時からの一時間を読書タイムに設定して(ぜいたくな話だ)、それを朝起きた自分へのご褒美として、自らの手で顔の前にニンジンをセットする競走馬のように暮らしてきたのだが、それすら達成できない日がつづいている。

セブンイレブンの「金の食パン」が好きで、これもまた朝起きたご褒美として毎朝トーストして食べているのだが、目覚めたらもう昼近くで、消費期限が今日だからと「作業」のように口にしたりもする。

自分のあまりの不甲斐なさに嫌気が差し、Nウォーム(政府が全国民に支給すべきほどに高品質低価格な、ニトリ製の温かい毛布)に包まれてふて寝したいくらいだが、ここはぐっとこらえる。

今日はこの場で、「つらみの因数分解」を試みたい。複合的なつらみを要素(因数)に分解して、一つずつ処理していきたいのだ。「お前のつらみなんか興味ないよ」というご意見もあろうが、読者諸氏の問題解決のヒントになれば幸いである。

ざっくり考えて、今のつらみは「将来への不安」「冬の寒さ」「空の暗さ」の三要素(因数)で成り立っている。簡単なものから処理していこう。

まず「空の暗さ」であるが、これは電気を点ければいいだけだ。どことなくマリー・アントワネット感のある解決策だが、パンはなく、雲は人力では動かないのでどうしようもない。明日の午後以降は、東京でも数日晴れ間がつづく。じっと耐えるしかない。

次に「冬の寒さ」である。わが家のオイルヒーターは年度末の経理部のように休みなく働いてくれているが、それにも限界がある。オイルヒーターが熱を帯びるまでには火力→電力→熱というエネルギー変換がなされるが、きっとその過程でかなりのエネルギーが失われる。だからといって火力発電所の「炉」の近くで暖を取るわけにはいかないし、他の暖房器具にも一長一短がある。

暫定的な解決策は二つある。着る毛布(政府が全国民に支給すべきほどに高品質低価格な、ニトリ製の温かい室内ガウン)を買うこと、ポッカレモンをお湯で割ったものを飲みまくることだ。炉に近づくよりも安全だし、費用も安い。

さて、最後は難敵である。「将来への不安」なんてものは、解消されることがあるのだろうか。もしくは、すっかり解消した人がこの世にいるのだろうか。今日ここで結論など出るわけがないから、不安を抱えるからこそ人間は働き、学び、文明は発展したのだと『サピエンス全史』的なスケールで茶を濁したい。「不安」はおそらく、解消するものではなく飼い慣らすものである。

たいへんにつらい。たいへんにつらいままだが、今日は着る毛布に身を包み、翻訳の勉強をしようと思う。そうしているあいだは、「不安」はわたしの膝で寝ていてくれるだろう。

次回の更新は12月12日水曜日、午前10時ごろです。



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