卒業式での告白の話

卒業式での甘い思い出がない。卒業式で告白をしたことも、されたことも一度もない。好きな人がいなかったからとも言えるし、思春期の男子の自信を失わせるのに十分なくらい太っていたからとも言える。とにかく、当時のわたしの選択肢に「告白」なんてものはなかったのだ。

ただ、友人の告白を応援したことはある。

中学の卒業式を控えた、ある日のことだった。一年生のときに同じクラスになって以来、わたしと親しくしてくれていたAという男がいた。そのAが、ある女子Bに告白するというのだ。しかも卒業式に。

あまりの青春っぷりに、また「友人のマジ告白」に対するあまりの照れくささに全力で茶化そうかとも思ったが、いかんせん「マジ」なのでそれはやめておいた。恋愛の知識なんて漫画『I"s』経由でしか得ていなかった、現場を歩かない「逆・柳田國男」のわたしだったが、「まあ、大丈夫やろ」などと根拠のない応援の言葉をかけて彼を勇気づけた。

Aという男は、一言で言えばナイスガイである。「誰が見てもイケメン」という感じでもないが、気さくで、やさしく、話し上手で運動神経も良かった。そんな彼が誰かに告白するというのだから、「まあ、大丈夫やろ」にもそれなりの正当性があったのだ。

そしてBもまた、ナイスガールであった。「クラスのマドンナ」的な存在感ではなかったが、そのかわいさは誰もが認めていた。ど田舎の中学にいながらも、矯正中の歯がチャームポイントとなるような、どことなく青文字系モデルっぽい雰囲気を醸していた(あまり喋ったことがないので、見た目にばかり言及して申し訳ない)。ここでは「B」としているが、彼女の下の名前は、春に咲く花の名前である。

つまりAとBは、誰もが応援したくなるようなカップルだったのだ。Aの友人であるわたしには尚の事だ。

そして、卒業式当日。式典が終わり、クラスでのイベントが終わり、別れを惜しむ卒業生たちが、なかなか帰れずに中庭や運動場にたむろしていた。わたしは駐輪場から自分の自転車を出し、そこにいた同級生に「お別れやな」などと言いながら、Aの告白の行方を案じていた。まだ誰も携帯を持っていなかった。何もできないわたしは、自転車を出発させた。

告白が失敗に終わった、と聞いたのはいつだっただろうか。一緒に通っていた塾の授業前だったかもしれないし、一緒に受けた入試の帰り道かもしれない。「飲んで忘れる」という選択肢を法的に持てなかったわたしたちは、ただ素面で話すことでその痛みを共有した。

あることをきっかけに、Aには二度と会えなくなってしまった。Bにも中学以来会っていない。もし交際していたら二人は幸せだったかなとも思うし、交際していないこの現実でも、二人が幸せであったことを祈る。

次回の更新は3月20日水曜日、10時です。

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