『ワンダーウォール』の話

【お読みになる前に】ドラマ『ワンダーウォール』の、途中までのあらすじが記載されています。結末には触れていません――

2018年7月25日21時、平成最後の夏の一夜に、あるドラマが放送された。NHKのBSプレミアムで放送されたそのドラマの電波は、東京・渋谷の巨大なアンテナから宇宙に放たれ、放送衛星を経由して、全国に届けられた。

ドラマのタイトルは『ワンダーウォール』という。朝ドラ『カーネーション』などを手がけた渡辺あやが、四年ぶりにテレビドラマの脚本を書き下ろした。

このドラマの舞台は、「京宮大学」という架空の大学の、「近衛寮」という架空の寮である。老朽化にともない近衛寮を解体したい大学側と、補修をしながら今の建物を残したい寮生側の対立を物語の軸としながら、様々な登場人物の感情と事情が繊細に描かれる。

寮生の「キューピー」のモノローグにもあるように、このドラマは「ラブストーリー」である。彼は高校三年生のとき、夏期講習の休み時間にスマホをいじっていて、偶然に近衛寮のことを知った。「その瞬間、僕は志望校を決めた」と言う彼は、恋に落ちてしまったのだ。

寮生たちが大学の学生担当・寺戸敏子との戦いに明け暮れていたある日、派遣社員であった彼女はあっさり異動となり、別の女性が後任につく。そのことに寮生の志村は打ちのめされる。寺戸を倒せば大学の責任者を引き出せると思っていたが、所詮大学にとって、寺戸は「替えのきく存在」だったのだ。

きっと寮生たちにとって、近衛寮は「替えのきかない存在」なのだろう。「なくなったら…僕はどこに行けばいいんだよ…!」という寮生の台詞にもあるように、何かを(誰かを)愛してしまった者は、その替えのきかなさに苦しむことにもなる。

ドラマがある結末を迎えたあと、エンディングテーマが始まる。京都の学生数十人によるセッションの映像である。そこには、何かを(彼らの場合はおそらく、音楽や京都を)愛してしまった者たちの、清々しい表情が溢れていた。

次回の更新は10月31日水曜日、正午です。



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