揚げ物の奴隷の話

揚げ物が好きだ。「アゲモナー」と呼んでほしいくらいに揚げ物を愛している。からあげ定食、カツサンド、天ぷらうどん…。あらゆる炭水化物と名コンビを組み、我々の摂取熱量(熱意ではなくエネルギーのこと)を跳ね上げてくれる頼れる存在、それが揚げ物である。

正真正銘のアゲモナーであるわたしが、とくに愛してやまないのが鶏のから揚げである。その愛が知的好奇心に転換されたわたしは、なぜあらゆる弁当屋はからあげをメインに据えるのか、かつてその答えを論理的に追究したことがある。

わたしの導き出した答えは次の3つである。汁がもれないので持ち運びに便利なこと。一つ一つが小さいため、からあげ弁当なら4個、ミックスフライ弁当なら1個などと物量の調整がしやすいこと。生産数が増えるごとに1個あたりの手間が減るので、大量生産に向いていること。オリジン弁当の店員に一言聞く手間を惜しみ、自分ひとりで熟考した結果がこれである。我ながら的を射ていると思う。

こんなに神々しい「揚げ物」という存在だが、玉に瑕というべきか、たった一つだけ短所がある。

体に良くないのだ。

古今東西あらゆる文献を探しても、「揚げ物を食べれば食べるほど健康になる」という記述は見つからないのではないか。揚げ物を健康に食べるだの、せめてものヘルシーな油はこれだの、「最悪をマシにする」方向での記述は散見される。わたし自身も、焼け石に水と知りながら日清の割高な油を使っている。

これは合点がいかない。あんなにおいしくて、かつ弁当屋にとって便利なものが、なぜ健康の助けにならないのだろう。この世の不条理に打ちひしがれるわたしの頭に、ある本の内容が浮かんだ。

ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳の『サピエンス全史』にこんな記述がある。
「小麦は自らに有利な形でホモ・サピエンスを操ることによって、それ(筆者注=地球規模での繁殖)を成し遂げた」
わたしなりに要約すると、小麦が人間の奴隷なのではなく、人間が小麦の奴隷なのである。

よく考えてみてほしい。揚げ物にとっての「三位一体」とは、具と、油と、粉である。パン粉であれ強力粉であれ天ぷら粉であれ、元を辿れば小麦なのだ。

この視点から考えれば、揚げ物で健康を害することにも合点がいく。小麦は優秀な具材となることによって人類に自らを消費させ、需要を高め、さらなる生産を促し、繁栄を極めんとするのだ。体に良くないのは、消費のスピードを緩めるために違いない。悪すぎると毒になり、誰も生産しなくなる。「週一くらいなら全然OK(個人の見解)」ないまの塩梅が、おそらくちょうどいいのだろう。関係ないが、塩も梅も天ぷらに合う。

衝撃的な結論が出てしまった。しかし、わたしを含め読者の皆さんの多くは、すっかり揚げ物の口になっているはずである。今日のところは抵抗せず、幸福な奴隷として揚げ物を食べてみてはいかがだろうか。週一くらいなら全然OK(個人の見解)なのだから。

次回更新は12月19日水曜日、正午です。

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