「旅欲の小満たし」の話

昨日、ある用事のためにすこし遠出をした。「すこし」と書いたのは、それが自宅から片道一時間半の道のりだったからだ。「旅」ではなく「遠出」と書いたのは、わたしにとって「旅」とは、有料特急に乗らないと腰が痛むほどの長時間移動を指すからだ。

自宅がバレないギリギリの範囲で記述するが、昨日はJR山手線・JR中央線・西武多摩川線を乗り継いだ。乗り慣れた山手線や中央線とは違って、多摩川線に乗るのは生まれて初めてだった。乗り換え駅で中央線を降り、多摩川線のホームに向かい、すでに停車中だった車両に乗り込む。その過程でわたしの胸を満たしていったのは、まぎれもない「旅情」だった。

さて、「旅欲の小満たし」である。さて、と言われてもそんな言葉は存在しないし、なんとなく小鉢に入った和食のような語感である。「おひたし」感の強い言葉を作ってまでわたしが言いたいのは、遠出などしなくても、外出にほどよく「未知」を混ぜ込めばそれは旅になるということだ。

海外旅行ほどの旅情はなくても、日々のストレスで空いた小腹を、まさに小鉢のように満たしてくれるはずだ。わたしのなかで西武多摩川線は、ほうれん草のおひたしと同格なのである。

次回の更新は11月30日金曜日、正午です。




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