『スピリチュアルジャパン』の話

3月21日、あるドキュメンタリー番組がNHK BS1で放送された。『スピリチュアルジャパン なぜ男たちは裸で祈るのか~蘇民祭~』と題された、普段の自分なら興味を持たないその番組を、わたしはなぜか録画予約していた。それは「野生の勘」としか言いようがない衝動であったが、動物としてのわたしは、見事な獲物を手にすることができた。

この番組の舞台は、岩手県奥州市。1000年以上もつづく冬の祭「蘇民祭」に、アメリカ出身の俳優ゼガがふんどし一丁、まさに「正装」で参加する。外国人である彼の視点に立つと、この祭りはどのように見えるのか。それがこの番組のテーマである。

祭当日の一週間前、ゼガと、見守り役となったロシア出身のモデル・アリョーナが現地を訪れる。彼らは地元住民へのインタビューを通じて、祭の精神をすこしずつ理解していく。ときには、「どうして冬にやるんですか?あったかい季節じゃだめなんですか?(筆者要約)」という豪速球の質問もアリョーナから飛び出すが、それも彼らのジャーナリズム精神の為せる技である。

本番が近づくにつれ、ゼガの表情に不安が広がっていく。故郷から遠く離れた異国の地で、真冬にふんどし一丁になって150人もの男たちの荒い人波にもまれる。それに地元住民によれば、この祭は「命がけ」だ。ゼガはあまりの不安に針が振り切れたのか、覚悟の表情を浮かべ、「明日は特別な日になるよ」とアリョーナに語る。

そして本番。蘇民祭は夜10時にはじまり、夜を徹して行われる。親しくなった地元住民にふんどしを締めてもらったゼガは、「気合が入った」と満足げだ。

まずは「水垢離」のため、彼らは「角灯」と呼ばれる行灯を手にして池まで行進する。池に着いたゼガは「蘇民将来!」と叫びながら、足元の冷たい水を桶ですくって全身に浴びせる。この時点で、ゼガの表情は気迫に満ちている。彼はもはや「ゲストの外国人」ではなく、立派な祭の一員なのだ。そんな彼を見てアリョーナは、「私は厚着してても寒いのに、裸で水を浴びるなんて信じられない!」と驚嘆する。

そこから「紫橙木登り」「鬼子登り」を経て、いよいよこの祭のクライマックスとも言える「蘇民袋争奪戦(英語字幕: Battle for the Somin Sack)」が始まった。幸福の象徴であるたった一つの麻の袋(わたしの目視では米袋の半分くらいの大きさ)を、150人の男たちが力づくで奪い合うのだ。

Battleが始まったときには暗かった空が、終わった頃にはほのかに明るくなっていた。本人いわく惜敗となったゼガの表情は、その空よりも明るい。祭に参加した感想を聞かれた彼は、「精子だった頃を思い出した」「何万匹のなかから一匹だけ着床したときのようだ。生まれたことが奇跡だ(大意)」などと語りながら、その目から涙をこぼした。

皆さんはこの文章を読んで、どんな番組を想像したことだろうか。もしよければ、公式サイトで番組の画像をご覧いただきたい。そうすれば、わたしがどんな表情でこの番組を観ていたかがわかるはずだ。

まったくどうでもいいことだが、公式サイトのトップ画像のゼガが、ノエル・ギャラガーにしか見えない。

次回の更新は3月29日金曜日、正午です。
(4月1日〜5日は春季休暇をいただきます)

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