ピースボートのポスターの話

先日、友人と食事をしていて、「なぜ安居酒屋のトイレにはピースボートのポスターが貼ってあるのか」と議論になった。

考えてみれば、妙な話だ。豪華客船での高価な船旅が、レモンサワー290円みたいな店のトイレで宣伝されているのだ。

侃々諤々の議論もむなしく、そのときは納得できる答えにたどり着けなかった。その悔しさをバネに、いまここで、自分の頭だけで正解という頂にたどり着きたい。「ピースボート ポスター」で検索すれば10秒で着きそうだが、必死にこらえて頭を回転させる。

いっぺんに解決できそうもないので、疑問を因数分解していこう。

第一の因数は「トイレ」である。店内の目立つ場所ではなく、トイレの中に貼るメリットは何か。

店にとってあのポスターは邪魔なのだろう。おそらく、ピースボート財団みたいなのが「貼らせてくれ」と頼んできたのだ。無碍に断ることのできない気弱な店長だったが、店内の壁はおすすめメニューやラッセンのジグソーパズルや応援している演歌歌手のポスターでいっぱいだから、仕方なしにトイレに貼ったのだろう。

また、ピースボートから漂う「意識高い系」の香りも無視できない。宴席を離れ、トイレで一人になり、多少内省的なモードにシフトしてこそ、あの香りは鼻の奥を刺す。トイレという設置場所は、はじめは店長の妥協の産物だった。しかし結果的に、集客に適している。

つまりトイレは、店主としても財団としても、非常に「好立地」なのである。

最後の因数は「安居酒屋」だ。小ぶりな地蔵みたいなサイズのペットボトルの安焼酎から作った薄いレモンサワーを290円に出す店に集う酔客に(修辞過剰だが事実だ)、百万円を超えることもあるピースボートの旅費をぽーんと出せるわけがない。

旅費が高額なら、高所得者の集う高級店に貼ればよさそうなものだ。ポスターの印刷費用もタダではないし、選択と集中という観点に立てば、安居酒屋に貼るのは効率が悪い。ここに最大の謎がある。

さて、残酷な結論に移りたい。あまりにも冷たい現実だが、統計学の観点からは書かざるをえない。

そもそもわたしは、高級店に行った経験が少ないのだ。

論理クイズを楽しく解くつもりが、自分の可処分所得と向き合う羽目になってしまった。

もし、すきやばし次郎に行く機会があるなら、わたしは入店後真っ直ぐにトイレに行きたい。


次回の更新は11月26日月曜日、正午です。

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