怖い話の話

昨日から謎の腹痛に苦しんでおり、たいへんに怖い。とはいえ、不調そのものは些細なことであり、明日には全快できると確信している。わたしが怖いのは、「謎」の部分だ。

想像してみてほしい。日頃から憎まれている相手にビンタされるのと、面識のない相手に「お前のせいだ!」と言われながらハーゲンダッツ(とコンビニでもらえる専用スプーン)を渡されるのと、どちらが怖いだろうか。腹痛という理由もあるが、わたしには後者が怖い。あの美味しい美味しいマカデミアナッツ入りでも怖い。新作落語『ハーゲンダッツこわい』を披露したいわけではないが、後者には謎が多すぎる。そもそもそいつは誰なのか。それに、憎んでいるのになぜハーゲンダッツをくれるのだろうか。そいつがどういうやつであれ、ハーゲンダッツは大切に食べてほしい。仕事で小さな成功を収めた日の、風呂上がりに食べてほしい。

小学生の頃から、怖い話が好きだった。当時は映画『学校の怪談』が公開されたり、フジテレビ系で『木曜の怪談』が放送されたりして、怖い話自体がブームだった。学校の図書館にもポプラ社の『学校の怪談』シリーズが揃えられ、夢中で読んだ。

怖い話の多くには、謎がない。しかも、勧善懲悪的でもある。幽霊が人を呪う理由には理不尽さがないし、心霊スポットを荒らしたヤンキーは必ず痛い目に遭う。短い時間でサクっと恐怖を「消費」するには、後味が良くてちょうどいいのだと思う。怖い話のラストで怪現象の理由が明かされたり、寺や神社でお祓いを受けたくだりが語られるのは、食後のコーヒーみたいなものかもしれない。

原昌和という人物がいる。彼はthe band apartというバンドのベーシストだが、怪談(怖い話)の名手でもある。彼の怪談の大きな特徴は、その後味の悪さである。ちょうどイヤな感じに、口から飲み込んだものが胃の中で残りつづけるように、謎が謎のまま残る。怪談中の怪現象自体が怖いのに、それが解決されないまま、「わからない」という怖さをも聞き手は抱えることになる。満腹になったのに、食後のコーヒーを出してくれないのだ。

そんな恐怖を味わいたい方は、ぜひリンク先の動画をご覧になってほしい。

次回の更新は10月24日水曜日、正午です。

https://youtu.be/GQO2aHZeblg

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