どうぶつフルーツ屋さんの話

今日の記事は、実話を元にしたフィクションです。

「お電話ありがとうございます。どうぶつフルーツ屋さん、どきどきウサギが担当いたします」
「あ、もしもし。どうぶつフルーツ屋さんですか?」
「はい、本日はいかがいたしましたか?」
「ええ。今日、フルーツ頼み放題の更新手続きをいたしまして」
「はいはい」
「数日前から期限切れだったのですが、新鮮なフルーツが必要になりまして」
「なるほど」
「更新手続きをして、好きなフルーツを注文しようとしたんですが、『期限切れ』という表示が出てしまうんです」
「あらあら」
「ご確認いただけますか?」
「承知いたしました。まずは、お客様のお名前を頂戴してもよろしいですか?」
「わくわくゴリラです」
「はい?」
「わくわくゴリラと申します」
「わくわく、ゴリラさま、と。はい。『わくわく』はひらがなでよろしいでしょうか」
「はい」
「わくわくゴリラさま。はい、確認がとれました。わくわく様のフルーツ頼み放題は、本日付で更新されています」
「そうゴリか」
「そうゴリね。ではわくわく様、弊社テクニカルスタッフにお繋ぎいたしますので、少々お待ち下さい」
「はい」

「お電話ありがとうございます。どうぶつフルーツ屋さん、ハラハラコアラが担当いたします。本日はどうされましたか?」
「ええと、最初からですか?」
「最初から、とおっしゃいますと?」
「いえ、あの、先程なんとかウサギさんとお話しまして、テクニカルスタッフに繋いでいただけるということだったので」
「あ、大変申し訳ありません。引き継ぎが上手く行っておりませんで、ちなみに弊社たくさんのウサギがおりますもので、何ウサギだったかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ごめんなさい、なんか、楽しげな感じだったのは覚えてるんですけど」
「それでしたら申し訳ありません、最初からお願いいたします」
「ああ、はい。そうですか……。ええと、今日、フルーツ頼み放題の更新手続きをいたしまして」
「はいはい」
「数日前から期限切れだったのですが、新鮮なフルーツが必要になりまして」
「なるほど」
「更新手続きをして、好きなフルーツを注文しようとしたんですが、『期限切れ』という表示が出てしまうんです」
「あらあら」
「ご確認いただけますか?」
「承知いたしました。ええ、ああ、確かにわくわく様、更新手続きが完了していますね」
「そうですか。では、どういうことなんでしょう?」
「ちなみにわくわく様、ご注文されたフルーツはバナナですよね?」
「いえ、リンゴです」
「あ、左様ですか。わたくしバナナ専門のオペレーターでして」
「はあ」
「ごめんなさい。てっきりわくわく様はバナナをお召しかと」
「あの」
「申し訳ございません。リンゴ担当の者にお繫ぎしたいところなのですが、あいにくリンゴ担当は人数が少のうございまして」
「はあ」
「リンゴ担当の者から、わくわくゴリラ様に折り返しお電話する形でよろしいでしょうか?」
「わかりました」
「お時間二時間ほどいただきます。それでは失礼いたします」
「あっ」

ゴリラは激怒した。たらい回しの対応に、バナナ派であるという決めつけに、さらっと差し込まれた「そうゴリね」に激怒した。が、この村のフルーツが「どうぶつフルーツ屋さん」に独占されていることを思い出たゴリラは、そっと拳を下ろし、涙を拭って二時間もの間電話を待ちつづけた。

木に実るリンゴをもいでいた日々が、なつかしくてたまらなかった。

次回の更新は4月20日土曜日です(しばらくは週一の更新となります)。


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