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落葉に関するいくつかの話

A.
こつこつと小説を書いている。週に原稿用紙十枚ペース。会社の休みが木曜と日曜だから、日曜日に書き進めて、木曜日に直している。いくつかのパターンを試し、自分の体調や東京の人波、時間を置くことによる「深夜のラブレター」効果の回避、あらゆる事情を勘案した結果このようなサイクルとなった。さらに気分を変えるため、日曜日は自宅でラップトップを通じて、木曜日は外出先でiPadを通じて原稿に向かうことにしている。これもまた、某ラブレター効果を避ける意味合いがある。

B.
The Avalanchesというバンドがいる。バンドであるが楽器は弾かない。彼らはレコード、CD、テレビ、映画、あらゆるメディアからの音を蒐集して、コンピューターもしくはターンテーブル上でそれを編集して音楽を作る。ドラムを叩くのではなく、ドラムが鳴っているレコードをサンプリングする。ヴォーカルを呼ぶのではなく、ヴォーカルの入っているCDの一部分を取り出して、テンポや音程を自在に変える。ただし最近の作品では、ヴォーカル部分は「新録」であることも多い。

C.
外出先もできれば、ランダムなほうがいい。決まったところで書くと変な癖がつきそうでこわい。幸いにも東京は公園が豊かなところで、また幸いにも自分の休日には晴れていることが多い。だからわたしは日比谷公園に行こうと思った。近くにはガード下の飲食店がたくさんあるから、そのなかから気分に合わせて適当に入りたい。で、そうした。サラダバーが自慢のイタリアンで、時節柄サラダバー用の「マイトング」を渡された。ピザのチーズで熱くなった口内を、グラスの生ビールで冷やした。

D.
The Avalanchesのニューアルバムが12月11日に発売される。そのリード曲 We will always love you のYoutubeには彼ら本人による(と思われる)メッセージが書かれている。その一部を抜粋する。

Every voice ever played on the radio over the last 100 years now exists in the stars; the transmissions of these singers are forever floating around out there, lost in the cosmos, endlessly traveling.

意味をしがみたくて和訳をしてみる。

この百年間にラジオで流れた声、その声の一つ一つがいまも星々のなかに存在している。歌い手から生まれた波は永遠に漂い、宇宙のどこかにいて、無限の旅をつづけている。

E.
すこし気が引けながらも、空いているキッズエリアのゲートをくぐる。が、ベンチはたっぷり空いているから怒られる心配はない。奥にある大木の下のベンチを目指していると、ぺらっぺらのコンバースの下に、乾いた紅葉と湿った土を感じる。砂やら石やらの細かな粒に、生き物の残骸が混じったものが「土」であると、最近Newtonで読んだ。ベンチに座り、iPadを開いて原稿を直す。才能が「枯れる」と最初に表現したのは誰なんだろう。わたしがいま必死で咲かそうとしている文才も、いずれ黄色か赤色を帯び、重力に逆らわずに落ちる。平日の昼だから親子連れが多い。キッズエリアを覆っている落ち葉もいずれ、土の一部となる。若葉のような二人の子どもが駆け回り、枯れ葉が一瞬中に舞い、また土に吸われる。

F.
iPhoneを起動し、We will always love youを再生する。わたしはもう家に帰りたい。

次回の更新は12月5日(土曜日)です。

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