見出し画像

インボイス制度の中で生き抜く知恵

2022年10月、「イラストレーターズ通信・スクール」の講義として書かれたものを一部修正の上転載します。


■ インボイス制度で、影響を受けるイラストレーターはいる

2023年10月から、インボイス制度が始まりました。

この制度は、「イラストレーターをはじめとするフリーランスに、大きな影響がある」として、問題になっています。

インターネット上では、「インボイス制度が始まるとフリーランスは絶滅する」といった過激な意見も散見されます。

果たして、それはほんとうなのでしょうか?

結論から言うとーー
影響のあるイラストレーターは、確かにいると思います。

ありがちなタッチで、特別な強みもなく、ブランディングがしっかりできていない、そんなイラストレーターは、値段の安さで選ばれがちです。
安さがウリのイラストレーターは、免税事業者のままでは仕事が減るでしょう。
あるいは、報酬額の減額を求められるかもしれません。
ならば、納税事業者になればいいのでしょうか?
他に道はないのでしょうか?

私は、免税事業者でありながら仕事を増やす、もう一つの別の道があると考えています。

「別の道」とは、どんな道なのでしょう?
それは、これから始まるであろう「イラストレーター3.0」の時代を生き抜くための道です。
イラストレーターの皆さんのお役に立てることを願って、有料講座の一部を特別公開します。
一人でも多くの方の参考になれば、幸いです。

■ 影響を受けるイラストレーターは、インボイス制度とは関係なく、いずれどこかで行き詰まる

納税事業者になれば、確かに仕事が減らないかもしれません。
しかし、それは長続きしないはずです。
「ありがちなタッチで、特別な強みもなく、ブランディングがしっかりできていない、安さをウリにするしかない、そんなイラストレーター」はーー
インボイス制度と関係なく、いずれどこかで行き詰まります。

「安さで選ばれている」ということは、もっと安いイラストレーターが現れたら、インボイス制度とは関係なく、仕事を奪われるからです。

クラウドソーシングなどでは、激安で仕事を請け負うイラストレーターがどんどん増えています。
「いらすとや」のようなサービスを展開するイラストレーターもいます。
ストックイラストも増えています。
さらに最近は、AIイラストの進歩にも、目を見張るものがあります。

そうしたサービスとも値段競争しなければならないわけですから、安さがウリのイラストレーターに未来はないのです。

遅かれ早かれ、いずれどこかで行き詰まります。
では、どうすればいいのでしょう?

■ 安さをアピールする店には、安さを求めるお客さんが集まる

マーケティング・ブランディング関連ではかなり著名なベストセラーで『安売りするな! 価値を売れ!』(藤村 正宏/著)という書籍を読んだことはありますか?
その書籍に、こんな一文があります。

「他の店より一円でも安く売ります」という情報を発信していると、一円でも安く買いたいお客様が集まります。

『安売りするな! 価値を売れ!』(藤村 正宏/著)

そうなんです!
どんなクライアント様が周りに集まってくるかは、そのイラストレーターの日頃の言動できまるのです。

安さをウリにするお店や事業者には激安で依頼したがるお客さんやクライアントが集まります。

あなたが、仕事が減ることを恐れて、納税事業者になると言うことはーー
「私は納税事業者なので、免税事業者に依頼するよりお安く済みますよ」と、「安さ」をアピールするのと同じことです。

つまり、マーケティングやブランディングの専門家が「やってはダメ」と警告する「他の店よりお安くしますアピール」をやることになってしまうのです。

これでは、マイナスのブランディング効果になってしまいます。
条件のよい仕事は減り、安さを求めるクライアントが集まるようになるでしょう。
一時的に仕事は増えるかもしれませんが、働いても働いてももうからず、疲弊していくことになるかもしれません。
そしてーー
もっと安くで請け負うイラストレーターが現れたらすぐに仕事を奪われます。

■ 安さがウリの事業は、いずれ行き詰まる

かつて、日本で値下げ合戦が激しかった時代がありました。
牛丼チェーン店が、そのいい例です。
2012年には、牛丼いっぱい250円まで下がりました。
しかし利益はさがり、どの牛丼チェーン店も苦しい経営状況に陥りました。

マクドナルドも、2000年代初めに「59円バーガー」などを出して話題を集めましたが、結局赤字に陥りました。
「マクドナルド=安物」というブランドイメージがついてしまい、長く経営不振に苦しむことになります。

かつて、安売りで一世を風靡したスーパーのダイエーは、今は経営不信からイオン傘下に入ってしまいました。

格安のお値段で美味しいイタリアンが食べられるサイゼリアは、国内事業が15億円の赤字に陥っていると聞きます。

ミスタードーナツも、少し前まで値下げセールを行なっていましたが、かえって業績は悪化しました。

「じゃあ、100円ショップはどうなの?」と言う声もあるかもしれません。じつは、100円ショップの強みは「安さ」だけではありません。
かつて、99円ショップというものもあったのをご存知でしょうか?
しかし、99円ショップは長続きせず、すぐに消えていきました。
なぜ100円ショップは成功して、それよりも安い99円ショップは潰れたのか?
その理由は、100円ショップの真の強みにあります。
100円ショップは、「値段のわかりやすさ」が強みなのです。
「どれを買っても100円」
これこそが、最大の強みなのです。
100円ショップは、安売りをしません。
バーゲンセールはしないし、売れ残ったからと値下げをすることもほとんどありません。
「だからどれを買っても、ひとつ100円」という点が、画期的な強みとなっているのです。
それに対して、99円ショップは、値下げやセールなども行い、より「安さ」を全面に出してアピールしていました。
その結果、行き詰まったのです。
ただしーー100円ショップがこれまで拡大してきたのは、長くデフレが続いたおかげでもあります。
今、インフレが始まっています。
100円に値段を据え置くことは難しくなりつつあります。
実際、ダイソーに行くと300円とか500円の商品が増えてきている印象を受けます。
そろそろ、100円ショップとしては行き詰まるかもしれません。

■ しっかりとブランディングすることで、成功した事例

「安さ」をウリにするイラストレーターには、「安さ」を求めるクライアントが集まりますがーー

独自の価値をウリにしてしっかりブランディングをしているイラストレーターには「その独自の価値に惹かれて、少々お金を出してでもあなたにお願いしたい」というクライアントが集まります。

業種は全く違いますが、独自の価値をウリにしてしっかりブランディングすることで成功している事例を紹介しましょう。

まずは、コンビニです。
街でよく見かけますよね。
でも考えてみると、ほとんどの商品は定価で販売されています。スーパーマーケットの方が安いはずです。
それでも、コンビニは成功しています。
なぜだかわかりますか?

その答えはーー
コンビニは「安さ」をウリにしているのではなく、「便利さ」をウリにしているからです。
ちょっとした何かを欲しいと思った時、すぐに買うことができます。
日常生活で必要になる一般的なものは、大概揃っています。
スーパーマーケットよりもはるかに便利なのです。
だからコンビニは少々お高くても成功しているのです。

次はチョコレートです。
明治の「ザ・チョコレート」は、一般的なチョコレートの約二倍の価格でした。
にもかかわらず、異例の大ヒットとなりました。
これは味の良さももちろんあるのですが、斬新なパッケージデザインによるブランディングが成功した好例でしょう。

さらにカルビーの成功例です。
カルビーはプレスリリースに「開発秘話」等のストーリーを盛り込むことで、ブランディングに成功し、売上アップにつなげました。
参考ページ:

ブランディングにおけるストーリーの大事さは、講義で詳しく解説しています。

湖池屋もブランディングによって売り上げを伸ばしています。
参考ページ:

かつては値下げ合戦を繰り広げた牛丼チェーン店やマクドナルドも、
今は、少々お高くても価値ある商品の開発に力を入れるようになりました。

数年前まで業績が悪化していたミスタードーナツも、値下げをやめています。
最近は、宇治茶専門店「祇園辻利」やベルギー王室御用達のチョコレートブランド「ピエール マルコリーニ」などの他社有名ブランドとのコラボレーションによる高価格路線へと大きく方針転換しています。
それが功を奏し、ミスタードーナツの業績が大きくアップしているそうです。

そして、もう一件、とっておきの事例も紹介しましょう。
独自のブランディングで、大成功している個人経営の小さな洋服屋が金沢にああるのです。
1シーズン百万円購入の顧客が百人もいるというのです。
「ACRMTSM(アクロマティズム)」という店です。
「なぜそんなに大成功したのか?」と、無名だった店主に尋ねると、こう答えます。
「僕たちが、服ではなく『明日』を売っているからです」
なんと素晴らしいコンセプトでしょう。
このコンセプトに惹かれ、この店のファンになったお客さんが、この金沢の小さな店に、関西や首都圏からもやってくるのだといいいます。


■ 「イラ通・メソッド」の三本柱をしっかりと学ぼう

「イラ通・メソッド」には、3本柱があります。
具体的には次の3つです。

1)絵の力(食べていくために必要なイラストレーションの8要素)
2)宣伝・営業力(宣伝、営業、マーケティング、ブランディングなど)
3)人間力(マナー、性格、行動力、交渉力など)

この3つの力が備わった時、イラストレーターは食べていけるようになります。
インボイス制度が始まっても、この3本柱さえしっかりしていれば、なんの心配も要りません。
自然と「少々お金を出してでも、あなたにこそお願いしたい」というクライアント様が集まるはずです。

インボイス制度が始まった時に、特に重要となるのは、次の3つの要素でしょう。

① オリジナリティ

まず、大事なことは、オリジナリティの高い絵柄であることです。
どこかでみたようなタッチ、ありがちな画風は、同じような絵を描くイラストレーターが他にもたくさんいるわけですから、あなたでなければならない理由が弱いです。
他の人に頼んでも同じようなイラストレーションが上がってくるのであれば、より安い方にお願いする傾向があるのは仕方ないでしょう。
オリジナリティの高い画風になって、オンリーワンのイラストレーターになることが大事です。
そうすれば、「世界中の他の誰でもない、あなたにこそお願いしたい」というクライアントが自然と集まってくるでしょう。

コンビニは「便利さが強み」と書きましたが、それはどのコンビニも同じです。
同じようなコンビニの中で、選ばれるためには、オリジナリティが強力な武器となります。
ですから、どのコンビニも、オリジナル商品の開発に力を入れています。
コンビニに置いているスイーツなど、専門のケーキ屋にも負けないレベルのものが少なくありませんよね。

ダイソーは、その90%がオリジナル商品だと聞きます。
そのため、幾つもある百円ショップの中でも、飛び抜けて高い売り上げにつながっているのでしょう。

マクドナルドも、他のハンバーガーチェーンにはない独自のハンバーガーの開発に力を入れています。

牛丼チェーンの松屋に行く機会が時々あるのですが、新しいメニューがどんどん出てきて、いつも感心させられます。(バイトの方は大変でしょうが)

オリジナリティは、インボイス制度の中で生き残るために最も重要なことだと思います。

② 強み

特別な強みを持つことも大事です。
コンビニは、スーパーマーケットよりも高いけれど、「便利さ」という強みで成功しました。
イラストレーターも、他のイラストレーターよりも多少高くてもお願いしたいと思わせる強みを持ちたいです。

たとえば、元看護婦なら、医療知識が一般的なイラストレーターよりも豊富です。
医学・健康に関する仕事では、その知識が活かせるはずです。
スポーツが得意ならならそれも強みになるでしょう。

私の場合、「何よりも小説が好き」ということを強みにしていました。
だから文芸関係の仕事が集中しました。
編集者と打ち合わせ等でお会いした時も、小説の話で盛り上がり「じゃあ、今度はその作家のカバーをお願いします」となったこともあります。

みなさんも、ご自身の趣味、体験、などを活かして自分だけの強みを見つけたいです。

③ ブランディング

いい絵を描くだけでは、仕事は来きません。
うまくブランディングすることが、とても重要です。
そのために、「イラ通式 マンダラ・チャート」を使って「自分軸」を見つけましょう。
「イラ通式 マンダラ・チャート」とは、自分自身が何者であるかを探究するためのツールです。
「自分軸」とは、自分の価値観・生き方・志に基づいた揺るぎなき魂の芯棒のことです。
詳しくは、講義で解説しています。

森流一郎の「自分軸」はこんな感じです。

森流一郎は小説が好き。
そして誰かに楽しんでもらうことが好き。
かつての私が小説のカバーや挿絵に心躍らせたように、小説読者を楽しませたい。
私のイラストレーションで、喜んでほしい。

金沢の洋服店「ACRMTSM(アクロマティズム)」の「自分軸」は、これでしょう。

僕たちは、服ではなく「明日」を売っている。

あなたも、「自分軸」を見つけましょう。
それは、あなたが、イラストレーターとして掲げる旗です。
業界のいろんな人がその旗を見ます。
それを続けていけば、徐々に、その旗に惹かれる人が集まってきます。

「安売りの旗」を掲げれば安さを求める人が集まってくるし、
「あなたならではの人生観を反映した旗」なら、その考えに共感した人が集まってきます。
あなたも自分らしい旗を見つけてください。

「自分軸」を見つけたら、そこから、「タグ」「アイコン」「キャッチフレーズ」「ストーリー」をつくり、
繰り返し様々なメディアで発信する。
そうしてーー
「〇〇といったら、イラストレーターの××××」と、覚えていただくことです。
私が「時代物と言ったら、森流一郎」という感じで業界に広く認知していただいていたようにです。

デザイナーや編集者が持ち上がった企画のイラストレーションを「誰にお願いしようか」と考えた時、まず最初に思い浮かぶイラストレーター数人の中に入ることが、売れっ子になる秘訣なのです。

マーケティング業界ではこれを「第一想起」と呼びます。

あなたが第一想起のイラストレーターになる方法を教えているのが、「イラストレーターズ通信・スクール」の「宣伝・営業術」なのです。

インボイス制度に関係なく、豊かで幸せになる術が詰まっています。
十分に吸収してくださいね。

年間売り上げが1千万円を超えていないにも関わらず納税事業者として登録するのは、マイナスのブランディング効果となる可能性があるので、個人的にはお勧めしていません。

■ とはいっても、確かに、インボイス制度には問題がある

とはいっても、私がインボイス制度に賛成しているわけでは、決してありません。

誰に頼んでも大きな違いがないようなイラストレーションを描いているのであれば、影響を受けることは避けられないと思います。
他の業種でも、誰に頼んでも大きな違いのない職業は影響を受けるでしょう。
かといって、免税事業者になれば、消費税を納める必要が出てきます。

インボイス制度は、実質的な増税です。
インフレで消費が冷え込み始めているところに増税をすれば、経済は落ち込みます。
日本経済は、さらなる混迷を深めることになる可能性を感じます。

これからの時代、多様な働き方が求められます。
フリーランスが働きやすい環境を整えることも、国の務めだと思っています。


「イラストレーターズ通信」は経済的にとても苦しく、森流一郎は借金をしてなんとか運営を続けております。もしよろしければ、サポート(投げ銭)をお願いします。団体の活動資金とさせていただきます。