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イラストレーターの宣伝・営業術05 「ストーリー01」

(※ この記事は,『イラ通・スクール』の《宣伝・営業術05 「ストーリー01」》を一部修正したものです)




■ 『SASUKE』における「ストーリー」の効果

TV番組の『SASUKE』はご存知ですか?
工夫が凝らされすぎた巨大フィールドアスレチックを使った、筋肉系競技番組です。
1997年に始まったということですから、もう20年以上にわたって放送され続けている長寿番組となっています。
長らく見ていなかったのですが、最近再び、子供達と一緒に見ています。

久しぶりで手に汗握って見るうちに、『SASUKE』の人気の秘密に気がつきました。
それはーー
「ストーリー」です。
『SASUKE』では、「ストーリー」が効果的に使われているのです。

『SASUKE』をご覧になったことのある皆さんはよくご存知だと思うのですがーー
番組の中で、出場する選手の練習風景や過去に挑戦した際の映像が、繰り返し、繰り返し流れます。
これが本番に至るまでの選手の「ストーリー」になっているのです。

最近見始めたばかりの子供も、過去の映像などをみて「ミスターサスケのおじさんは、若い時からずっとこの『SASUKE』に取り組んでんだ」と感心しています。

長年続けてきた番組であるだけに、初期から出場してきた人たちの、挑戦し続けてきた歴史がずっしりとあります。
その歴史が、そのまま「ストーリー」となっています。

その「ストーリー」が、視聴者の心を掴み、揺さぶるのです。
ここに、この番組の人気の秘密があると思います。

成功も、失敗も、挫折すらも、視聴者の心を掴む「ストーリー」です。
選手の背景を知ることで、よりその選手に共感し、無意識に好感を抱くようになります。
そして、その頑張っている姿を応援してしまうのです。

これが「ストーリー」の効果です。

TV番組の中で「この選手はこんなに頑張っているので、応援してください」と、視聴者に頼むわけことは、決してありません。
視聴者は、頼まれたわけでもないのに、いつの間にか選手を応援し、手に汗握るのです。

それと同じくーー
「編集者やデザイナーの皆さんが、頼まれたわけでもないのに、いつの間にかあなたにイラストレーションのお仕事を依頼してくれる」というのが理想です。
その理想的状況を意図的に作り出すのが、私のブランディング手法です。

■ 数多いお笑いコンテストの中で、『M1』が突出して成功したわけ

今度は、漫才日本一を決める『M1』の内容を思い出してみてください。
この番組でも、「ストーリー」が効果的に使われているのです。
どこだかわかりますか?
演目の直前などに、出場者の横顔がわかるVTRが少し流れますよね。
あれが「ストーリー」になっているのです。

後日、「アナザーストーリー」という別番組では、さらに詳しく出場者の物語を伝えます。

実に、「上手い!」と思います。

昨年の12月も、『M1』を視聴しながら、「ストーリー」が優れた効果をあげていることに感心していました。

「ストーリー」により、視聴者は、漫才という芸に賭ける人間の物語を深く知ることになります。
視聴者自身も気づかぬうちに、ファンになってしまうのです。
そして、いつの間にか、その漫才師たちを応援しているのです。

漫才のコンテストは、『M1』以前からたくさんありました。
『NHK上方漫才コンテスト』
『ABCお笑いグランプリ』
などなど、、、

参考ページ:https://ja.wikipedia.org/wiki/Category:%E3%81%8A%E7%AC%91%E3%81%84%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88

しかし、『M1』ほど成功したお笑いコンテストはありませんでした。
成功の要因は、「出場者のストーリーを丹念に紹介したことだ」と、私は考えます。
なぜなら、出場しているメンバーは、他のお笑いコンテストも大差ないことが多いからです。
どのコンテストも質は高いはずなのです。
でも、『M1』ほどの盛り上がりがなかったのです。
盛り上がらなかったのは、芸人の「ストーリー」を丹念に追うことなく、お笑いの芸だけを見せていたからではないでしょうか?

昔気質の漫才師なら、
「漫才がおもろいかどうかが問題やねんから、その漫才師のストーリーなんていらんやろ」と、考えるでしょう。
だから、ストーリーまで放送することに理解を示すベテランは少ないと思います。

「これからのイラストレーターには、ストーリーが必要だ」という私の考えに賛同するベテランイラストレーターが少ないのと同じです。
でも、それは昭和の考え方なのです。

芸人のストーリーまで丹念に取材して紹介したお笑い番組は、『M1』が最初なのではないかと思います。

番組プロデューサーが「ストーリー・ブランディング」の考え方を知っていたかどうかはわかりません。
おそらくは、知らずに勘で実践していたのではないかと想像します。
この考えが、ビジネスの世界でさかんに言われるようになったのは、2010年以降だからです。

でも、結果として「ストーリー」を効果的に使ったことで、それまでのお笑いコンテストとは異なる次元の大成功につながったのです。
その漫才師の「ストーリー」を知った人の多くが、ファンとなりました。
ファンは、『M1』を楽しんでそれで終わりではなく、継続してその漫才師を応援しています。
応援されることで、その漫才師の活動がより盛り上がっています。
こうして、良い循環ができ、漫才師とファンの双方が、一緒にお笑い界を盛り上げていると感心しています。


■ 『K1』が、『M1』の原点

今の若い人はほとんど知らないかもしれませんがーー
もともと『M1』は、『K1』のパロディとして始まりました。
『M1』の中で、上半身裸のファイティングポーズをしている出場者の写真が使われていますよね。
あれは、『K1』の真似なのです。

最近の『K1』のことは、全く知らないのですがーー
2000年前後の『K1』は、とても面白かったです。
私も、熱心に観ていました。

観ていたのは、私のような格闘技ファンだけではありません。
元々格闘技に興味のなかった一般の人たちも巻き込んで、大きなブームとなっていました。
大晦日には、幾つもの放送局が紅白の裏に格闘技番組をぶつけていました。
スター選手も数多くでました。

今になって思い返せばーー
あの頃の『K1』には、出場選手のストーリー紹介がありました。
練習風景、家族やトレーナーの言葉、これまでの試合の様子など、その選手の背景がわかるストーリーがとても丁寧に放送されていたのです。
そのストーリーによって、これまで格闘技に興味のなかったごく普通の人たちも、それぞれの選手を深く知ることができます。
そしてファンとなり、試合のたびに応援するようになっていったのだと思います。

「ごく普通の人たちも巻き込んだブームになったのは、ストーリーが大きな効果をあげたからだ」というのは、間違いないでしょう。

同じ頃、総合格闘技の『プライド』も、このストーリーの手法を真似て、『K1』同様に盛り上がりました。

おそらく、『M1』はこの手法を真似て、漫才師のストーリーを紹介するようになったのでしょう。
『M1』でストーリーを使う手法は、『K1』のパロディをする中で偶然生まれたものなのかもしれません。

■ ストーリーで国民的アイドルになった「モーニング娘。」

『K1』や『プライド』で格闘技界が盛り上がっていたのと同じ時期ーー
アイドルの世界でも、ストーリー効果で国民的アイドルになった女性グループがいました。
それは「モーニング娘。」です。

「モーニング娘。」は、TV番組『ASAYAN』のオーディション企画で落選した女の子たちによる、寄せ集めグループとして出発しました。
オーディションで優勝したのは、平家みちよさんでした。
審査員は、平家みちよさんを絶賛していました。
私も、平家みちよさんには、垢抜けた魅力を感じていました。
「モーニング娘。」として寄せ集められたメンバーは、いまいちダサい印象でした。
しかし、その後どうなったのかは、受講生の皆さんもご存知の通りです。

優勝した平家みちよさんは、売れませんでした。
落選したメンバーによる「モーニング娘。」は、国民的アイドルとなって、『NHK紅白歌合戦』に10年連続出場する偉業を成し遂げました。

放送当時、ほぼ毎週『ASAYAN』を観ていました。
私はジャンルがなんであれ、夢に向かって真剣にチャレンジする人たちが好きだからです。
でも、まさかあのダサかった「モーニング娘。」がのちに国民的アイドルになっていくとは、夢にも思いませんでした。

なぜ、「モーニング娘。」に、あれほどの人気が出たのかーー
それは、間違いなくーー
ストーリー効果があったからです。

「モーニング娘。」は、最初からデビューが約束されていたわけではありません。
「インディーズのCDシングル『愛の種』を手売りで5万枚売り切れば、デビュー。しかも与えられた期間は5日間のみ」
という条件付きの結成だったのです。

『ASAYAN』では、毎週「モーニング娘。」の活動の様子が放送されていました。
歌のトレーニングや録音の様子など、実に丁寧に彼女たちが頑張っている様子を伝え続けました。
その結果ーー番組側も想定していなかった大反響を呼んだのです。
手売り特設会場にファンが殺到し、大混乱とも言える状況になったのです。
5万枚を売り切ったのはもちろんですが、購入できなかったファンもかなりいたようです。

その後も、『ASAYAN』は、毎週「モーニング娘。」の活動の様子を追いかけ続け、ファンと共に大きなムーブメントを作っていきました。

この『ASAYAN』が毎週放送していた「モーニング娘。」の様子が、今思えばーー
優れたストーリーになっていたのです。
ダサかった彼女たちが、回を重ねるごとに、垢抜けし、魅力的になっていくのがわかりました。
プロデューサーのつんくに叱られたり、うまくいかずに落ち込んだり、それでもへこたれずに頑張ったり、そんな七転び八起きの泥臭い様子がそのまま電波に載っていました。
私を含む視聴者は、知らず知らずのうちにそんな彼女たちに共感し、応援するようになっていきました。

その間、平家みちよさんのことは、ほとんど放送されませんでした。
彼女のストーリーは、視聴者に届けられなかったのです。
平家みちよさんは才能もあり、魅力的なので、掘っておいてもヒットする」と思われていたのかもしれません。
それよりも、「ダサくてうまくいきそうにない落選者の様子を放送したほうが面白い」と判断されたのかもしれません。

その当時の私は、「平家みちよさんの方がヒットすると思っていたのに、逆になった。不思議なこともあるもんだなぁ。結局、才能よりもなのかな?」などと思っていました。
しかしブランディングやマーケティングを学んだ今なら、「モーニング娘。」だけが大ヒットした理由がわかります。
「モーニング娘。」は、決してでヒットしたわけではないのです。
平家みちよさんがヒットしなかったのも、がなかったからではありません。

二つを分けた最大の原因は、間違い無く、ストーリーにあったのです。

■ 『ウリナリ芸能人社交ダンス部』も、ストーリーがヒットの理由


そしてもう一つ、ストーリーが効果的に使われたTV番組を挙げておきたいです。
2000年前後人気を博した、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』です。

この番組の中でも、特に大好きだった企画が「ウリナリ芸能人社交ダンス部」です。
社交ダンス初心者の芸能人たちが、本気で社交ダンスに打ち込むストーリーを、毎週、丁寧に放送し続けていました。
徐々に上手くなっていく様子が、見ていてわかりました。
フィクションではない、本物のストーリーがそこにはありました。
回を追うごとに、私の中で、応援する気持ちが高まっていきました。
応援していたのは、私だけではありません。
視聴率も高かったことを考えると、多くの視聴者が応援していたのではないかと想像します。
やがて、日本大会で優秀な成績を収めた時の驚きは今でも忘れられません。

この番組では、他にも様々な企画がありました。
いつも、泥臭いほどに、頑張り続ける芸能人たちのストーリーを放送していました。
「ドーバー海峡横断」
「登山」
「アイスホッケー」
「カヌー」
「男子シンクロ」
などなど。

「ポケットビスケッツ」や「ブラックビスケッツ」のヒットも、ストーリーによる効果が大きかったと思います。

■ ストーリーは、実力で勝るイラストレーターがたくさんいる中で、あなたが選ばれる魔法ともなる。

ストーリーの効果のほどが、お分かりいただけたでしょうか?
はたして1990年代前半や、それ以前はどうだったのか?
必死に思い返すのですが、ストーリーが効果的に使われていたTV番組を思いつきません。

誰が最初に始めたのかは明確にわかりませんが、おそらくはーー
2000年前後からストーリーが効果的に使われているTV番組が出現してきたと思います。
そして、その後のTV番組に多大な影響を与え続けています。
今も、その影響を受けた番組をよく見かけます。
あなたもいくつか思い当たるのではないでしょうか?

ストーリを使ったTV番組が、なぜそれほど人気となったのか?
それはーー
「人間は、ストーリーに惹かれる」からです。

ミスターサスケこと山田勝己さんは、すでに歳をとり、かつてのような力はありません。
もっと力のある若手がたくさんいます。
でも、力のある若手よりも、彼の放送に時間をかけます。
なぜなら視聴者は、スペックの高い人間を応援するのではなく、長いストーリーを持つ山田勝己さんを応援するからです。

『M1』で優勝した漫才師は、優勝する前から力はあったはずです。
他のコンテストで受賞経験のあるコンビもいます。
でも、『M1』でストーリーが知られた途端に人気が出るのです。
たとえ、『M1』で優勝できなくとも、ストーリーが知られたことで、人気者となるケースもあります。

『ウリナリ芸能人社交ダンス部』が日本大会で優れた成績を収めていたのは、審査員が日頃から番組を見ていて、ファンになっていたことも、多少影響していた可能性があるかもしれません。

人間は、好きな人の演技の方が、より良く見えるものです。

平家みちよさんは、「モーニング娘。」のメンバーよりも歌が上手く、容姿も上でした。
でも、ストーリーを伝え続けた「モーニング娘。」の方が売れました。
ストーリーを伝えなかった平家みちよさんは、アイドルとしても、歌手としても、より才能があったにもかかわらず、視聴者の応援を得られなかったのです。

人間は、感情で動く生き物です。
スペックや実力で応援する人を決めるわけではありません。
理屈抜きに、好きになった人を応援する性質があるのです。

あなたもストーリーをうまく使えばーー
実力で勝るイラストレーターがたくさんいる中にいても、あなたが選ばれるようになります。
まさに魔法のような効果があります。

次回から、効果的なストーリーの作り方を具体的に解説していきます。

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