We Only Have Tomorrow - The Flaming Lips

We only have tomorrow
ぼくらには明日しかない
I want it to be with you
ならぼくはきみと一緒にいたい
The world will end tomorrow
世界はきっと明日で終わり
Maybe it’s time to get with you
たぶんそろそろ一緒になる時
With you
きみと

So let’s try to climb a mountain
だから試しに山を登ろう
Maybe get to the moon
たぶん月にだって届くかも
Some butterflies will help us
助けてくれる蝶々もいるよきっと
Baby it’s not that far
ね、そんなに遠いわけじゃない

Or maybe we’ll find a spaceship
あるいはたぶん宇宙船を見つけるかも
That has a fridge that’s filled
そこにはぱんぱんの冷蔵庫
With ice cream and a world
中にはアイスクリームと世界と
And the sound of love
溢れてくる愛の音色

Oh it’s not so serious
あ、そんな大したはなしじゃないよ
Your teardrops aren’t
きみのその涙はもう
Magnetic anymore
磁力は帯びてないんだよ

So when we mix your laughter
だからきみの笑い声を素材にして
With a spooky tune
ぼくのおかしな曲とミックスしよう
If the world does end tomorrow
もし世界が明日で終わるっていうなら
Baby it’s me and you
ね、ぼくときみがいるよ
Baby I’ll be with you
ね、ぼくはきみといるよ
Baby it’s something new
ね、何かきっと始まるんだよ


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 geniusには中盤の歌詞が、”you’re teardrops aren’t ”と書いてあったのだが、意味がわからなかったので"your teardrops aren’t “と読み替え、上でもそう記載した。

 メロディアスなギター、ズルズル言ってるバズ音、ふにゃふにゃのシンセ、に合わせて「世界の終わり」が歌われる。細かく小気味良く同じリズムを刻み続けるドラムが、切迫感を演出しているというよりは、もっと軽薄な何かを提示しているような。

 「世界は明日でもう終わり」と歌ってはいるものの、それ自体を深掘りはしない。「終わるんなら、きみといたいなぁ」ぐらいでしかない。しかも話は「きみとぼく」で世界の終わりまで、どんなに楽しく過ごせて、どんなに素敵なものと出会えるか、へとシフトしていく。月にも行けるかもしれないし、宇宙船や魔法の冷蔵庫にも出会えるかもしれない。世界の終わりは世界にとって他にかけがえのない出来事なのだから、それが来るなら終わり以外の何もかももまた起きうるだろうと言わんばかりに、たくさんの夢物語を語る。

 大した話じゃあない。なんせもう世界は終わるんだから、あらゆることにもう意味はない。世界の終わりによって、世界の終わりの意味もなくなるのだ。もうそこには魔法も呪いもない。きみの涙は現実においてもうかつてのような意味は持たないし、きみは自分が流した涙が持ってしまった意味のために苦しむことももうない。

 意味という世界を覆っていたものが消え去り、すべてがフラットになり、グリッド上に存在するだけの何かになった時、残るのは「今ここ」だけだ。

 もしここに第三者がいるとすれば、それは「明日」や「世界の終わり」たったそれだけなのであり、また「きみ」すら認識出来ない場合は世界の終わりすらももう認識してないだろうから、今ここ、にいるのはきみとぼく以外あり得ない。世界の終わりにはきみとぼくしか存在し得ない。そして、きみとぼく、のふたりがいるのなら、ふたりで過ごしたい。きみとぼくと、ふたりでいたい。なんか、そういうことである。


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 SpongeBob SquarePants: The Broadway Musicalなる演劇作品が2016年に作られた。あのアニメ、スポンジボブのブロードウェイミュージカルだ。この芝居にはやたらと豪華なアーティストたちの曲が引用されたり提供されたりしており、フレーミング・リップスも新曲提供アーティストの1組だった。

 で、この記事で取り上げている”We only have tomorrow”が、フレーミング・リップスが芝居に提供した楽曲である。というかそのデモ版である。デモ版、と公式で書いてあるからそうなんだろうけど、ちゃんとアレンジがされてるのでセルフカバーに近い何かに見える。

 実際のお芝居の方では、なんと第一幕のラストを飾る曲として使用されている。“We only have tomorrow “から"Tomorrow is”と改題されたこの曲は劇中で最も重要なナンバーのひとつであろう。そしてその重みの分、なのかなんなのかは分からないが、歌詞もアレンジも、デモ版とは全く異なっている。一応貼っておきます。

 特に入りの水中を思わせるふにゃふにゃしたアレンジは割とそのままのように思うが、似たまま、もっとメジャーで正統派になってるのが面白い。後半はもう大盛り上がりだ。

 あらすじ。登場人物たちが暮らす海底都市ビキニタウン(Bikini Bottom)に近い海底火山が活発化!地震が多発し、隕石が落ちてくる!(地震で岩が崩れ落ちると、海底には隕石として落ちてくるかたちに)
本格的に噴火するとなると街はひとたまりもなく呑まれてしまうだろう、と住人たちは街を捨てようとするが、対して主人公スポンジボブと、科学者サンディ、スポンジボブの親友パトリックは噴火を止めるべく行動に出る。その過程でスポンジボブとパトリックの仲違いがあったり、その他別の行動を取ったり別の意図を持ったりする登場人物たちの話があったり。

 そんなこんなで迎える一幕ラストにて、それぞれ立場は違えど差し迫った破滅の日、明日、と向き合い何を思うかが"Tomorrow is"で歌われる。ひとつの歌を皆でリレーしたりハモったりすることで、「それぞれ」だったものが大きなエモとドラマの塊になり、クライマックス、カタルシスが訪れ、一幕を締め、第二幕へ話のギアを引き上げる。

 フレーミング・リップス版と違って、ちゃんと現実に世界が終わりそうだし、みんなそれを実感しているし、何とか/何かするぞ!という気持ちに満ち満ちている。元気があるのはいいことだ。もはやまったくの別物で、別の強い文脈の中にある曲だから、この曲単体を取り出してどうこう言ってもしょうがないとは思うが、注目するならば、この歌での主人公スポンジボブが独り歌うパートだろう。微妙に違うものの、ここだけ原曲(原曲?)と歌詞がよく似ている。

 ぼくらには明日しかない
 きみと一緒がよかったなぁ

である。ほかが決意表明やら期待やらをしてる中で、スポンジボブだけは親友パトリックと一緒にいたかったなぁとぼやいている。彼だけが、この大危機の中でちょっと後ろを見てしまってる。ちょっと抜けてるし、とてもピュアだし、ええ子やな、となるポイントだ。そのしれっと入ってるええ子やなポイントが、最もフレーミング・リップスの原曲に近いというのはグッと来るところがある。まぁミュージカルは見てないんだけど。元のスポンジボブもあんまちゃんと見たことないんだけど。でもちゃんと声似てない?めっちゃ似てない?声似せつつちゃんと歌も上手い。すごいね。

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 フレーミング・リップス版は世界が終わるかどうかはかなりどうでも良さそうである。そこが良い。明日、世界の大危機、終末が訪れるからこそ!という気負いがない。明日はどうだっていい。焦点が当てられるのは今日だ。今日に焦点が当てられるのなら、おかしな話だが、明日世界が終わらなくともwe only have tomorrow なのだ。あるいは毎日、きみとぼくと世界は終わっているのだ。なんか、そういうことだ。

※ 昔書いた記事の再録

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