リモート合唱「うたのなか」備忘録(1) 企画意図と下準備

新しい曲は不要ですか?

COVID-19の流行によって、合唱団の練習や本番が軒並み中止される中、多くの歌い手がリモート演奏動画を作成し、動画サイトにアップロードしています。その試みに敬意を表しつつも、作曲家としてはやるせない気持ちになっていました。みんなどうして、過去の名曲ばかりを演奏するのだろう? もう新しい曲は必要とされていないのだろうか?

私は、作曲家も同時代の合唱音楽を一緒に作り上げてきた、と勝手に思っていましたし、今もそう思っています。にもかかわらず、この「非常時」には新しい曲を生み出す作曲家は必要とされていない。そう感じて悔しくも思いましたし、焦りも感じました。

また、それらの演奏動画において、音楽が人々を「癒やし」「元気にする」役割に切り詰められることに少し苛立っていたのも事実です。東日本大震災のときも同じことを感じたのですが、「非常時」には前向きな音楽ばかりが社会に溢れる。まるで音楽はお手頃なサプリメントかなにかのようです。なんだか納得いきません。音楽は「劇薬」であったり「毒」であったりもするから、魅力的だったのではないでしょうか。

互いの声を聞くこと、視覚性を活かすこと

だったら、私なりにリモート合唱のための曲を作ろう。そう思って作ったのが「うたのなか」です。リモート合唱のために書かれた先行作品としては、藤倉大さんの”Longing from afar”がありますが(この作品は器楽でも演奏できますが)、この作品や既存のリモート合唱とは違うことをやってみようと構想しました。

たとえば、リモート合唱練習では伴奏のピアノパートだけを聞き、歌い手は互いの声を聞かないのが効率的です。でも、せっかくですから、伴奏(や指揮)に合わせるのではなく、その場で互いの声を聞きながら歌うことにこだわりたい。録音に関する団員の技術力に頼らず、基本的な設備でできるようにしたい。映像を用いているのだから、演奏(者)の視覚性がかかわる楽曲にしたい。

「リモート合唱をやりたいんだけど」と畏友の合唱指揮者三好草平さんに相談し、いつも私の曲を歌ってくれる合唱団、Lux Voluntatisのみなさんが集ってくれて、無事企画のスタートとなりました。技術的な実験も含め、みなさんにはいろいろとお手数をおかけしました。本当にありがとうございます。(このあと「楽曲・演奏」編、「映像公開・後日談」編へと続きます)

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