【小短編】簡単でつまらないスケッチ
私は実家の近くのチェーン店のテラス席で、完全に腐りきった気持ちで煙草を喫っていた。有名美大を出て、デザイナーとして有名広告代理店に勤め、新進気鋭として独立して、失敗して、借金を抱えて破産し、実家に戻って来た矢先だった。
目の前は、暗澹としていた。真の暗闇だった。
「先生。美術のK先生ですよね」
突然、目を射るような光が差した。驚いて煙草をデッキに落とす。私は胡乱だった眼の焦点を合わせた。
テラスの垣根のすぐ目と鼻の先の歩道を歩いていた、ベビーカーを押した青年が私に呼びかけてい