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気まぐれにゃ訪問者👒

鳥が朝から元気に囀っている

ピヨピヨと鳴いては
朱色の世界を飛び越えて
空を紺碧から蒼碧へと
変えてゆく

鳥居を閉めていた門戸が
開かれ、今日も今日とて
僕の前を色々な人が
通り過ぎていく

眼鏡をかけた人
スーツを着た人
春色ワンピの人

その殆どは僕に目もくれず
ただ立ち去っていくだけ

視線を前に向けて
何処へゆくとも知らず
イソイソと駆けていく

その一方で

中には乗っていた自転車から降りて
鳥居の向こうから頭を下げる人もいる

時々、僕の前に置いてある
木箱や鈴を鳴らして
一所懸命にお祈りする人もいる

被っていた帽子を外して
ちょこんと頭を垂れる幼子は
特に愛らしいものだ

そんな早送りのような景色を
ぼんやりと眺めている内に
太陽は東から西へ移動して

空は蒼碧から朱色へ、そして
再び紺碧へと戻って行く

鳥居の外では門戸が閉められ
僕は1人で見えるか見えないかの星を
見上げる夜を過ごすのだ

唯一の楽しみは月夜にこっそり
抜け出して、他の連中としっぽり
酒を酌み交わすことぐらいか

そんな静かでつまらない時間を
過ごしていた僕の前に
ある日、1匹の猫が現れた

姿形こそ人のそれを模しているが
僕の目には分かる

こやつは猫だ

門戸の向こうからこちらを伺い
少し辺りを見回しながら会釈をして

門番である狛犬に「おはようございます」
とか声をかけながら、僕の所に来た

小さな手に握りしめた五円玉で
僕の木箱や鈴を遠慮がちに鳴らして
パチパチと手を叩き礼をしている

余りにも長いこと時間をかけるので
何を言っているのか少し耳を傾けてやると

初めまして。コネコと申します。
今年は英検1級とTOEIC高得点と
何より自立を目指して励みます。
何卒宜しく御願いしますにゃん!

と3回ほど叫んでいるではないか

やれやれ。変な奴だ。

大抵の人間は
〇〇が出来ますように!
とか
〇〇に合格しますように!
とか
〇〇が上手く行きますように!
とか
お祈りしてくるのに

こやつは自分のしたいことを
大声張り上げて僕の前で
宣言をしている

良いかい、猫よ。
君には僕の声が届いてるか
知らないけど、ハッキリ言おう。

好きにしてくれ!

君には動ける体があって
したい事が出来る自由があるのだろう?

そう言うことがしたくて
生まれて来たのだろう?

だったら他の人に迷惑をかけない範囲で
やりたいようにやれば良いじゃないか〇

ま、僕はそんなことを1人で想いながら
その日は帰っていく猫を見つめていた

あれだけ時間をかけてたんだ

もうそんなに頻繁には来ないだろう

そう考えてい僕だが
結局、その猫はかなりの頻度で
僕のところにやって来た

・今日は行きたい所に行けました!
・今日は友達と楽しく過ごせました!
・今日は試験を無事に終えました!

そんなことを報告しながら
毎回毎回「有難うございます!」と
お礼を伝えてくる

この猫はあれか?
暇なのか?

最初にも述べた通り、
好きにしてくれ!

僕は投げやりに言っていたが
何だかんだ言って実は嬉しい

だってそうだろう?

殆どの人がただひたすらに
通り過ぎていくだけなのに

この猫は時間を見つけては
ひょこひょこと遊びに来て

僕の所に逢いに来るのだ

そうして、お祈りではなく
お礼を伝えて行ってくれる

正直あまり悪い気はしない

この気まぐれな訪問者を少しだけ
待っている僕がいる

そんな時に猫がこんなことを
言っていた

私は旅する猫です。
いつかこの地を離れます。
それでも想いだけでもこちらに
届けに来ますので
宜しく御願いしますにゃん🎶

なに?!
僕の所から離れるのか?!

思わず動揺している自分に気付いて
僕は少しばかり驚いた

分かっていたことじゃないか。
出会いがあれば別れもある

そもそも彼等の命には
期限がある

僕と違ってその期限は短い

ましてや、彼等は
移りゆく者たちだ

猫も人も関係ない

分かっていたことなのに
寂しがっている自分がいて
僕は乾いた笑い声を空に向けていた

ま、それでも良い。
心だけでも僕に会いに来る

そんな殊勝なことを言っている猫だ

仕方ないから、たまには様子を
見守ってやるか

今回の話は今度の酒宴で
良いネタになりそうだ

キット周りの連中には
笑われるかも知れないな

ま、それも悪くは無いだろう

僕の静かでつまらない時間の中で
突然現れた気まぐれな訪問者よ

滅多に言わないから、
耳をかっぽじて聞くが良い

ありがとう
達者でな!

日常と非日常を放浪し、その節々で見つけた一場面や思いをお伝えします♪♪ そんな旅するkonekoを支えて貰えたなら幸せです🌈🐈 闇深ければ、光もまた強し!がモットーです〇