APRIL — Auckland [1995年4月-2] (004)
さて、イースター休日も三日目。
この日も休日のため、ここのバス路線は全て運休。その代わり、乗り合いワゴンタクシーがバスと同じ路線を走っている。乗り降りはバス停でする。乗るとき行き先を告げ、降りるとき声をかける。「次はグレンフィールド前」などのアナウンスは、普通のバスでもないので、当然このミニバスにもない。なので、降りるときが肝心である。降りるべき場所、特にひとつ前のバス停をしっかり覚えてないと乗り越してしまう。
「次だっけ?」
「なんて言えばいいの?」
などとまごついてしまい、降りるべき処で降りることができなかったこともある。
また、たとえダウンタウンに辿り着いたとしても、休日はほとんどの店が閉まっているので、何もすることができない。ニュージーランドの休日は、本当の休日なのだ。
いろいろ考えた揚げ句、連休三日目の今日は「ご近所散策」となった。
オークランドの北に位置するグレンフィールドは、住宅街で広い庭を持つ大きな家が多い。でも決して頭に「高級」は付かない。実に羨ましい限りだ。丘の上からは、ワイテマタ湾に浮かぶランギトト島が望める。オークランドの各所に火山だったという小高い山があり、その島も六百年前の噴火でできたそうだ。
テニスコートや芝ボウリングコート(カーリングのようなもので、老人が好むらしい)を横切り、グレンフィールド・ショッピングモールまで歩く。このモールにある二つの大型スーパーマーケットも今日は休日なので、もちろん休み。イースターのピンクの大きなウサギが、閉ざされたガラスドアの奥で淋しそうに微笑んでいた。隣接の室内プールは営業していた。モワッとした湿気と子供たちの奇声が静まりかえったモールに響いていた。
カレッジ(高校に当たる)のグランドでラグビーの練習を見学し、再び住宅街に入る。目に付くのは、やはり庭。綺麗に刈り込まれた芝生。オレンジやレモンの樹木。イチイの濃い緑。青い空に真っ直ぐと伸びたニカウパーム。淡紫色の紫陽花や蘭の花が素敵だ。しかし、枝をバッサリ切られたプラタナスや白樺は実に情けない。手足を折られた巨人のマネキンがその美しい庭に立たされているように見える。
「キーウィ・ボンサイ」
と、シェルは呼んでいた。
オークランドの冬は強い風が吹き、毎年倒木事故が起こるらしい。そのため、冬が来る前に庭木の枝打ちをするのだそうだ。だから、この時季、庭を褒めようにも「いい芝生ですね」としか言葉が出てこない。
また、どの庭にも布を毟り取られた骨だけのビーチパラソルのような物干しがある。これは風を受け回転するので乾きが早い。ホームステイ先にもある。普段は乾燥機を使うが、化学繊維や天気のいい日はそこに干す。しかし、あのいえでは、日が暮れても取り込むことがまず無い。夜も干す。夜露に濡れたので引き続き干す。雨が降ってきても干したまま。また濡れたのでやっぱりそのまま干し続ける。最長記録で八日間。三度の雨の中、洗濯物はカラカラと回っていた。そのため、カミサンはその物干しにぼくらの洗濯物があったら、日中雨が降らないことを祈り、学校から戻ると真っ先に洗濯物を取り込むのである。
「あっ、洗濯物!」
と彼女は突然小声で叫んだ。今朝、良い風が吹いていたので、出掛けに洗濯ものを干してきたのを思い出した。ぼくらは、白い雲が点在する日が傾きかけた空の機嫌を窺いながら、家路を急いだ。(3に続く)
ホストファミリーのシェルと件の物干し。ホームステイ先の庭にて。
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