掌編小説「めんつゆの海を泳いで」
土曜日、遅めの朝食に素麺を茹でることにした。
梅干しを一粒入れた鍋にたっぷりの水を沸かし、素麺を三束解いた。化粧木箱入りの上等なそれは、義姉からお中元に頂いた代物だ。
「起こしてもよかったのに」
まだ眠たそうに欠伸をする千夜は、寝巻きのままでエプロンを締めている。
「いいよ。折角の休日なんだから」
妻は意外と朝に弱い。昨夜は遅くまで韓国ドラマに夢中になっていたから、寝坊をしても仕方ない。
僕はといえば、普段の平日と変わらずに目が覚めた。
まずはリビングの窓を開けて