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燻る(くすぶる) 忘田 正司

近くの公園にでかけた。適当なベンチを見つけ腰掛ける。公園には、大学生と思しき男子がサッカーをしている。向こうの方には、高校生と思しき女子がバトミントンをしている。
 僕は、おにぎりを食べる。ここにくる前に、握ってきた。パリパリの海苔も一緒だ。実に平和だ。持ってきたおにぎりは全部で2個。5分ほどで食べてしまった。おにぎりの入った容器を片付け、この近くが載った地図を広げる。

            明日は、何処にいこうか。

気晴らしに、ピアノを弾く。こんな曲も弾いたなと思いながら楽譜をペラペラとめくる。ピアノを習うことを止めてもう20年以上経つだろうか。試しに弾いてみる。左手が、ファを押さえている。不思議なことに、20年経っても僕の指は、この曲を覚えているみたいだ。僕は、すっかり忘れているのに。正確にいうと、僕の脳みそが忘れているのだろう。
そう考えると、僕の体だけれど、僕の指と僕の脳みそとは別のもののように感じてしまう。僕の脳みそが、忘れてしまったときには僕の指が教えてくれる。僕の目も、手も、鼻も口も足も全部、別々の記憶を持っている。

 目の前の桜を見て、たまらない気持ちになるのは何故だろう。

きっと、僕の目が『あの時の桜だよ。』と教えてくれているのだろう。

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