見出し画像

【内容一部公開】現代数学の最高峰へ!――近刊『数論幾何入門‐モジュラー曲線から大定理・大予想へ‐』

2024年5月下旬発行予定の新刊書籍、『数論幾何入門‐モジュラー曲線から大定理・大予想へ‐』のご紹介です。
同書の一部を、発行に先駆けて公開します。


***

はじめに

数論幾何学とは、一言で言えば、整数係数の代数方程式によって定まる図形を研究する分野である。主に複素数係数の代数方程式によって定まる図形を研究する代数幾何学とは異なり、その図形の上に座標が有理数であるような点がどのくらいあるかという問題や、その図形を定義する方程式を素数に関する合同方程式と見て、それにどのくらい解があるかという問題を考察の対象とできることが特徴である。前者の典型例がフェルマー予想であり、後者は平方剰余の相互法則の一般化となっている。このように、素朴な整数論の諸問題としばしば直接結び付き、それらに新たな知見や本質的な進展をもたらすことができる点が数論幾何学の最大の魅力である。

数論幾何学を学ぶには、膨大な予備知識が必要であるとよく言われる。確かに、理論全体を証明込みで理解するためには、スキーム論や代数的整数論を始めとした、多くの知識を身に付けていることが必須である。しかしその一方で、数論幾何学が扱っている現象そのものの中には、予備知識がほとんどなくても、その魅力を感じられるものが数多く存在する。この本では、フェルマー予想、志村‐谷山予想、ラングランズ予想、佐藤‐テイト予想、BSD予想、ヴェイユ予想(このうちラングランズ予想とBSD予想のみが未解決であり、他は解決済みである)といった、現在の数論幾何学における大定理・大予想の内容を、例を中心に解説することで、広い範囲の読者に数論幾何学の面白さを伝えることを目標とする

本書では、モジュラー曲線という対象を主要な例としてとりあげる。モジュラー曲線とは、大雑把には複素上半平面(複素平面の上半分)を折り畳んでできる図形のことであるが、こう言っただけでは、その重要性は伝わらないだろう。モジュラー曲線を例に選んだ理由はいくつかあるが、何よりもまず、実際の研究において中心的な役割を果たしているからである。例えば、志村‐谷山予想やBSD予想は楕円曲線という対象に対する予想であるが、その研究を進めるには、モジュラー曲線が不可欠である。他の理由としては、モジュラー曲線を学んでいく過程で、楕円曲線や保型形式といった、数論幾何学における他の重要な登場人物にも自然に親しめることや、一見すると方程式で書けないような対象の方程式を求めるという、数論幾何学の重要な技法の1つに触れられることなどが挙げられる。本書の前半部では、モジュラー曲線の導入を行い、楕円曲線や保型形式との関わりを眺めつつ、モジュラー曲線が整数係数の方程式で表されるという現象を観察することを目標とする。後半部では、前半部で手に入れたモジュラー曲線の方程式を鍵として、上述の大定理・大予想の内容を理解することを目指す。前半部で出てきた保型形式が、後半部で特に大きな役割を果たす様子をぜひ楽しんでいただきたい。

本書は、東京大学教養学部前期課程の全学自由研究ゼミナールで大学1・2年生を対象に行った講義をもとにしたものであり、高校までで学ぶ内容を超えた予備知識は極力仮定しないように努めている。特に、代数分野からの予備知識は、線型代数も含め、基本的に不要である。解析分野に関しては、微積分の基礎にある程度の親しみがある読者を想定している。収束性や、微分・積分と無限和の交換などの微妙な点を認めてしまうことにすれば、多くの部分が高校までの数学の知識で理解可能なはずである。複素解析も用いるが、最低限の内容については付録で解説を行っており、それを認めて読み進めれば雰囲気は十分に伝わると思われる。集合と写像の記法・用語については、使わないとかえって分かりづらくなると思われるので、使うことにする。証明を含めた理論の修得を目標とする本ではないため、難しいと感じた箇所は遠慮なく読み飛ばし、面白いと感じられる部分を探す読み方を勧める。読み飛ばした部分は、知識や経験を補った後で再度挑戦していただければ、初読の際とは異なる面白さを発見できることだろう。

(後略)

***
 

東京大学 三枝 洋一(著)


《数論幾何学の世界をめぐるための格好のガイドブック》

整数論の問題を幾何学的手法で解く――それが数論幾何学と呼ばれる代数学の分野です。フェルマー予想をはじめ、志村-谷山予想、ラングランズ予想、佐藤-テイト予想、BSD予想、ヴェイユ予想といった魅力的な大定理・大予想を数多く備えながらも、その理論は非常に抽象的かつ難解であるがゆえに、これまで初学者への門戸は開かれていませんでした。

本書は、そんな数論幾何学の世界に足を踏み入れるための入門書です。抽象的な一般論ではなく、「モジュラー曲線」と呼ばれる具体例を軸に解説されているので、特別な予備知識がなくても数論幾何学の考え方が理解できます。

前半では主にモジュラー曲線について解説し、後半では上記の大定理・大予想の内容の理解を目指します。

【そのほかの本書の特長】
・予備知識は大学教養レベルの数学だけ。行列の基礎から丁寧に解説します。要所要所で必要になる複素解析の基礎も付録に収めました。
・具体的な計算例題を多数掲載。手を動かしながら考えることができるので理解が深まります。
・詳細な参考文献ガイド付き。本書を読んで面白いと感じた箇所が深掘りできます。


【目次】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?