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【内容一部公開】待望の和書!――近刊『ガロア圏と基本群』

2024年7月下旬発行予定の新刊書籍、『ガロア圏と基本群』のご紹介です。
同書の一部を、発行に先駆けて公開します。



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まえがき

本書は、グロタンディークによるガロア圏の観点からガロア理論について解説するものである。書き方としては、教科書風に丁寧にしっかりと書くというスタイルに努めた。

ガロア理論は代数方程式の解法の問題から生まれた。方程式の解法論とはよばれず、ガロア理論とよばれる所以は、ガロア(1811–1832)が方程式の背後にガロア群という構造を見出した独創性にある。群の概念はガロア以前にも運動や変換という形で数学者の胸にあったと考えられるが、方程式の解法をその根たちの置換群の構造に帰着せしめたのは、ガロアの飛躍的な発想である。ガロア自身、「計算の洗練といっても限界があり、それを超えて、本質的な問題の分析によって研究していくべきである」と述べたと伝えられているが、ガロア理論の意義は、方程式論にとどまらず、その後の数学の発展において構造主義という思想、方法論をもたらした点にあるといえる。ある対象の構造とそれを不変にする変換群という考え方は、クラインによれば、幾何学そのものでもある。

現在、大学で学ぶガロア理論はガロアの原典とは異なり、ガロアの没後1世紀以上にわたり整理されたもので、線形代数に基づき、ガロア対応を中核とする体の拡大の理論である。その間、リーマン面や20世紀に始まる位相幾何学の発展において、体の拡大と類似する枠組みをもつ被覆空間の理論が築かれた。グロタンディーク(1928–2014)はこの両者、すなわち拡大体と被覆空間の理論の背後にある共通の構造—ガロア圏—を見出した。圏の概念はすでに流布していたが、(副有限)群が作用する有限集合全体の構造を圏論的に公理付け、代数学と位相幾何学を繋ぎ、代数幾何学など他の状況にも適用できる枠組みを創出したのは、グロタンディークの独創性による。まさに、ガロアのときと似たような構造主義的な飛躍といえよう。ガロア圏においては、付随する基本関手の自己同型群—基本群—が方程式の根たちの変換群に相当する。

本書の目的は、このグロタンディークのガロア圏と基本群の理論について丁寧に解説することである。大学のカリキュラムにおいては、体の拡大のガロア理論と被覆空間の理論はそれぞれ代数学と幾何学で別々に講じられているが、両者をガロア圏の視点から統一的に再履修することは、数学をより深く理解するうえで有意義である。数学は一つであるという感覚が培われ、視野を広くするうえで教育的にも良いと考える。本書も拡大体と被覆空間のガロア理論の復習から始め、圏論の基礎からガロア圏の理論を詳述した後、両者を統一する。続いて、スキームのエタール被覆のガロア理論を解説する。学部レベルから出発し、十分に理解できるように、証明を含め、丁寧にしっかり書くように努めた。

各章の内容は以下のとおりである。第1章では、大学で通常履修する拡大体と被覆空間のガロア理論を復習する。第2章では、圏と関手の基礎事項を扱う。第3章では、圏論において種々の概念構成に有用である極限について述べる。第4章では、ガロア圏の理論を詳述する。ガロア圏とその基本群を導入し、主定理とその証明を与える。第5章では、第1章の拡大体と被覆空間の理論をガロア圏の視点から統一する。第6章では、スキーム理論の基礎およびスキームのエタール被覆のガロア圏とその基本群を扱う。また、本文中に問を、章末に問題を入れ、解答も丁寧に書いた。本書が独習、ゼミ、講義のための教科書や参考書として役立つなら幸いである。

(後略)

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九州大学 森下昌紀(著)

 【目次】
 第1章 拡大体と被覆空間のガロア理論
  1.1 体の有限次拡大のガロア理論
  1.2 副有限群
  1.3 体の無限次拡大のガロア理論
  1.4 位相的基本群
  1.5 連結被覆空間のガロア理論
  章末問題1

 第2章 圏と関手
  2.1 圏
  2.2 関手
  2.3 自然変換
  2.4 表現可能関手と普遍性質
  章末問題2

 第3章 極限
  3.1 帰納極限と射影極限
  3.2 ファイバー余積とファイバー積
  3.3 余差核と差核
  3.4 完全性と強全射
  章末問題3

 第4章 ガロア圏と基本群
  4.1 ガロア圏と基本関手
  4.2 基本群と主定理
  4.3 主定理の証明
  4.4 基本群の連続準同型写像とガロア関手
  章末問題4

 第5章 拡大体と被覆空間のガロア理論再論
  5.1 体上の有限次エタール代数のガロア圏
  5.2 位相空間の有限次被覆のガロア圏
  章末問題5

 第6章 スキームのエタール被覆のガロア理論
  6.1 層とスキーム
  6.2 スキームの射の性質
  6.3 スキームの有限エタール被覆のガロア圏
  6.4 エタール基本群
  章末問題6

 問題の解答


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