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【まえがき公開】サイズ公差・幾何公差・公差解析を使いこなす――近刊『幾何公差・公差解析実践ハンドブック』

2023年6月下旬発行予定の新刊書籍、『幾何公差・公差解析実践ハンドブック』のご紹介です。
同書の「まえがき」を、発行に先駆けて公開します。



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まえがき

本書は、幾何公差・公差解析の入門書ではなく、これまで実務において設計・公差解析の経験があり、さらに、幾何公差を適用した図面に触れたことはあるが、本当にこれで正しいのかという思いを抱いている、一定の経験をもったエンジニアを対象にしている。初めて幾何公差・公差解析を学ぶのであれば、それらを各々解説した良書はすでにあるので、一読されるとよい。他書にはあまり記述が見られない本書の利点を以下に挙げる。

  • 幾何公差で図面を描く場合に、まず、+-公差方式で指示すべきか、幾何公差方式で指示すべきかに迷うので、その判定方法を詳細に示した。

  • 幾何公差で最も難解な、最大実体公差方式について詳細に述べ、その必要性・用途・計算方法・注意点をまとめた。

  • 最大実体公差方式を使って初めて成立するような、部品と部品とを組み立てる指示方法の例を多く示した。

  • がたの解析について、従来にない式、グラフィカルに理解できる方法を紹介した。

  • 公差解析について、従来の書籍で述べられているワーストケース、二乗和平方根よりも進んだ解析方法を、主にアメリカの文献を詳細に調べ紹介した。

  • 幾何公差を含む公差解析について、監修者の指導をもとにまとめ直した。

最近、幾何公差が注目されている。従来の図面指示の曖昧さを排除して、一義な解釈ができる図面の必要性が日本の技術者に認められつつある。ところが、図面の指示が正しいだけでは、設計製図としては片手落ちで、公差解析が必要である。これらが揃って、初めてよい設計ができ、よい図面を描くことができる。しかし、日本の書籍はいずれか一方に重きを置いたものがほとんどである。一方、幾何公差を適用した製図が進んでいるアメリカには、幾何公差を適切に用いた公差解析の書籍がある。本書を監修したBryan R.Fischer氏(以後、ブライアン)の著書がよい例である。彼の著書は470ページにもわたる。公差解析について何をそこまで語ることができるのか、という疑問から出発して、2年ほどかけて翻訳して理解に努めた。そして、2017年にアメリカに留学する機会を得て、彼の講習を延べ3週間受けて交流を深めた。彼は、アメリカ機械学会の製図規格ASME Y14.5の委員を務めている、幾何公差・公差解析の専門家である。アメリカではこういった専門家のことをDimensional Engineerとよんでいる。本書は、ブライアンの著書を日本向けに書き直すところから出発したはずだったが、日本ではあまり普及していない最大実体公差方式、そして“サイズ”の記述を大幅に増やしたり、筆者の研究の中から生まれたがたの計算方法を加えたりしているうちに、彼の著書とはまったく別の書籍になった。

ところで、日本の図面は、欧米よりも遅れているといわれて久しい。JIS B 0401:2016、JIS B 0420:2016では、「この状態を看過すれば、図面鎖国状態になりかねない」という言葉で警鐘が鳴らされている。筆者は、もともと図面を厳密に描こうとする会社に勤めていたからか、正しい図面の描き方に興味があった。その後、高等専門学校の教員になり設計製図を担当するようになってからは、標準的な図面の描き方について興味が湧き、その行きついた先は、サイズ公差・幾何公差を適切に使った図面の描き方であった。こういう図面を描くことを、アメリカではGD&T(Geometrical Dimensioning & Tolerancing、幾何寸法及び公差記入法)とよび、ISOでは、GPS(Geometrical Product Specifications and Verification、製品の幾何特性仕様)とよぶ。

アメリカからの帰国後に、幾何公差で描かれた図面を民間企業のエンジニアに読んでもらう機会があったが、中堅以上のエンジニアでも違和感をおぼえた人が多いようであった。本書を手に取ってくださった読者諸賢も、しばらくの間は幾何公差を使った図面に違和感をおぼえるかもしれない。ただ、その違和感が新しい考え方を修得する第一歩になると信じている。

一方、公差解析は、ワーストケースや二乗和平方根までできればある程度の実務を行うことはできるが、その先はどうなるのかについては、あまりご存じないエンジニアが多いように思う。そこで、公差解析の発展過程を調べ、なるべく体系化して解説した。

(以下略)

***

TDP360  Bryan R. Fischer (監修)
関東学院大学 金田 徹(監修)
関東学院大学 鈴木 伸哉(著)

一歩進んだ設計製図の方法を知りたい方、より詳細な公差解析を行ってみたいエンジニア必読!
 
サイズ公差・幾何公差の使いかたから解析方法まで、多数の設計例をもとに解説した実践的ハンドブック。
 
本書では、幾何公差・サイズ公差の使い分けはもとより、サイズ公差の適用判定例・最大/最小実体公差方式・がたの解析・公差の累積モデルの使い分けといった、機械の設計製図の実務をより詳細に行うための幅広いトピックを、JIS・ISO規格だけでなく、ASME規格も参照しつつ紐解きます。


【目次】
第Ⅰ部 サイズ公差および幾何公差

 第 1 章 はじめに
  1.1 公差とは
  1.2 新しい用語
  1.3 公差,許容差,ばらつき,サイズ差の区別
  1.4 寸法および公差の表示方式
  1.5 最大実体状態および最小実体状態

 第 2 章 サイズ公差と幾何公差の使い分け
  2.1 サイズ,サイズ公差,サイズ形体
  2.2 長さに関わるサイズ
   2.2.1 円筒 
   2.2.2 相対する平行二平面 
  2.3 角度に関わるサイズ
  2.4 機能・性能を考慮したサイズ公差と幾何公差の使い分け
  2.5 寸法と公差との関係
  2.6 完全でないサイズ形体
  2.7 サイズ公差の適用判定例
   2.7.1 円筒への判定例 
   2.7.2 直径,半径への判定例 
   2.7.3 相対する平行二平面の判定例 1
   2.7.4 相対する平行二平面の判定例 2
   2.7.5 各種形体の判定例 
   2.7.6 高さ,深さの判定例 
   2.7.7 かど・隅・エッジの判定例 
   2.7.8 かど・隅・エッジの判定例 2
   2.7.9 軸,穴の判定例 
   2.7.10 プレス部品の判定例 

 第 3 章 長さに関わるサイズ
  3.1 局部サイズおよび全体サイズ
  3.2 独立の原則および包絡の条件
  3.3 長さに関わるサイズの指定条件
  3.4 サイズの指定条件の組合せで構成されるサイズ
  3.5 サイズの指定条件に対応する測定例

 第 4 章 幾何公差
  4.1 幾何公差の概要
  4.2 公差域
  4.3 設定する幾何公差の包含関係
  4.4 外殻形体および誘導形体
  4.5 中心軸線および中心平面
  4.6 幾何公差に関わる指示
   4.6.1 公差記入枠 
   4.6.2 誘導形体への幾何公差の指示 
   4.6.3 外殻形体への幾何公差の指示 
   4.6.4 データムの指示 
   4.6.5 理論的に正確な寸法の指示 
  4.7 形状公差
  4.8 データム
   4.8.1 データムの基本的な考え方 
   4.8.2 物理的な方法で導くデータムの設定例 
   4.8.3 理論的な方法によるデータムの設定例 
   4.8.4 データム系,データムの優先順位 
   4.8.5 共通データム 
   4.8.6 形体グループのデータム
  4.9 姿勢公差
  4.10 位置公差
  4.11 公差の組合せ
  4.12 振れ公差
  4.13 普通幾何公差

 第 5 章 サイズ公差と幾何公差との関連
  5.1 最大実体公差方式
  5.2 最大実体公差方式の形状,姿勢,位置公差への適用
  5.3 ゼロ幾何公差方式
  5.4 最大実体公差方式あり/なしの比較および用途の違い
  5.5 最小実体公差方式
  5.6 データム形体への最大実体公差方式の適用

第Ⅱ部 公差解析

 第 6 章 組立ての条件
  6.1 サイズ公差と形状公差とが関係する組立て
  6.2 サイズ公差と姿勢公差とが関係する組立て
   6.2.1  1つ穴の組立て
   6.2.2 凸と溝の組立て
  6.3 サイズ公差と位置公差とが関係する組立て
   6.3.1 同軸形体の組立て 
   6.3.2 キーの組立て 
   6.3.3  2つ穴の組立て
   6.3.4 多数穴の組立て
   6.3.5  2つ穴の位置決めのうえでの別のサイズ形体の組立て
   6.3.6 穴と長円の穴の組立て
   6.3.7 六角はめあい
 6.4 位置度の式
   6.4.1 浮動する締結部品の場合
   6.4.2 位置度の式(固定された締結部品の場合)

 第 7 章 がたの解析および計算
  7.1  1 次元のがた
  7.2 がたと幾何偏差との関係
  7.3  2次元のがた
   7.3.1  2つ穴のがた
   7.3.2 穴と長円の穴のがた

 第 8 章 公差解析のための統計
  8.1 母数および統計量
  8.2 正規分布
  8.3 正規分布の確率
  8.4  3 シグマのルール
  8.5 工程能力指数Cp
  8.6 かたよりを考慮した工程能力指数,最小工程能力指数Cpk
  8.7 さまざまな確率分布
  8.8 確率変数の和および差の分布
  8.9 モンテカルロ法
  8.10 システムモーメント法

 第 9 章 公差の累積1
  9.1 公差の累積
  9.2 ばらつき
  9.3 中央値変換
  9.4 ワーストケース
  9.5 二乗和平方根
  9.6 さまざまな公差の累積モデル
  9.7 公差累積のループ
  9.8 公差累積の感度
  9.9 公差の寄与率
  9.10 公差累積表

 第 10 章 公差の累積2
  10.1 工程能力指数と公差の累積との関係
  10.2 不適合率の計算
  10.3 統計的な仕様の指定方法
  10.4 幾何公差の累積
  10.5 幾何公差に最大実体公差方式を適用した公差の累積
  10.6 データム参照に最大実体公差方式を適用した公差の累積
  10.7 がたによる公差の累積
  10.8 半径の公差の累積
  10.9 公差解析のソフトウェア
   10.9.1  Apogee
   10.9.2  CETOL 6σ

 第 11 章 公差解析の例
  11.1  1次元の公差解析
   例 11.1 最も一般的な公差解析 
   例 11.2 さまざまな工程能力指数の部品を含む公差解析 
   例 11.3  6シグマモデルによる平均シフトを考慮した公差解析 
   例 11.4 推定平均シフトモデルを用いた公差解析 
   例 11.5 一様分布の公差解析
   例 11.6 いくつかの種類の分布を組み合わせた公差解析 
   例 11.7 一様分布するがたの解析 
   例 11.8  β分布で想定するがたの分布 
  11.2  2次元から1次元に変換する公差解析
   例 11.9 感度解析 
   例 11.10 半径の公差解析 
   例 11.11 てこ比を考慮した公差解析 
   例 11.12 総合的な公差解析(外装の位置決め,ねじの組立てなど)

 おわりに
 参考文献
 索引

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