日本版ジョブ型時代のキャリア戦略

◆キャリア意識の低い日本人ビジネスパーソン
 私たち、ビジネスパーソンにとってキャリアは人生における最も大きな課題のひとつです。しかし、非常に残念なことに、日本人ビジネスパーソンのキャリア意識は世界のなかで突出して低いようです。パーソル総合研究所が2019年におこなったAPAC14カ国の意識調査では、衝撃的な結果が出ています。「キャリアの満足度」、「昇進に対する意欲」、「進退に対する意識」、「自己研鑽の意欲」について、日本人ビジネスパーソンはいずれの項目でも、断トツの最下位となっています。
 この結果を踏まえると、日本人ビジネスパーソンのキャリア意識は次のような傾向があると言えます。
• 勤務先や仕事に満足をしていない
• 現在の会社で昇進したいという上昇意欲は少ない
• 現在の勤務先に継続勤務はあまりしたくない
• しかし、転職したいわけではない
• 自己研鑽に対して積極的ではない
 つまり、現状に対する不満はあっても、状況打破に向けたアクションに意欲的なわけではない。まさに、「キャリア意識の低さ」が浮き彫りになっているのです。

◆キャリア意識を削ぐ日本独特のメンバーシップ型雇用
 このキャリア意識の低さは、必ずしも日本人ビジネスパーソン個々の責任ではありません。今まで多くの日本企業は、意図的ではないにせよ、社員を「キャリアの無思考」に陥らせるような人事運用をしており、その責任は小さく無いと言えます。
 この背景を簡単に解説しましょう。日本企業では、メンバーシップ型雇用を前提としたヒトを基軸においた人材マネジメントをおこなってきました。メンバーシップ型雇用とは、「職務の合意がない雇用スタイル」のことです。一方でジョブ型雇用とは、「職務の合意がなされた雇用スタイル」のことであり、海外で一般的な雇用スタイルになります。
 両者の大きな違いのひとつは、任命権です。メンバーシップ型雇用では、会社が強い任命権を持ち、社員の配置・異動をおこなっていきます。一方で、ジョブ型雇用では、職務合意が雇用の大前提であるため、会社が一方的に社員の配置転換をおこなうことはできません。
 これが、キャリア意識に大きな影響を与えてきたのです。海外では、自分で職務を選択し、会社と職務ベースで雇用契約を交わすという自己選択が当然のようにおこなわれています。しかし、日本企業では異なります。企業が強い任命権を持ち、社員の配置・異動を決めてきました。そのため、社員本人のキャリアに対する自己選択の余地が非常に小さくなるのです。日本の就職活動は「就職ではなく、就社である」と良く言われますが、職業選択をするというより、会社選択をするという意味合いが、この言葉からも強く表れています。そして、一旦、就社すると、キャリアは「会社任せ」になってしまうのです。キャリアに対する自己選択の意味合いが薄く、「キャリア意識の低さ」につながっているのです。

◆「会社任せのキャリア」はリスクが大きい
 しかし、日本人ビジネスパーソンは今後も「会社任せのキャリア」で良いかと言うと、そういうわけではありません。それは、大きく2つの理由があります。
1. 企業の存続の不確実性
2. 日本企業のジョブ型へのシフト
 まずは、企業の存続の不確実性についてです。企業を取り巻く環境は不確実性を増しています。天変地異やウィルス、国際情勢の変化、環境問題、新たなイノベーションの勃興など、様々な不確実要因がビジネスを左右します。安定しているとみられていた企業が一気に苦境に立たされることなどが、最近では珍しいことではありません。会社任せのキャリアの大前提は、会社が存続してこそ、です。企業の平均寿命は短期化していると言われており、そのリスクはかつてなく高まっていると言えるでしょう。一方で、個人のキャリアは長期化することが見込まれます。高齢者雇用安定法が改正され、企業には70歳までの雇用努力義務が求められています。少子高齢化が続く以上、この流れは不可逆と言って良いでしょう。キャリアが長期化するなかで、新卒から定年まで、同じ企業で働き続けられると捉えるのは、あまりに楽観的すぎると言わざるを得ません。「会社任せのキャリア」が通用するのは、同じ会社のなかだけです。いざ、会社の危機がおとずれたときに、自立的なキャリアの備えをしていないと、大きなキャリアリスクを抱えることになるのです。
 もうひとつの理由は、日本企業のジョブ型へのシフトです。現在、多くの企業がジョブ型人事制度の導入をおこなっています。これは、雇用そのものをジョブ型雇用に切り替えるのではなく、人材マネジメントを「ジョブ型」に切り替えようという動きです。
 メンバーシップ型雇用は新卒一括採用によるものですが、採用の効率性からなかなか日本企業は手放すことができません。しかし、年功序列的な「処遇」やヒト起点の「仕事の進め方」に大きな課題があるのは事実です。
 そのため、メンバーシップ型雇用を継続しつつ、ジョブ型の人材マネジメントを取り入れていくハイブリッド型の「日本版ジョブ型」を多くの日本企業が目指しているのです。ジョブ型の人材マネジメントで重要なポイントは、職務(ジョブ)の職務価値をもとに決まる「処遇」や、事業・組織戦略起点で職務を設計し、その職務をこなせる人を配置する「仕事の進め方」になります。ヒトではなく、職務(ジョブ)を中心とした人材マネジメントへとシフトしていくのです。
 これは、社員のキャリアにとっては、大きなルールの変化になります。今までは、会社に任せていれば、キャリアの階段が個々人にあわせて提示されてきました。長年、勤め上げれば、年功的に処遇も引きあがってきました。しかし、今後は会社が事業・組織戦略起点で職務を提示することになり、個々人にあわせたものではなくなります。職務への配置の判断基準は、実績が重視されることになります。「できるか/できないか」という判断になり、「できそうな人」にキャリアの機会は優先的に回っていくようになるのです。そして、キャリアの階段があがれる人とあがれない人で、処遇に大きな開きが出てきます。このようにキャリアの二極化が進んでいくのです。
 だからこそ、能力開発をおこない、良質な経験を積むための、ジョブ型時代にマッチしたキャリア戦略をビジネスパーソンは持たなければならないのです。「日本版ジョブ型」を取り入れる企業が増え、いよいよジョブ型時代が到来しつつあります。日本人ビジネスパーソンは「会社任せのキャリア」から脱却し、自立的なキャリア形成が求められるようになってきているのです。

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