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『鉄空気電池、コンクリート電池、砂電池。チープ革新的な電池の発明』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.1.25

■リチウムイオンより10倍安い「鉄空気電池」量産開始へ

マサチューセッツ州に拠点を置くスタートアップ「Form Energy」が、「鉄空気電池」工場建設計画を発表しました。鉄空気電池はリチウムイオンバッテリーより安価に製造可能かつ電力を長時間供給可能な技術として注目されており、2024年には量産開始予定とされています。

web3やメタバースなどは電気がないと使えません。
もちろん日常生活全般で電気の重要性は年々歳々高まっていてweb3に限った話ではないのですが。

とはいえweb3なことを日々考えている中で自然と電池や発電に関心が向きます。

今回は「鉄空気電池」をはじめとする、ちょっと変わった蓄電・発電・エネルギー保存の技術開発をご紹介したいと思います。


・鉄空気電池

鉄空気電池は鉄や水を材料とした蓄電池で、リチウムやコバルトなどを材料とするリチウムイオンバッテリーと比べて10分の1のコストで生産可能とされています。

鉄空気電池は重量が大きいためスマートフォンや電気自動車などの用途には向きませんが、「大量の電気を蓄えて、数日間にわたって電力を供給し続ける」という用途には適しているとのこと。このため、鉄空気電池は電力供給網を安定化させるための蓄電池として注目されています。

これまでの蓄電池はニッケル・カドミウム・コバルト・リチウム・プラチナなどのレアメタルを使っていました。そのため「リチウムイオン電池」など名称がちょっと豪華でしたが、今回開発され量産工場が作られる計画となっているのは「鉄空気電池」です。

鉄は地球上に非常に豊富にあります。空気も豊富にあります。

レアメタルという文字通り希少な資源に頼らずに電気エネルギーを保存できるとしたら安く実現できそうですね。

Form Energyは、自社が開発している鉄空気電池について「従来の発電所と同等のコストで100時間分の電気を蓄えられる」「異常気象などで再生可能エネルギーを産出できないタイミングが長期間続いた場合でも、電力供給網を安定状態に保てる」とアピールしています。

発電所と比較しているのでいわゆる電池というイメージのサイズではなさそうですが、地域にひとつ設置してエリアカバーするような使い方ができるかもしれません。

余談。
ふと「すべての惑星は鉄でできていると言っても過言ではない」なんてことを昔聞いたような気がしたので、地球にある金属で最も多いのは鉄なのかな?マントルは鉄が溶けたものなイメージがあるし、と思ってググってみましたが、

地球上にある金属で最も多いのはなんとアルミニウムなのだそうです。へー。


・コンクリートバッテリー

Energy Vaultのコンクリートバッテリーの仕組みは水とダムを使用する代わりに、コンクリートブロックとクレーンを使用するというものです。コンクリートバッテリーは、揚水式水力発電で行っていた水のくみ上げの代わりにコンクリートブロックを高く積み上げていき、電力需要が一定を超えたときに積み上げられたコンクリートブロックをクレーンで順番に地面に下ろしていきます。このブロックを地面に下ろすタイミングでケーブルに発生する落下エネルギーが電力として供給されることになります。

化学変化で電気を生み出すのではなく、位置エネルギーで電気を生み出すものも広い意味で「電池」と捉えます。

高所と低所に貯水池(ダム)を作り、電力需要の多い時に高所から低所へ水を流して電力を発電し、需要が少ないタイミングで低所から高所に水を引き上げて、電力需要の高い時に備えてエネルギー貯蔵を行っています。

水を高いところに汲み上げる時のエネルギーの方が、それを低所に流して得られる電力よりも多くかかってしまいますが、発電しすぎたエネルギーを蓄えて電気がたくさん使われる時間に取り出すという需給調整装置としての「電池」です。

これまでは水と水力発電装置を使っていましたが、地形的に山岳地帯にしか作れず、山を切り開くことの環境負荷も高いことから、山岳地帯以外でも設置可能な「クレーン+コンクリートを詰めたドラム缶みたいなもの」で位置エネルギーの上下動を実現する設備が編み出されました。

大きな音がするので山岳地帯なみに人がいないところに設置するしかないのが難点ですが、人さえいなければ地形の自由度が高いのは魅力です。

まさしくクレーンとドラム缶なのですが、これがちゃんと「電池」に見えた人は物理の履修者です。

リチウムイオン電池に匹敵する効率でエネルギーを蓄積・取り出すことができ、同じエネルギー量で比較すると半額以下、ドラム缶部分の中身を建築廃材などにすればより安価で環境にも優しい、そして大型化すれば2,000軒の家庭1日分の電力を賄える、というものだとのこと。

同じような仕組みを地下に作ってしまうプロジェクトもあるようです。こちらは地下深く掘削してピストン状の設備をきっちり作る想定で高額な費用がかかります。

屋外にクレーンで作るより強風の影響を受けないのは良い点ですが、発展途上国などこれから電力需要が高まる地域ではクレーン+ドラム缶の安価な設備の方が需要がありそうです。


・砂電池

クリーンなエネルギーとして太陽光発電や風力発電に注目が集まっていますが、これらの再生可能エネルギーはいつでも発電ができるわけではないので、化石燃料からの移行には安価かつ大容量な蓄電池が欠かせません。そのため、これまでコンクリート溶融塩などにエネルギーを蓄えるアイデアが登場してきました。さらに、フィンランドの企業が世界で初めて砂に熱エネルギーを蓄える「砂電池」の商用運転を開始しました。

鉄、空気、コンクリートや建築廃材など、手に入りやすいものを使って安価にエネルギーを保存する方法としてご紹介しましたが、最後は「砂」です。

砂漠は地球上にたくさんありますし、赤道直下に限らず上記でご紹介されているフィンランドにだって砂はたくさんあります。

その砂を使ってエネルギーを保存するというのが「砂電池」です。
しかし電気を蓄えるわけではありません。風力や太陽光などで得られたエネルギーを熱として蓄えて、熱のまま利用します。

断熱タンクの中には100トンの砂が詰められており、中心にある熱交換器で加熱することで8メガワット時(公称定格100キロワット)に相当する熱エネルギーを蓄えることが可能とのこと。貯蔵した熱エネルギーは必要に応じて取り出すことができるので、Vatajankoskiはこの熱と自社のデータサーバーの熱を周辺地域の暖房システムに供給し、建物の暖房や温水プールなどに役立てています。

発電所は常に余剰に発電していますし、再生可能エネルギー系の発電方法は天候や日時による発電ムラが大きな問題になります。

また発電された電気は最終的に熱として利用されるケースがとても多いことから、適温であれば熱を熱のまま利用した方が効率的です。

Polar Night Energyの最高技術責任者であるMarkku Ylönen氏は、「電気を熱に変換するのはとても簡単ですが、熱から電気を作るにはタービンなどの複雑な機構が必要になります。一方、熱を熱として使うのはシンプルなままです」と話しました。同社によると、この砂電池の効率は最大で99%に達し、数カ月間熱を保存することも可能で、寿命は数十年とのことです。

さらにメンテナンス保守も少なくて済み長寿命そうです。
幅が4メートル、高さ7メートルというサイズは家庭サイズではありませんが、このサイズで100kW相当なら、低容量で小型化した家庭用サイズの登場もあり得るかもしれません。


■スマホやPCなどの充電量が自然に減少する「自己放電」の原因 カナダの研究チームが解明

 スマートフォンやノートPC、電気自動車などで使用するバッテリー(リチウムイオン電池)は、長年使っていると充電の減りが早くなる。これは電池を使っていないときに電池内で放電と似た化学反応が起きてしまう自己放電という現象が原因だ。

 カナダのダルハウジー大学に所属する研究者らは、そんなリチウムイオン電池が自己放電する理由を、偶然にもリチウムイオン電池の実験中に明らかにした。

いずれも設備系電池で大型なものばかりでしたので、最後にスマホなど電池が今後大きく進化しそうなニュースをご紹介します。

小型デバイスで使われるリチウムイオン電池の自己放電の原因が突き止められ、改善方法も見えてきた、とのこと。

専門的な説明がみっちり書かれていますが、要するにリチウムイオン電池の正極と負極を区切っているセパレータの素材が悪かったと。今はPETボトルにも使われているPET素材だけれども、これを別のイイカンジなものに変更すると自己放電しないリチウムイオン電池が作れそう、ということです。

 研究チームのマイケル・メッツガー氏に聞いたところ、現在、自己放電が減少する他のポリマーをスクリーニングし、その化学的安定性をテストしているという。またこれらのポリマーを使って電池セルをテストし、自己放電を測定してどうなるか実験もしている。今のところ、これらの結果は非常に有望で、近々、リチウムイオン電池用テープの改良ポリマーに関する新しい研究論文を発表する予定だという。

自己放電しなくなれば「長年使っていると充電の減りが早くなる」という問題がどの程度か改善されることが期待されます。

充電回数によって寿命が短くなる問題もあるので自己放電だけで電池寿命が無限になるわけではないと思いますが、デバイスの高性能化に伴って「2年ごとに買い替え」より「電池がダメになったら買い替え」と長スパン化している今のトレンドがより加速するかもしれません。

かつての家庭用ゲーム機のようにデバイスが短期間で入れ替わることで高性能デバイスを前提としたゲーム仕様へと進化する、という流れが鈍化する懸念はありますが、ゲームやサービス提供側から見ると長い目線で安定的に提供でき改善投資もしやすくなります。

電池の進化でサービスが長寿命化する、利用者も若干保守化する、そんな流れが電池の変化から見えてくる大きなトレンドかもしれません。

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