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リーダーに抜擢される人物を目指せ!!:書評 V字回復の経営

本書はビジネス界隈で名をはせている方々がこぞっておすすめする名著中の名著。そして、オンラインサロン田端大学の3月課題図書。塾長の田端さんも、もちろんおすすめしている1冊。

私も数年前に読み、事業再生やリーダーシップに関する書籍としておおいに感銘を受け、度々人にお勧めしている作品です。

本書は、著者である事業再建コンサルタントの三枝匡さんが、過去にかかわった企業の事業改革を題材にした、ほぼノンフィションの物語。モデル企業の一つとしてコマツがあげられていることは有名な話です。

ストーリー自体が面白く、のめりこんでしまい、なおかつ企業再生における実例ノウハウ優良企業であるための組織論、企業再生やリーダーシップにおけるマインドなどがわかりやすく学べてしまう、理想的なビジネス小説です。

役立つフレーズ、刺さる箇所がありすぎて、約450ページに書かれていることが全て大事って言えるくらい。読む人の年齢、職業、ポジション、タイミングで、それぞれ刺さる部分は異なるでしょう。それは誰が読んでも、得るものがあると言える、そんな1冊です。

巻末に、不振事業の症状50(こんな兆候があったらあなたがいる会社ちょっとまずいですよ~的なこと)、改革を成功へ導くための要諦50(会社の中で大改革をする時に押さえておくべき局面のポイント)という本書の重要部分をまとめ、ぬきだしたものがり、これを読むだけでも相当な価値がありますよ。(本記事の終わりに掲載しておきます)

事業収支を黒字にするという責任を持て

田端さんのツイートの「事業収支に責任を持つという当事者意識」という言葉が秀逸すぎて、他の言葉が考えつかなくなってしまいましたが、本書の最重要な部分。

東証一部上場の大企業、太陽産業のアスター事業部を新任事業部長、黒岩莞太が再生させるというストーリー。今まで太陽産業の常務執行役員などが、事業部長につき、その再生にチャレンジしたが、成し遂げることができなかった。本来、事業部長という改革リーダーであるはずの者にでさえ、「事業収支に責任を持つという当事者意識」が著しく欠如していたからであります。

当事者意識というのは、新入社員でも持つことができます。反対にその事業のトップでも、当事者意識を持たないこともできます。その事業のトップが当事者意識をもたなければ、その改革など成功するはずがありませんし、収支はどうなるか、火を見るよりも明らかです。

私は大企業で働いた経験がないので、大企業のことはわかりません。しかしながら、幸いにも規模は小さいですが、一つの会社の事業収支の責任を負わせていただいてます。中小零細企業にとって、赤字が複数年続くということは、「死=倒産」を意味します。潤沢な資金があるわけでもないので、赤字が何年も何年も続けば、資金は底をつきますし、金融機関からの借入など到底できません。そのため、事業収支に責任を持つ=事業収支を黒字にする、が絶対的な毎年のミッションです。

これは、大企業でも同じはずです。巨額の赤字が何年も続けば、いずれは倒産という最後をむかえねばなりません。様々な要因で単年で赤字をだしてしまうことはあるでしょうが、営業利益で、黒字にさせるというのは、企業やその事業のトップが最低限もっていなければならない、「事業収支に責任を持つという当事者意識」でしょう。

赤字続きで自分の収入が増えるわけがない

末端の社員でも、当事者意識を持つことができます。昇給や賞与のロジックがわかれば、当事者意識を嫌でも持つでしょう。大企業は資金力があるが故、赤字でも賞与が支給されたり、定期昇給があります。しかしながら、赤字続きの会社で、大幅な昇給や多額の賞与支給はありえません。株主が許さないでしょう。配当もまともにださないのに、昇給や賞与はそんなにお金だすのか!と。

株主うんぬんの前に、ただでさえ赤字なのに、賞与という費用をさらに膨らまし、赤字額を大きくする。次年度の収支見込も赤字なのに、給与という費用を膨らます。その会社のリスクになるようなことを、自ら進んですることはさすがにのぞみません。

給与や賞与という自分の大事な部分に事業収支が影響するということを知れば、さすがに当事者意識が芽生えませんかね?それでも、我関せずで、他の誰かがやってくれるだろうという末期症状が、まさに本書のアスター事業部です。

リーダーになる人材

本書の主たる登場人物
・社長:香川五郎
・事業部長:黒岩莞太:55歳関連子会社再建の経験有。
・コンサルタント:五十嵐直樹 :49歳 上記会社の再建の相棒
・生産管理室長:川端祐二:50歳 米子会社の社長を経験
・D商品群プロジェクトマネージャー課長:星鉄也:39歳 

もちろん、他にも多数の人が登場しますが、主にこの5人を中心に物語は描かれています。この5名のうち星をのぞく4名はすでに、リーダーとしての資質や経験を備えています。アスター事業部での改革が進むに連れて、大規模な組織変更が行われるのですが、その中で最もセンセーショナルな人事が、D商品群プロジェクトマネージャーの星鉄也でした。

星鉄也は、アスター事業部の子会社においてBU社長というポジションを任命されます。登場人物の中で序列が4番目であり、アスター事業部ではNO3のポジション。太陽産業の関係会社では、事業部長に相当する役職で、その関係会社の専務や常務が兼務してもおかしくないポジションです。本書の中で、1番の出世です。

星鉄也はなぜBU社長に抜擢されたか?

星鉄也は、なぜBU社長に抜擢されたのか?改革の肝となるミドル世代の中で、一番、当事者意識を持っていたからだと推測します。

要諦38 一般に経営改革では、突撃しない古参兵よりも、今は能力不足でも、潜在性の高い元気者を投入した方が成功の確率が高い。

リーダーとして、将来的な経営者候補としての潜在能力と、若さ、そして気骨を買われてBU社長に抜擢されたのであります。

まずは星鉄也にならなければならない

本書で、星鉄也は、抜擢された人の象徴です。組織の中で働くのであれば、そして組織の中で何者かになりたいのであれば、まずは星鉄也にならなければなりません。つまり、抜擢される人材になることです。

・社長:香川五郎
・事業部長:黒岩莞太:55歳関連子会社再建の経験有。
・コンサルタント:五十嵐直樹 :49歳 上記会社の再建の相棒
・生産管理室長:川端祐二:50歳 米子会社の社長を経験

星鉄也以外の主な登場人物4名。社長の香川、外部コンサルタントの五十嵐の経歴は不明ですが、黒岩と川端に関しては、子会社の社長を経験するなど、まさに抜擢された経験があります。組織で働く人が目指す最高到達点は、本書の黒岩や、川端のポジション。そこを目指すのであれば、まさに星鉄也のように抜擢されることは、頂を目指すにあたって、必要不可欠なことになります。

事業収支に責任を持つという当事者意識

もちろん、抜擢された星鉄也は、マネジメント能力、実務スキルなども、周囲より高いものがあったと思います。しかし、それ以上に決め手になったのは、事業収支に責任を持つという当事者意識が、周囲より格段にあったことでしょう。意識は、人から見えません。感じるものだと思います。言葉で感じることもできるかもしれませんが、こういったマインドは行動からしか感じ取ることができません。星鉄也の日頃の行動は、黒岩や五十嵐、川端たちに、当事者意識があると感じさせるものだったのだと想像します。

当事者意識のある行動とは何か?ということですが、これこそ人それぞれの働く場所で違うことですので、自らが解像度をあげて、具体的な答えを各々がだして、行動すれば良いことです。まずは、抜擢されるビジネスパーソンとなるべく、事業収支に責任を持つという当事者意識のある行動を日々仕事で実践したいものです。

おまけ1 不振事業によく見られる症状50

1) 組織内に危機感がない。一般企業の業績悪化と社内の危機感は逆相関の関係である。

2) カンパニー制や執行役員制を導入したが、大した効果をあげていない

3) 経営者は、ただ危機感を煽る言葉を口にしているだけである。

4) 横並びの業界心理が経営陣を支配している

5) リスク戦略の実行能力の低い人材が、改革者として配されている。

6) 経営スキルの低い経営者が、社員の意識を変えるために「意識改革をしよう」と叫んでいる。

7) 多くの社員が「そと者」を心理的に区別している

8) 激しい議論は大人げないと思われている。

9) トップが自らハンズオンの経営スタイルをとっていない

10) 昔の事ばかりを引き合いに出す「語り部」が多い

11) ミドルが問題を他人のせいばかりにしている

12) 組織に「政治性」がはびこっている。

13) 時間だけが経過し、会社の取り得る選択肢が次第に減少している。

14) 会議の出席者がやたらと多い

15) ミドルが機能別のたこつぼに潜りこんでいる。

16) プロダクトマネージャーが社内政治の「掃き溜め」にされている

17) 全部署が全商品群に関与しているため、個々の商品への責任感が薄まっている。

18) 「妥協的態度=決定の先延ばし=時間軸の延長=競争力の低下」のパターン

19) 社内では顧客の視点や競合の話がなく、内向きの話ばかり

20) 「負け戦」をしているという自意識がない

21) 個人として「赤字の痛み」を感じていない。責任を皆で薄めあっている。

22) 商品別の全体戦略が「開発→生産→営業→顧客」の一気通貫で行われていない

23) 商品別損益がボトムラインで語られていない。

24) 原価計算がたくさんの商品を丸めた形で行われている

25) 赤字の原因を個々の「現場」に遡及することが出きない。

26) 関係会社を含めた商品別の連結損益が見えていない。

27) 利益志向の管理システムが途中で切れており、組織末端では旧来の売上高志向から抜け切れていない。

28) トップも社員も表層的な数字ばかりを追いかけ、議論が現場の実態にせまっていない。

29) 開発者がマーケティングや市場での勝ち負けに鈍感になっている。

30) あれもこれもと開発のテーマが多すぎる

31) 開発陣が「顧客メリットの構造」「顧客の購買ロジック」を完全に把握していない。

32) 社員が外部に会社の不満を垂れ流し、会社の看板を背負うことを投げ出している。

33) 過去の戦略不在やふらつきのため、取引先が不信感を抱いている。

34) 組織末端のあちこちに一種の被害者意識が広がっている。

35) 本社の商品戦略が顧客接点まで届いていない。

36) 営業活動のエネルギー配分が管理されていない。

37) 「絞り」「セグメンテーション」の考え方が足りない。

38) 「戦略」が個人レベルまで降りておらず、毎日の「活動管理」のシステムが甘い。

39) ラインの推進力が弱く、スタッフが強い。

40) 代理症候群が広まり、組織の各レベルにミニ大将がはびこっている。

41) 社員は勤勉ではない。とりわけ役員やエリート層が汗を流して働かない。

42) 抜本的に構造を変えるべきものを、個人や狭い職場の改善の話にすり替える人が多い。

43) 組織に感動がない。表情がない。真実を語る事がタブーとなっている。

44) 社員が心を束ねるために共有すべき「攻めの戦略」が提示されていない。

45) 総合的な分析力と経営コンセプトに欠けている。戦略と現場の問題がバラバラに扱われている。

46) 事業全体を貫くストーリーがない。組織の各レベルで戦略が骨抜きにされている。

47) 対処療法的な組織変更や人事異動が頻繁に行われ、既に改革疲れを起こしている。

48) 会社全体で戦略に関する知識技量が低く、戦略の創造性が弱い。

49) 幹部の経営リテラシー(読み書き能力)が不足している。

50) 狭い社内で同じ考え方が伝播し、皆が似たようなことしか言わない。社外のことに鈍感。

おまけ2 改革を成功へ導くための要諦50

要諦1 改革チームの人選は、改革の成功・失敗に決定的な影響を及ぼす
要諦2 組織カルチャーの変化は、必ず組織内で起きる「事件」を触媒にして進展する。
要諦3 改革シナリオを検討する初めの段階では選択肢を規制しない。
要諦4 人間も組織も「カオスの縁」に立たされたときに、新しい変化への適応がもっとも早く進む。
要諦5 改革リーダーは、初めからある程度「最悪のシナリオ」を計算しておく
要諦6 経営行動は、厳しい「現実直視」と問題を「自分で扱える」大きさに分解することから始まる
要諦7 停滞している状況をその会社の「社内常識」で分類しても、抜本的解決の糸口は見えない
要諦8 解決策を探し出すには、社員が共有すべきコンセプト・理論・ツールをトップが示さなければならない。
要諦9 「創って、作って、売る」をスピードよく回すことが顧客満足の本質
要諦10 仮説検証の手法をうまく使えば、分析やシナリオ作りの時間を大幅に短縮することができる。
要諦11 「組織の再構築」と「戦略の見直し」はワンセットで検討することが不可欠
要諦12 セオリーや原則論を外部から学んで初めて、ようやく内部の問題が見えてくる。
要諦13 事業活性化には、商売の基本サイクルを貫く「5つの連鎖」の抜本的改善が必要
要諦14 「強烈な反省論」は「改革シナリオ」の出発点であり、裏腹の関係にある。
要諦15 スピードに関する組織カルチャーを最初にリセットしないと勝利の方程式は動き出さない
要諦16 改革リーダーは、社員を厳しい現実直視に追い込み、そこからのジャンプを考えさせる
要諦17 改革シナリオ作りでは、あらゆる選択肢についてオープンに考える権限を与える
要諦18 改革シナリオ発表前に起きる小さな出来事は、よほどのものでない限り相手にしない
要諦19 前向きに進もうとしている人々を守るのは改革リーダーの最大の責務である。
要諦20 事業再生の道がない「悪性の赤字」は、恥も外聞もなく早期に撤収すべきである。
要諦21 計画を組む者と、それを実行する者は同じでなければならない。
要諦22 改革先導者は「覚悟」を決め、それを人生の貴重なチャンスととらえ、ひたすら足を前に出す。
要諦23 人々に「強烈な反省論」を迫るには、徹底的な事実・データに基づく追い込みが不可欠
要諦24 特定の個人や部署を責めずに、古いシステムの問題点をクールに指摘し続ける
要諦25 戦略マップでトップの考えを幹部に徹底する。マトリックスにするのが効果的。
要諦26 基本に忠実な組織を「愚直」に作っていけば、会社は原意になる。
要諦27 営業マンの頭の中をいつもスッキリさせておく。彼らの心理的集中を確保することに留意する。
要諦28 戦略の内容よりも、トップによるしつこいフォローのほうが大きな影響を与えることが多い
要諦29 戦略指針を与えても、その実行をモニターするシステムがなければ戦略は「骨抜き」になる。
要諦30 改革が「人減らし」だと受け取られてしまうと、改革に対して社員は防御的になる。
要諦31 改革シナリオのプレゼンテーションは、聞き手の表情が分かる少人数を相手に行う。
要諦32 「強烈な反省論」と「解決案」は抱き合わせで発表するのが常道。
要諦33 改革シナリオ発表後に意図的な反対運動が現れたら、改革の修羅場に突入する可能性がある。
要諦34 いったん改革をスタートさせたら、改革者は徹底的に意志を貫徹する。
要諦35 「気骨の人事」なくして、改革の仕掛けは人々を熱く動かすところまで行けない。
要諦36 「気骨の人事」の実現は、企業トップがその改革に本気かどうかの踏み絵になる。
要諦37 強い経営者的人材プールを社内で作るには、組織内部の競争原理を抜本的に高める必要がある。
要諦38 一般に経営改革では、「突撃しない古参兵」よりも、今は能力不足だが潜在性の高い「元気者」を投入すべきである。
要諦39 力量に不安のある人材を投入しすぎると、改革のリスク総量は初めから限界を超える可能性がある。
要諦40 「危ない橋」の中央で迫ってくる不安には、「打つべき手はすべて打った」と腹をくくって自分を支えるしかない。
要諦41 組織や戦略の矛盾が解決されずに順送りされると、営業と顧客の接点にしわ寄せが現れてくる。
要諦42 改革1年目に現れる劇的な成果の半分以上は、社員の「やる気」の高まりによるものが多い。
要諦43 社員の「やる気」の高まりによる効果が出ている間に、「仕組みによる強さ」の構築を急ぐ
要諦44 社員の「頑張り」は、「仕組みによる強さ」のストーリーが明確な場合に生まれてくる。
要諦45 早期の成功は、改革抵抗者の猜疑心を解きほぐす最大の武器になる。
要諦46 改革を始めた後は、新しいことを手がけるたびに新手法(具体的ツール)を埋め込んでいく。
要諦47 突出した改革テーマに絞り込んで、ボトムまで一気に鋭く切り込む。リスクを限定する。
要諦48 早期の成功が出たら皆で目一杯祝う。飲み屋のツケはあとで何とかする。
要諦49 沈滞企業では競争の悔しさや痛みを感じる機会が少ない。元気な組織は感情の起伏が激しい。
要諦50 改革や新戦略を得意になってマスコミに喋りすぎない。よけいなことは言わない。

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