[いただきました] 大橋陽・中本悟編『ウォール・ストリート支配の政治経済学』(文眞堂、2020年)

20200413 [いただきました] 大橋陽・中本悟編『ウォール・ストリート支配の政治経済学』(文眞堂、2020年)

大橋陽・中本悟編『ウォール・ストリート支配の政治経済学』(文眞堂、2020年)をいただきました。ありがとうございました。
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「金融化」という概念をベースに、ウォール・ストリートの市場支配を政治権力との関係で論じようとする論文集です。序章では以下のように整理されています。

金融サービス・セクターは経済政策や制度を自らの利益を実現するように方向づけるが,その過程は同時に中間層,労働者階級からの経済力と政治力の奪取を意味し,政府は国民の幅広い層に対して機能しなくなっている。本書は,このような現代アメリカ経済における金融サービス・セクターへの権力集中を「ウォール・ストリート支配」と規定し,それがもたらす問題群を析出する。(「序章」8ページ)

本書の構成は以下のとおり。

はしがき

序章

第Ⅰ部 ウォール・ストリートの権力

第1章 金融権力の基礎一巨大銀行とアメリカ経済
第2章 金融の復権―ウォール・ストリートによるワシントン政治の支配
第3章 大きすぎて潰せない(TBTF)―コンチネンタル・イリノイ銀行の救済を事例にして
第4章 仕組まれた経済―ポピュリズムとグラス=スティーガル法

第Ⅱ部 圧迫されるメイン・ストリート

第5章 アメリカン・ドリームの終焉―所得・資産格差と中間層の崩壊
第6章 学生ローン債務危機―受益者負担の理念と現実
第7章 乗っ取られる政府機関―消費者金融保護局の成功と金融機関の反撃

第Ⅲ部 グロ ーバルな存在としての金融権力と金融規制

第8章 新たな金融寡頭制―グローバルなアメリカ金融覇権の生成
第9章 ノンバンクの巨大市場に切り込んだ日本―多重債務と改正貸金業法の成立
第10章 岐路に立つ国際金融秩序―リーマンショック後10年,懸念増す金融の不安定性

あとがき

第8章「新たな金融化統制――グローバルなアメリカ金融覇権の生成」(萩原伸次郎)でも触れられているように、ユーロダラー市場の成立は、「米ドルの破産ではなく、アメリカの戦後ケインズ体制の破産」(158)であり、米ドル自体の「破産」ではありません。これは投機為替が通貨価値の水準を規定する現代のありよう、投機的な取引(ディーリング)が市場において存在感を増す条件でした。本書のいう「ウォール・ストリート支配」の生成にも目配りをしているという点で、テキストとしても有用でしょう。

リーマンショック後と比して、コロナショック後の金融資本市場は(現段階では)まだ大きな動揺を経験していません。本書の視角からみたときに現状がどのように整理されるのか、続稿が期待されます。

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