外星通訳一族、”AKIMOTO”1
『あー、… Excuse me?えーと、…can you speak japanese?』
——後の初代外星通訳官、秋元 郷治がウルス人に放った最初の一言。
「えー……と、それではこれより、第124……あ、25でした?すいません訂正いたします。……第125回、『定例報告会』を始めます。」
その会議場には多くのものが詰め掛けていた。スーツを着た多種多様な人種の者たち……その中に迷彩柄の制服を纏っているものいる。
皆、耳にある翻訳機に意識を集中させている。
その中心——40代のアジア人にみえる——議長を務める、
秋元 和久(カズヒサ)は自分の放った開催回数を間違えるミスをまるでなかったように進める。
「では最初に——。」
「この『星』に来た、ウルスの民の代表 ”サラン・エスロー”から齎(もたら)された……『ウルス人の決定』を、報告いたします。」
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——ウルス人。45年前より、外宇宙から来た、地球人が初めて接触した、「文化を持つ地球外知的生命体」。
初確認は衛星にて落下中の「大気圏突入」の瞬間の映像にて(当時は隕石と誤認。後に“当人との確認により”状況との照合にて発覚後、改定)。
初接触者は着水した太平洋から流れ着いた先、日本にて秋元初代通訳官。 …当時高校生であった、秋元 郷治(ゴウジ)(以下郷治氏と記述)による会話が初コンタクト。
なお…当の郷治氏は——。
「いや、ずぶ濡れでこっち見つめるねーちゃんがいたら、心配するだろ?」
との理由で、接触を図った模様である。
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(あー……緊張するわ。ホントに。)
先ほどの議長……いや、『父』の開始のミスにより、緊張と気恥ずかしさを、息子の秋元 誠児(セイジ)は一気に身に受けた。
顔は赤熱し、胃は痛み、足元が寒くなる。しかし、だからと言って、この場から……会議の発言者席から、逃れられるはずもない。
なにせ今回の「報告者」は自分である。……自分の報告が、今回の報告会の、本筋だ。ああ、父よ、なぜミスをされ給(たも)うた……。
「では報告者の、せ……秋元通訳官、発言台まで登壇、お願いします。」
「はい。」(馬鹿親父ィ……名前で呼びかけやがった……。)
息子は父のミスを見逃さなかった。しかし父は何事もなかったかのように平然としている。……通訳さん、今のは訳さなくていいです。
「では、私、外星通訳官秋元 誠児がご報告、申し上げます。」
「先の対談の末、米加合衆国、欧州連邦をはじめとする『地球人』としての意見……『戦争の意思の皆無』は無事、サラン・エスロー女史を『通し』、対談相手本星にいるウルス星首長にご理解いただけました。」
場内を安堵の雰囲気が包み込む。深く息を吐き、背もたれにもたれかかる者たちの姿も目に映る。それだけでも、今回の仕事のやりがいを感じる。
「ただし——」
会場が、もう一度緊張感に包まれる。
戦う意思がありません。あ、よかったー。……では、終わらなかった。
「今後の両星間での国交樹立と……一層の理解を深めるため——」
会場全体が静まる。「何を要求してきたんだ。」と、目線が野次を飛ばす。
「……サラン・エスロー”女史”につづき、地球に2人目のウルス人の派遣を、『決定』されました。派遣されるのは……その、地球で言う、次代首長第一候補……キャスティナ・ロンゴ様です……。」
——時間は流れ、会終了後。
「あああ……つかれたよ、父さんのおかげで。」
「いや、本当にスマン。父さんも緊張してたんだって。」
今回議長である、和久は、息子である誠児をねぎらうように、そして先のミス等(息子を緊張させないための行動だったのだが)を思い出し、気恥ずかしそうに語りかける。
「あの程度は訳さないだろ?通訳さんも。いや、私「達」も一応通訳家だけどさ。うん。もうほぼ外交官だけど、うん。」
「それだよ、それ。何で名目上「通訳官」なのに仕事がほぼ「外交官」になってるのさ!!おかしいだろ!!」
「あきらめろ、それはお前が生まれる前に、というか俺が生まれるまえから爺ちゃんが嘆いてきたことだ。」
…我らが秋元一家が生業(なりわい)としている仕事、ウルス人との通訳。この仕事は、非常に、非常に、特殊である。
というのも、彼らの言葉を……僕ら以外、なんというか「受信」できないのだ。
彼らの母国語はまず、「言語」ではない。一種の「テレパシー」と言おうか、「イメージの直接的伝達」である。頭の中に直接、言語と映像、感情、それらを合成してというか、塊にしてぶつけてくるのだ。
(すいません、〇ァミチキ下さい……。)(こいつ、直接ry)をやってのける種族なのだ、が。
それを、受信できないのだ。他の地球人は。誰であろうとも。
それだけならまだしも……。
【和久、誠児、こちらに来ていただけませんか?】
【ああ、事務室だな?すまない、サラン。今、誠児もつれてく。】
【ん、わかった。】
そう、これだ。これこそが彼ら——いや、サランさんは女性だから、彼女ら、か——の【会話】なのだ。
遮蔽物、関係なし。圏内距離、『宇宙の”どこか”を漂っている仲間とつながっている』程に広大。伝達速度、誤差も前述の状況でほぼ無しで瞬時に伝達可能。会話範囲、『基本は種全体に呼びかけ、今のように範囲の指定も可能。』とどのつまり——。
「……これ、種族がデフォで備えてる超技術のSNSだよな。」
「父さんは何も言わんぞ、うん。あとそれもサラン達に漏れてるんだからな?」
一言でいえばそうだ。だが、今何気なく会話に出たのだ。「これも漏れている」のだ。全部。自分が見た景色、モノから自分がした会話に、その感情まで。プライバシーなど微塵もない。
具体例を出そう。
(((あ、さっきあの店のあの店員から受け取った450円のから揚げ弁当食ってる。美味いんだ、それ。)))
(こいつ”ら”、直接感覚を……!!)
これである。
しかし勘違いしてはいけない。これは監視されているわけではない。むしろ、ウルスの定義で言えば「無意識的に公開している」のだ。
そういう文化と能力を持っているから使っているだけ。それだけなのだ。それを押し付k……享受しているのが、我ら一家である。
ま、実際は限られた(現在はサランさんと家族のみ)部分しか「受信」ができないので、家族ら専用の超高性能通信手段に留まっている。
もっとも、今回の件で、一人分範囲が広がりそうなのだが。
——待ち合わせの事務所にて。
【待ってましたよ、和久、それに誠児も。ご苦労様です。】
「ああ、サラン。ありがとう。」
「ありがとうございます。父さんが変に気を使わなきゃ、もっとカッコよく決まったんですけどね?」
【フフフ、そうね。】
「だから悪かったって。」
サランは、地球の……日本語を理解している。が、話せはしないので、対外的に見れば、こちらが一方的にしゃべりかけているいるように見えるだろう。
……サラン。(多分、英語のイントネーションにあてるとこれが彼女の名前だ。)地球に来た最初のウルスの民にして、我らが一族の、相方。外見は若い、地球の特に北欧系の白人に似ている女性だ、が特徴はある。
まず身長、2mの、日本人から見ても痩せ型。これが目を引く。確かに、世界一の・・・いや、地球一の女性の身長記録はこれよりも高い。が、彼女曰く、「これが平均」。父……和久の身長が176cmで、自分が173cm。自分たちはいつも上を向いて話している。……足は自分たちより長く、胴は短い。ぬう。
次に髪、銀色……なのだが、その銀の中になにか色があるのか、とおもうほど光沢をもつ。たまに、「眩しい」とからかうと少し怒る。
会話を音に頼らずとも耳はある。測定したが、聴力はむしろ自分たちより鋭かった。宇宙空間に空気がなく、音は響かないが、彼女らは音の聞こえる大気に包まれた星にいたということがこれで確定となった。だろうな。
まあ、外見を見れば、人間離れしていると思うほどではない。モデル体型に見えるし、実際自分の感覚で言えば美人だ。
……ああ、胸囲?あるよ、何がとは言わないが。
……こんなヒトが、「45年前、今と同じ姿で祖父の郷治と出会った」のだ。そりゃあ声は掛けるし、英語で話しかけてみようとする。
そんな我らの仕事相手は、用件を伝える、といった。
【キャスティナ様の件だけど……】
「……ああ、恐らく、保護先はウチになる。日本、というか我が家だ。」「押し付け合いにも取り合いにも、なりゃしないさ。当然。ま、2日後には正式に決定が下るから、待ってましょう?」
会議に見えていた、各国の責任者とその関係者の「落としどころ」は決まっていた。どうせウチに押し付けつつ、自分の国が有利になるよう動くだろう。それが仕事なのだから。
【うん、それでは遅いわ。】
「「………………?」」
【キャスティナ様、もう”上”にいるわ。】
廊下から足音がする。あわただしく、こちらに近づいてくる。
「…………失礼します!!」
勢いよく扉を開ける。青ざめた顔の、外務省に務めている若手の男がそこにはいた。何回か面識がある。扉が壁にぶち当たり、大きな音とともに彼の存在を一層主張した。だが、それどころではない。
「……欧州の宇宙局、衛星からの報告です!」
「「えッ……。」」
【あ、多分言いたいことは同じだわ。】
「「あの……。」」
「先刻、現在地の日本時刻の14:45分に、『ウルス人とみられるモノ』が地球周辺にて確認されました!!そして——」
「「いや、うんその……。」」
「…………その対象物が、地球に向かって————_」
「————大気圏の突入を”敢行しました”。」
【私の時と同じね。】
「「————————。」」
宙(そら)から女の子が向かってきている。
パスポートは持っていない。
空から女の子が降ってきている。
予定にはない。
「「早すぎィ………………。」」
今から、女の子を迎えねばならない。
準備はまだ、できていない。
【続く】
私は現金な人間なのでしょう。お金をもらえると嬉しいとおもい、モチベーションが異様に上がります。そうするとどうなるか。書きます。異様に書きます。つまり続きます。 作品の完結には、皆さまのご助力も、私は必要としています。余裕があるときにだけでいいので、補助を宜しくお願いいたします。