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ゲーム媒体でプロ野球界のレジェンド・野村克也さんのインタビューという謎企画が実現した不思議な思い出と、コンテンツ再編集の可能性

スマホのプッシュ通知を見て、自分の口から、聞いたことない種類の声が聞こえた。

野村克也さん死去。

…。

涙は出ない。

体の芯の部分から、手先に向けて、なにかカッと熱を帯びる感覚を覚えながら、真っ先に思い出したのは、昨年末にNHKで放送されたドキュメンタリーでおこなわれた、ノムさん×橋田壽賀子さんの対談。

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NHKスペシャル「令和家族 幸せ探す人たち」
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/46/2586212/index.html


これを見たときは、ノムさん、相当参ってるんだな〜という印象と同時に、ビビるくらいしゃべらなかったので、スタッフはそうとうピリピリしただろうな、という感想を抱いた。

●ライター人生で最も反響があった記事

そして、なんとなくツイッターを開いて、トレンドに上がりまくっているノムさん関連ワードを見ていると、わりと少なくない人が、自分が過去にやったノムさんインタビューに言及してくれていた。

ゲームメディア「電ファミニコゲーマー」で掲載された、下記のインタビューだ。企画、取材、執筆を担当した。

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王 貞治、長嶋茂雄、田中将大、大谷翔平……球界のレジェンド・野村克也が『パワプロ』各選手&自身の能力データをボヤキながら分析してみた
https://news.denfaminicogamer.jp/interview/180928


一昨年の記事なのに、覚えてくれている人が多いことに驚き、ありがたいと思い、そして、あれは面白い体験だったな〜と改めて思い出した。

ざっくり言うと、パワプロをやった人なら誰もが思ったであろう、「この選手はもっと強いはずなのに」「阪神だけ、なんでこんなに強いんだよ」的なことを、プロ自身に語ってもらう、という企画。

ただ、パワプロのデータをフックにしながら、「逆境○」という能力の話から、ご自身の幼少期からプロになるまでの文字通り“逆境”の話が始まったり、ご自身の能力を見ながら、「『モテない』っていう能力はないの?」というジョークから、亡き妻の思い出話が始まったり、とてもパーソナルな部分まで、一気通貫で語ってもらえた、人間味ある原稿となった。

普段は自分の仕事に興味のない知人からも、「あの記事面白かったよ〜」「ノムさんってかわいいのね」など反響があったり、個人的に尊敬しているテレビ東京の佐久間宣行さんがツイッター上で「おもしろい」と言及してくれていたり、単著を何冊も出しているガチスポーツライターライターの方から「あれは面白かった!話が出尽くしているノムさんの企画であれだけできるのはすごい」と褒めてもらったり、人生で最も反響が大きい記事となった。

この記事公開当時、noteに書いたけど、下書きのままにしてあったテキストがあったので、ほんのちょっとだけ直して、掲載します。

ーーーここから、記事公開当時のテキストーーー

●昔パワプロやってた頃には思ってもみなかった夢が実現

中学生の頃、ドカベンにハマったことがきっかけで、プロ野球も大好きな自分としては、野球の仕事をしたいが、いまさらバリバリのスポーツライターにもなれず、いろんなやり方を模索してきた。

過去に、仕事術的な企画で、古田敦也さん、里崎智也さんのインタビューをやったこともあって、「いつかはノムさん」(「いつかはクラウン」的な)と思っていた部分もあったので、実現したときは、かなり緊張した(こう書いてあらためてわかったけど、全員キャッチャーだ。みんな話がめっちゃおもしろい)。

子どもの頃からパワプロずっとやってきて、大学のとき、地元の友人と毎日パワプロばっかりやりすぎて留年しかけた(友人は留年した)こともあるので、それらの経験もムダではなかったと思える気もする。

昔から、ゲームやマンガ、本、フィギュアなどを買うたびに親から「ムダづかいするな」って怒られてきたんですけど、「ムダじゃなかったわーーー!」って叫びたい。少なくともパワプロに関しては。

このインタビューが決まってからも、取材中に見てもらうモニターに選手のデータを出すために(OB選手の獲得には、パワポイントというゲーム内通貨が必要)、しこしこプレイしていて、妻に「これは仕事だから!」と言い訳したのは良い思い出(わりと序盤で、パワフェスの選手は隠し含め全員出しました)。

昔から、少々あまのじゃくなところがあるので、ONといった、いかにもなスターよりも、スーパーレジェンドなのにいつもぼやいているノムさんに勝手に親近感を覚えていたし、まさか目の前に立ち、話をする日がくるとは思っていなかったので、久しぶりにひどく緊張した記憶がある。

●謎企画が実現した経緯

企画の根本部分は、数年前に編集部へぼくが持ち込んだわけですが、電ファミ編集部では「この企画をやるなら、最初はいちばんの大物をツモれないとやる意味がない」という目線の高い指摘があった(人気連載「ゲームの企画書」でも、ウルトラC的な企画の立て方で、初回にポケモンの田尻智さんを登場させている)。

この指摘がなければ、わりとお声がけしやすい方の取材から始めて、パワプロ好きとやきうクラスタがちょこっと反応する、シングルヒットの企画になっていたはず。

なので、この企画実現は編集部の仕事のやり方によるところが大きく、どんなネタでも、その編集部っぽさをのっけてホームランを狙っていくという、すごみを感じた部分でした。たしか、最初の会議で「このネタならノムさんしかいないっしょ」みたいなノリになった気がする。

あと、パワプロの査定にプロが文句をつける、的な話は現実でもたくさんあるので、このアイデア自体はそこまで企画力が高いものではないと思う。

では、なにがよかったのかというと、ダメ元で事務所に聞いてみたことです。事務所の代表番号から電話して、担当者を聞いて、企画書をメールしただけ。1ヶ月ほど音沙汰がなかったので、再度「ダメならダメでよいので、お返事だけいただけますでしょうか…」的な連絡をしたところ、「あ、担当に繋ぐ前に止まってました、すみません、至急確認します」との返答。

アホのふりをして、とりあえずお願いしてみる、ということの大事さを痛感した一件となった。

●ノムさんのネタは使い回しが多い…?という指摘について

記事の公開後、「エピソードがどこかの本で語ったことばかり」という指摘も多かったのですが、それについては異論ナシ。そのとおりです。

ノムさんの本は本当に使いまわしばかりなのか検証してみた
https://omocoro.jp/kiji/27033/

という記事があるほど、野村さんの著作ってエピソードがかぶることがあるんですね。でも、これはそれぞれの著作の価値を毀損するものではないと思っていて、それぞれの本で、切り口がしっかり作られているので、全部おもしろい。たしか全部で130冊以上も出版されてるので、かぶらなかったら超人すぎるでしょう。

今回も、このインタビューに向けて書籍40冊くらい(たぶん)やウェブ、雑誌のインタビューを読んだうえで、あらゆるネタを脳内に蓄えておいて、パワプロのデータからどう繋げられるか、いまのこの展開なら、あのエピソードに繋げられるか…? という感じで、インタビュー中も常に計算して、話を進めていきました。

ゲームという切り口をつくったので、それで串刺しにして価値が出れば、エピソードがかぶっていることなんて何も気にならないと思ったし、読んでいただいた方のリアクションを見ていても、実際そうなったと思う。

ということで、すべての野村さんの著作に関わった方々にリスペクト感じています。やっぱり、スポーツ紙記者、野球ライターなど、専門家がばっちりと幹をつくってくれたからこそ、今回のような遊び的な企画が出来ると思う。

ある意味では、書籍や雑誌で残されているテキストを、ウェブ上であらためてまとめ直すという作業は、非常に価値のあるもので、斜陽産業といわれる新聞・出版社は、過去記事をしっかりと活用するだけで、ネット向けでも十分戦えるのでは、と思います。

ニューヨーク・タイムズは、過去の記事を再編集して活用することで、2019年の1年間だけでデジタル版に100万人が課金して購読者合計が500万人を超え、デジタル版からの収入は2015年の倍、8億ドルに達しているらしいです。

参考: 朝日新聞やBuzzfeedで仕事をしていた古田さんが、ニューヨーク・タイムズの「イノベーション・リポート」を解説している記事
https://note.com/masurakusuo/n/n9d8c9a2bc78e?creator_urlname=masurakusuo

あと、著作だけでなく、解説、テレビ出演、後援会などでいろんなエピソードをしゃべり続けてき野村さんだけに、それぞれの練りに練ったエピソードは、もう落語に近い完成度と尊さなんじゃないかな、と個人的には感じます。

正直、御年83歳だったこともあり、質問に対して、鋭い応答があったというよりも、すでに練られているエピソードの中で、質問の要素に近い部分を引っ張り出してきて、お話されていた、という印象です。

落語でいうと、ネタを無限に持っていて、聞き手が望んでいる噺を、シチュエーションごとに披露するイメージ。

自らもすさまじい成績を残した上で、野球の歴史、仕組み、戦術、組織論まで幅広くあれだけ語れる人って、もういないでしょう。いたとしても、ここまでロジカルで、おもしろくはない。

「実際に見てきた説得力×実績による説得力×ロジック×野球への情熱」の数値がリミットブレイクしてるから、絶対におもしろくなる。それを拝聴できるだけで、めちゃめちゃありがたいです。これは茶化してるわけじゃなくて、マジで思ってます。

あと、マジで謙虚。レジェンドオブレジェンドの沢村栄治さんのことも聞いたりしましたが、「当時はラジオで聞いてただけだから、見たことない、わからない」みたいな返答があったり。知らないことは知らないって言って、あれだけのレジェンドが「大谷に持論を崩された」って素直に認めるの、すごすぎません? 83歳やで。

●マジでキュートな史上最強のツンデレ

記事公開後に、「ツンデレのノムさんかわいい」というツイートもありましたが、これ、ほんとそのとおり。原稿の締めに入れた、「恐縮です」って言葉とシーン、いまでも脳裏にこびりついてます。野村さんのツンデレ感とかわいさ、伝わってくれー!と思って原稿書いたので、一部の人に伝わってうれしい。

たぶん野球界史上最強のツンデレなんだと思うんですよ。1時間の取材予定だったのに、いったん締めても、ぜんぜん帰る素振りがなかった。まだ続けていいなら願ったり叶ったりと話を聞き続けましたが、こんなに拘束時間長くなって、大丈夫なのか…?ってマネージャーさんを何度もチラチラ見ちゃいました。

完全に主観ですが、「モテないんだよ」「もう、お声がかからないから」って、半分以上マジで言ってる感じでした。たしかに、娯楽が増えたことで昔よりも、メディアにおける野球の露出が下がったはず。だって、野村さんがプロ入りしたのは1954年。三冠王獲ったのって、1965年。「巨人大鵬卵焼き」の時代。そこから今を比べたら、そりゃあさみしいもんですよ、たぶん。

それを差し引いても、やっぱり奥様を亡くしてさみしい感じでした。前半でボヤいてるのに、後半でそういった人間臭い面が出たのも、ドキュメント的で良かった。

自分に声がかかること自体をとても喜ぶタイプな気がしたので、ウェブメディアでも、最低限の知識とリスペクト(気持ちだけじゃなく経費的な意味でも)があれば、企画を受けてくれる可能性もあるはずなので、みなさんぜひお声がけしてみてください。(ただ、クセの強さは随一なので、生半可な覚悟では大ケガすると思います。個人的には、取扱説明書をちょっとは把握できたつもり)ぼくも他の企画でお声がけすることをもくろんでます。

●ウェブメディアでも、気合が入った記事が作れる例になった

ウェブ媒体の編集者の中には、「長い文字数の記事は読まれない」という、謎のルールを持っている人がいます。それは、面白くない、冗長な記事が読まれないだけでは…と常に思っているのですが、あらためて、「面白ければ長さは関係ない」ということを証明できたと思う。

このふわっとした企画で、ちゃんと経費を確保していただいたり(思ってたよりかかった)、そもそも、勘違いされやすいんですが、これタイアップ記事じゃないので、編集さんがもろもろウラで調整してもらって、ホントに神。ゲームメディアでありながら、おもしろければなんでも載せる的な、メーカーに忖度しない、独立感ある編集部。かっこいい。

あと、野村さん自身の写真、掲載順は必ずしも時系列じゃないんですが、最初むすっとしてるところから笑顔になるように調整してあって、すごく直感的に理解しやすい。

昔の写真も、東尾さんがクラウンライター時代だったり、田淵さんが法政大学時代だったり。某週刊誌編集の方から、「おれたちの時代は、こういう良い写真を見つけるために日刊スポーツの倉庫にこもってたんだよ」という、苦労話をおしえてもらった。そう考えると、しっかりとしたアーカイブを多くの人が使える(とはいえ、使用料金はかなりかかってるはず)いい時代になったし、ウェブメディアの参入障壁の低さやばい。

いいものを作るときは、しっかりお金もかける。それができるウェブ媒体の編集部って、なかなかないと思うので、一緒にお仕事ができてありがたいです。

最後に、じつは密かな野望として、VRゴーグルを付けてもらって写真を撮りたいと思っていたんですが、開始早々にびびってしまい、その後はすっかり頭から抜け落ちてました。すぐVRのプレイができるように、データ見せる用とVR用のPS4二台体制で取材に臨んだのに、無念。

ーーーここまでーーー

他の企画でお声がけ、するつもりだったんですよね…。某媒体で今月から始まるはずの連載企画でも、ぜひインタビューをしたいと考えていた。仕事が遅いって、ほんとにいいことないなー。野中広務さんが亡くなったときにも、同じことを思ったはずなのに、進歩がない…。

ライターとしては、一緒に映ってる写真なんて、望んじゃいけないんだけど、取材中の写り込んだ写真を撮ってくれたカメラマンと、使ってくれた編集に感謝。いい記念になりました。

ちなみに、この企画、終わりにする気は毛頭なくて、けっこうなレジェンドにお声がけして、断られたりしています。またひょっこり、似たようなインタビューが出たら、ぜひ読んでいただきたいです。

フリー編集・ライター
森ユースケ

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