森 淳(もりすなお)

ブログ「モリノスノザジ(https://s-f.hatenablog.com/)」に掲…

森 淳(もりすなお)

ブログ「モリノスノザジ(https://s-f.hatenablog.com/)」に掲載した記事をリライトして投稿しています。

最近の記事

「休みの日って、なにしてる?」

 「休みの日って何してるの?」と、聞かれるのが苦手だ。質問の意味がわからないわけじゃない。自分のことなのだから答えを知らないわけもないし、正直に話せないようなやましいことをしているわけじゃない。人に理解されないような趣味を持っているわけでもないし、人に話すことがないほど何もしてないというわけでもない。要するに、答えられないから苦手なわけじゃないのだ。  だいたいのところ、私は決まった時間に決まった行動をする。なので、休みの日に何をしているか話すのは、そう難しいことじゃない。

    • 全都道府県家事大会開催のお知らせ

       「これは、」とおもうのは―――。使い終わったハンガーを片付けるついでに、床に脱ぎ捨ててある靴下を拾って洗濯機に放り込むとき。小鍋でかぼちゃを煮ながら包丁を洗って、そのとなりで唐揚げ用の肉が下味のタレのなかでねむっているのをみるとき。金曜日の朝弁当箱におかずをつめたら、冷蔵庫のなかがきれいにからっぽになったとき。いつもよりほんのちょっぴりでも効率よく家事をこなせている自分に気がついたときには、なにやらじーんとくる満足感がある。  家事はむずかしい。私は十年以上一人暮らしをし

      • 広告進化論

         インターネット広告が、ものすごいことになっている。スマホでもPCでも、最近インターネットを使っている人なら誰でも身に覚えがあるに違いない。私のほしいものばかりが広告に表示されるのだ。以前ならそこにあるのは、健康食品に、家族向けのミニバン、シワ・たるみ防止美容液、駅前の高層マンション。興味もなければ必要もないような商品の広告ばかりを見せられていたと思う。  それが、最近は違う。「ほしいな」と思いつつ買うのを諦めたスニーカー。半年前に買った漫画の最新刊。そういった広告が、ニュ

        • 豆苗の罠

           駅のホームで、毎朝顔を合わせはするけれど、一度も話をしたことがない人。あるいは、TSUTAYAのレンタルコーナーに売られている、得体のしれないレンタル落ちのDVD。私にとって豆苗は、そんな存在だった。  言われてみれば、スーパーの野菜コーナーにいつもあるような気がする。しかし、買ったことはない。隣に置かれているブロッコリースプラウトやらカイワレ大根との違いもわからない。いや、見たところ、ブロッコリースプラウトより茎が太くてがっしりした見た目をしている分、いざ料理となると扱い

        「休みの日って、なにしてる?」

          種を蒔く、種を

           小さな劇場に芝居を見に行った。以前は月に4・5回ほど劇場に通っていたというのに、今はこの空気がずいぶんと懐かしい。舞台の上には白く段々に組まれたセットと、同じく白い色の、背もたれの付いた椅子が整列させられていて、それは開演前のうす暗い会場で、わずかな光を受けて内側から光っているようだった。セットをすみずみまで見渡して、頭上の照明設備に、喚起のためうっすら開けられている裏口の隙間に、客席の控えめなさわめきに身体をひたしていると、なんだかすこしだけ涙が出てくる。まだお芝居は始ま

          読書感想文後遺症

           日記を読みかえしていてときどき、猛烈に腹が立ってくることがある。日記に登場する当時の友人や上司に――ではなく、自分自身にだ。例えばある日の日記はこう。 〇月×日 午後から先週図書館で借りた××の本を読んだ。〇〇を見て気になったので借りてみたけれど、興味をもって読んだので勉強になった。いままでこういうきっかけで本を読んだことはあまりなかったけど、今後は続けていきたいと思う。  また別の日はこう。 〇月△日 今日、仕事中に□□が××していた。いつもなら気にしないけれど、今

          読書感想文後遺症

          忘却玄関リバイバル

           その途端、 頭からサーっと血の気が引いた。ただいま帰宅した一人暮らしの玄関前。鍵穴に鍵を差し込んでまわして、そのはずなのに玄関の扉が開かない―――つまり、鍵が閉まっている。鍵をまわした後の“今”が施錠状態にあるということは、鍵を回す“前”は開錠されていたということだ。要するに…私が帰宅する前から、この玄関の扉は開いていた。  一体どういうことだろう。落ち着かない思考をなんとかなだめて、可能性を整理する。まず考えられる事態のひとつは、私が朝出かけるときに鍵をかけ忘れたという

          忘却玄関リバイバル

          男たちはいつワックスを捨てるのか

           気になる。気になっている。なにがって、同僚の髪の毛のことだ。どうみたって隠しきれないほどの薄毛なのに、みているほうが悲しくなるようなごまかしかたをしているだとか、何カ月もカットしていないロン毛に近い髪型が不快だとか、そういうことではない。一か月に一度、きちんと髪を整え、ハードワックスで前髪をぱりっと上げる。年齢の割には白髪もなくてふさふさで、どこからどうみたって文句のつけようのないヘアスタイルだ。  それがどういうわけか、このごろ様子がおかしい。スタイリングをせずに出社す

          男たちはいつワックスを捨てるのか