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はたらく事で築かれていく

馬たちは経験を積み重ねる事で、良い事は安心感になるし、悪いことは恐怖になっていく。それは人も同じことで、良い仕事をしていくためにも僕にとっても良い経験として積んでいきたいものです。

 去年から馬耕を始めた福之助は、丸太を引く程度のことはしていましたが、土を起こすところから代かきまでの一連の作業をしたことがありませんでした。一昨年まで、耕太郎が馬耕をしている姿を横で見せておいたので、何をするのかは知っているんじゃないかと、なんとなく期待していましたが、、、

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 福之助を田んぼに連れてきて始めようとしても、どうにも前に進みたがらない。ちょっと前に歩くと、すぐに止まってしまう。耕太郎が馬耕を覚えた時は前に出て止める方が大変だったので、馬たちにもいろんな反応があるもんだなっていう事がわかったけれど、また違った対応が必要になるようでした。

 ちょっとしたことのように見えても、彼らにとっては大いに問題になることがあります。土を起こす犂(すき)を引くと根や石にぶつかってビックリしたり、道具が擦れるわずかな音に反応したり、歩きにくいデコボコの土の上を歩くことにも慣れていく必要があります。

 前年に耕太郎が耕してくれた田んぼは土が軟らかくなっているので、まずはそこから始めることにしました。まずは浅く土を起こしていき、初めてのことに反応をみます。はじめは落ち着かず、すぐ立ち止まって草を食べはじめてしまいます。安心させるように根気強く声をかけ続け、歩くことに集中します。

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 棒を持って空気を切る音を出すと、なんとか前に歩く。「マエ〜、マエ〜」って声を出してみる。犂を後ろに引っ張ってみると、なんか前に歩き出すみたいだ。反応を見ながらどうにか方法を探して見るけれど、1日が終わる頃には、声を出しすぎて喉がいたいなんてことに。

 そんなことで数日たって福之助のクセにも慣れてきたところで、深めに土を耕す犂に変えてみると、福之助は思ったより安定して力強く引きはじめました。こんなに耕し易いものなのか。犂を落ち着いて持つことができ、ゆっくり歩いてくれる福之助が頼もしくなってきました。

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 次は水に入って土を起こしていきます。耕太郎と違って、すんなり田んぼに入っていくものの、歩きにくい水の中は落ち着きません。耕して溝になっている場所を歩き、隣の土を耕していきます。

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 今度は立ち止まると福之助は前かきをして泥を飛ばし、後ろにいる僕はドロドロになってしまいました。時には泥水の中に寝転んでしまう事もありました。落ち着かない不満を、何かといろんな手段で小さな抵抗にして見せてくれます。

 毎日のように昼過ぎから日暮れまで歩き続け、春から初めて代かきが終わる頃には、福之助の反応の速さと集中力の高まりを感じるようになりました。反応を見ながらの繰り返し作業によって意思が伝わり、お互いに経験から信頼できるようになってきたように思います。


 言葉に頼らなくても、意思は通じる。繰り返し反応をみて応答し続けることで、任せられる部分ができてくる。言葉に頼りがちな人とヒトとの関係でも築きたいものです。

 2年目の今年、草が出始めた頃は食べたがって中断が多かったものの、棒を持たなくてもいいし、喉が枯れなくても前に歩くようになっていました。福之助さん、お疲れ様でした。ともに良い経験を積んでいきましょうね。

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