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和田唱、瑞々しき夏の始まり

TRICERATOPS tour 2022 "Unite / Divide" 3公演目となる6月18日、福岡・スカラエスパシオにてライブを拝見。ここ2年あまりは配信ライブをたびたび観ていたけれど、生のステージは久しぶり。さらに今回はニューアルバムを提げて行なわれる久々のツアーということで期待は高まる。これまでの作品とは一線を画すシリアスなロックがどう展開されるのか? 今のTRICERATOPSのコンディションは? 観客とのコミュニケーションは? それらすべて、想像を超える結果だった。ひとことで言えばリアル。嘘のない、しかし豊かな経験値を駆使したサウンドと歌声で観客を楽しませた。《TRICERATOPSここにあり》。ギュッと唇を閉じて踏ん張るようにギターソロを弾く和田唱の姿が、そう言い放っているように見えた。同時に、デビュー25周年を迎えた彼らの新しい夏の始まりを感じた。

思ったことは我慢しないで言う。そういう時期かな

翌19日、博多は川沿いのカフェにてランチを兼ねてのインタビュー。ツアーの感想などから話を始めてみよう。

※ ※ ※

和田 その前に(笑)。今日は2回目のインタビュー、ありがとう。俺としてはもう一回録ってほしいなと思って。こないだはすみませんでした。ちょっと、あの日の状態はイマイチだったね、俺。かなりいろいろあって通常モードじゃなかったからね、今、冷静に考えると。

※ ※ ※

そう、実は、5月4日に東京で一度このページのためのインタビューをしているのだった。話を蒸し返すようで恐縮ではあるけれど、唱くんの件(くだん)のツイートで世の中がざわついていた渦中のことで、もちろんその前から予定されていた取材ではあったものの、彼は憤慨を抱えたまま席に着き、事の一部始終を熱弁し、時に興奮し、そして動揺していた。自らの信念に疑う余地はないものの、世間やまわりの反応に戸惑い、深く落ち込んでいた。聞けば、食事も喉を通らず、お酒ばかり飲んでしまうという。こんなに元気のない彼をこれまで見たことがなかった。

別れ際、「いいよ、全部書いちゃって」と、捨て鉢な言い方も気になった。いいよと言われてもなぁ、と考え込んでいると、数日後、唱くんがインタビューをやり直したいと言っているとマネージャー氏から連絡があり、それに応じることにした。どこかホッとしている自分がいた。

というわけで、改めての、福岡だったのだ。

※ ※ ※

和田 あのときは相当バッドモードだったね。

——その件に関しては、自分の中でちょっとは落ち着いたんですか?

和田 もちろんもちろん。今、冷静になって、なんでそういうことを発信したのか分析すると、自分たちの熱心なファンの人たちに対して、あれは認めてないよって言いたかったんだと思う。それがいちばん大きいな。あのステージを観て傷ついたんじゃないかな、って思ったから。ここ最近は、アルバムもそうだし、思ったことは我慢しないで言う、そういう時期というか。

まぁ、でも、いろいろ学んだね。やっぱり発信するっていうのは、それがポジティブでもネガティブでも波動となって自分に返ってくるってことだよね。で、こないだはネガを発信したわけで、そういうものは確実に大きなエネルギーとなって自分に返ってくる。それはわかっちゃいたけど、改めて学びました。

——ダメージは結構ありましたか?

和田 そうだね。でもそこに関しては自業自得だからね、受け入れてるよ。

——そこからツアーに向けてはどう切り替えていったんですか?

和田 日に日に元の自分に戻っていって、ツアーのリハに入るころは通常どおりだったから、それはよかったですね。

いやいや、俺なんてまだいいよ。世の中には圧倒的に、全員を敵にまわしちゃう人もいて、生きた心地しないと思う。ネット社会やばいよ。うん、だから、上手に付き合っていかないと。まぁ、ともあれ、ともあれ、"引っ提げツアー"は久々だから(笑)。

——ニューアルバム、引っ提げてましたね(笑)。セトリもすごく攻めてましたね。

和田 うん。(アルバムの曲を)全部やってやろうと思って。

——いい構成でした。昔の曲とのバランスも含め。

和田 そうでしょ。

——セトリを考える段階で、デビュー25周年というのも意識はしていたんですか?

和田 最初は意識してなかった。敢えてそこを言わなくても、敢えてニューアルバムのツアーっていうことでいいのかなと思ってたんだけど。でもやっぱりメニューを組んでいくうちにバランスを取ろうとするんだよね。ここにこういう曲が入ったらお客さんは嬉しいだろうな、とか。だから結果的に両方の要素が合わさった内容になったんじゃないかな。

宿る曲と宿らない曲

——かなり初期の曲もありましたけど、どんな気持ちで歌ってるんですか?

和田
 ああいうのは楽しいよ。キャリアを積んだミュージシャンにしかできないじゃん。新曲群からバーンッと転換して、ああいうかわいい曲をやるっていう落差を見せられるから、長くやってきてよかったなって思うね。

——あのかわいい世界観はたぶん今の唱くんには書けないと思うけど。

和田 絶対そうだね。創作なら作れるけど、でも"宿らない"。技術的にはできるけど、曲によって宿る曲と宿らない曲があって、自分でもわかる。宿ってる曲は書いてたときの思い出が蘇るから。いろんな顔が浮かびますよ(笑)。宿ってない曲はあまり思い出さないね、フィクションだから。やっぱりリアルに込めた曲と、創作物とでは、そのへんの違いはあるね。

——昨日歌っていたあの曲は宿ってますか?

和田 そういう意味で言うと、まぁ、二十歳ぐらい、インディーズのころに書いてた、まだ歌詞に関しては試行錯誤してた時代の曲で。それまで洋楽ばっかり聴いてきてたし、日本語の歌詞の曲を意識的に聴いたことがなかったから、自分で歌詞を書くってなったときに困ったことをよく覚えてる。

で、そのときに流行ってた小沢健二の『LIFE』とMr.Childrenの『Atomic Heart』を買ってきて、自分なりに研究したの。当時はオザケンのほうが自分の世界観にフィットしてたから身近に感じたかな。ミスチルはもうすでにちょっと難しいこと歌ってたから。だからオザケンの”〜〜なのさ”に影響されて、俺の昔の歌詞は、〜〜さ、っていうのが多いよ(笑)。

——その邦楽をあまり聴いてこなかったっていうのが、唱くんの歌詞の独特な雰囲気になってるのかもしれないね。

和田 昨日歌った曲はそんなころの歌詞だから、ちょっとたどたどしいんだよね。そこが今聴くとおもしろい。ねえ、ああいうことが当時あったんだろうね(笑)。概ね実話じゃないかな。

——宿ってるわけですね(笑)。

和田 そのときの状況はそのままに、ちょっと創作を足してるかな。

受け入れ態勢は万全だよ

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——今回のアルバムはとてもシリアスで、正直な気持ちをそのまま投影しているような気もしてるんですけど、そういう意味ではずっと変わらないというか、ラブソングを多く歌っていた時期もそれが正直な姿というか。そのときに歌いたいことを歌ってきてる印象がありますが。

和田 昔は何を歌ったらいいのかよくわからなかった。今でもそうだよ。言いたいことなんて、ざっくり2パターンぐらいよ。

——それを切口を変えたりしながら。

和田 そうそう。だから小説を書く人たちってすごいよね。それぞれ得意分野っていうものがあるんだね。だからバンドにおいても、二人に、今まではもっとこうしてくれたらいいのに、とか、作曲のコラボレーションとかしてみたいなって思ってたけど、いや、違うぞ、と。その人の役割りっていうものがあるから、そこを見ていこうと今は思ってる。

——昨日、久々にライブを観ましたけど、他にはいない、いいバンドだなと思いました。

和田 俺ら? ホント? やっぱりカップルと一緒なの。気持ち悪いけど(笑)。いろいろあって、ケンカして、結局それで距離って縮むのよ。ケンカなんてしたくないけど、俺は男女間においてもバンドにおいても言いたいこと言って、ウワーッて一回やばい感じになるんだけど、結果、より近くなるっていうことを今まで経験してきてるから。

だからバンド間においても、前は二人に遠慮してるところがあったけど、今は思ったことは言ってる。ケンカが致命的になって亀裂を生む場合もあるけど、俺はそれによって関係性が近くなることが多いかな。

俺は逆に何か言われるのが嬉しいの。何なら、これは間違ってるぞ、とか、怒られたいくらい。思ったことを伝えてくれるっていうのがもはや嬉しいから。

——そういうことは実際あるんですか?

和田 二人に? ない。ほぼほぼない。でも、受け入れ態勢は万全だよ。

——ソロ活動もありましたけど、やっぱりバンドに帰ってくるとホーム感はありますか?

和田 それはもちろん。チームの一員としてそこにいるっていうのは安心感……? うん、でも、トリオだからあんまり安心感はないか。それぞれ大変。人数が少ないから間違えたらすぐわかるし。ソロだともっとそうだし、俺は大変なことしかやってないの(笑)。いつか大人数のバンドとかもやってみたいね。

——でもTRICERATOPSでは、あの強力なリズム隊を背負って演奏して歌っているわけでしょ。その感覚はかけがえがないのでは、と思います。

和田 そうだね! うん、グルーヴ感は任せることができる。そうだね。一人じゃどうしようもないあの音圧とか、ロックバンドを一つ持っておくっていうのはいいことだよね。

——持っておく、って(笑)。

和田 これオススメよ。みんなもロックバンド一つ持っておくととてもいいですよ(笑)。やっぱりどっちも好き。やさしい世界観も、ロックの大音量のビート感も。でも今回のアルバムの攻めた部分を表現するにはやっぱりバンドしかないよね。

せっかくライブに来てもらった以上、
自分がお客さんの気持ちになっちゃうね

——『Unite / Divide』というアルバムをライブという場所で表現することで、楽曲への認識が深まったり、捉え方に変化があったりすることはあるんですか?

和田 うーん、MCもアルバムの世界観に近づけようかなっていうのも考えたんだけど、そういうところでメッセージを打ち出しちゃうと、せっかくの楽しい雰囲気がぶっ壊れるのよ。そういうのはアルバムを聴いてもらえばわかるし、ライブ会場で何か感じてくれればいいかなっていうくらいで、言葉で追い討ちをかけるようなことはしなくていいのかなと思って。だからMCは終始明るくやってます。

——すばらしい。

和田 そうしたほうが俺らっぽいと思って。

——そうですね。みんな、わかってると思うし。くどくど言うのは野暮ってもんですよ。

和田 そうそうそう。結果、自然体でできてるかな、と。

——3人の掛け合いも相変わらず絶妙で。

和田 毎回、出たとこ勝負で大体うまくいくのよ。最初の10年ぐらいはムラがあったけど、今はすごくやりやすい。

——ああいう楽しさもあって、シリアスなロックもあって、かわいい曲もあって。

和田 あの五角形のグラフ、レーダーチャートみたいなのが、俺らだったら三角形でいいや、それが大きく広がっているほうがおもしろいんじゃない?

人間誰しも喜怒哀楽を持っていて、みんな楽しいこと好きだし、かと言ってカッコつけたいときもあるし、悲しい気持ちを味わうときもあるし。それをなるべく表現したほうがエンターテインメントとしておもしろいよね。観に行く舞台も映画もそうだけど、いろいろな要素が入ってるほうが楽しいから。

——そうですよ。そういう姿勢が昨日のライブでもいっぱい観られてよかったです、本当に。

和田 特に俺らはほら、そもそもが3人編成で、幅を出しにくいじゃない? だからこそ、そこをより意識してるのかもしれない。

——ブルースロックとかで渋くやろうと思ったら、いくらでも渋くできちゃうし。

和田 もし今、俺らがそういう硬派な、ストイックなステージをやって、MCもほとんどしなかったら、みんな、今日の唱くん機嫌悪かった? っていう感想で終わっちゃうかもしれない。そういう意味ではちょっと辛いとこだな(笑)。

でもやっぱり、せっかくライブに来てもらった以上、自分がお客さんの気持ちになっちゃうね。

——大事なことですよね。

和田 俺も、ポール・マッカートニーのライブを観ると完全なパッケージショーになってて、MCも決まってるから、もう期待しないけど、それでも今日だけのサプライズがあればいいのに、とかって思うじゃん? でもないんだよ。最初から最後まで、この12〜13年ぐらいはMCのジョークまで一緒よ。ツアーのタイトルが数年おきに変わるから、何か変わるのかなと思うけど、セットリストもほぼほぼ一緒。数曲変わったかな、でも前の前のツアーでやってたな、とか。それだけ初見の観客がいまだに多いのはすごいと思うけど、コアファンのことは考えてないんだなと思うと、腹立ってくる(笑)。だから、もしポールがまた日本に来てくれたとしても、リアルタイムで生きてるポールを肉眼で見たいかどうかっていうだけだね。

俺らにも、俺らのことをすごく詳しく知ってるファンの人たちがいるわけじゃない? そういう人たちに対して、こう来たか、と思わせたいわけ。またこの感じかってガッカリさせたくないからね。

——では、今の唱くんのお気に入りのエンタメは何ですか?

和田 それはもう、昔からミュージカル。最近ハマっている作品があるわけではないけど、エンターテインメントの形として、いちばんはミュージカルだと俺は思う。だってビジュアル、ストーリー、音楽、ダンス……全部の要素がある。人によっては、なんでここで急に歌い出すのって言う人がいるじゃん。でも何を言ってるんだ、と(笑)。これはこういうエンターテインメントなんだから。それを言ったら、舞台や映画を観ても、お芝居なんでしょ、ってなるじゃん。それはだから、それまで何に触れてきたかっていう基盤も大事だと思うけど。

っていうほどミュージカルを知ってるわけじゃないけど、でもなんか、ブワッと鳥肌が立つ感じ、あるでしょ。あれはやっぱりずるいなと思う。

——映画とか、最近は何か観ました?

和田 最近は映画館で『シン・ウルトラマン』を観たぐらいかな。……あとはなんかあったかな。待って待って待って……! すぐにポンッと答えられない自分が腹立たしいわ(笑)。

※ ※ ※

どうぞゆっくり考えてください、と言いたいところだったけれど、この日はこのあと何時までに博多駅に着いて何時何分の新幹線に乗らなければならない(私がね……)というなかなかシビアなスケジュールで、そろそろインタビューを切り上げる時間が迫っていた。

有り難くもそれを踏まえての取材に応じてくれた唱くん、しかしエンタメ話はだいぶ名残惜しく、韓国ドラマは観てないけどおもしろいの? とか、『AMERICAN UTOPIA』を観たのはだいぶ前だしな、とか、邦画は映画館ではあんまり観ないけどと言いつつ『男はつらいよ お帰り 寅さん』の詳しすぎる解説へと、実にスピーディに話は展開されたのだった。

ああ、いつもの唱くんだな、と、おこがましいけれど、なんだかホッとした。

※ ※ ※

和田 常に一回前のライブより進化していたい。それができたら自分にとって勝利だね。最近はギターに対する愛情もまた強くなってきてる。自分をここまで連れて来てくれたものから、より大事にしていきたい。だってギターに出会わなかったら今の自分はいないから、感謝しなきゃね。

※ ※ ※

まだまだ話し足りない様子。両手に溢れるほどの音楽に対する、イコール、生きていることに対する喜びを感じさせる。それが彼の、そして彼らの音楽なのだと本当に思う。技術が奏でるのではない、心に届く音楽には、それがポジティブだろうとネガティブなことであろうと、大事なものが、そう、宿っているということなのだな。そのことをこれからも彼らは証明してくれるだろう。そう来たか、と唸りながら、これからもTRICERATOPSというエンタテインメントを楽しみたい。

Live Stage : photo by Michiko Yamamoto

tour 2022 "Unite / Divide"
!!! ニューアルバムを引っ提げたツアー 後半戦 !!!
7/18(祝・月)名古屋 ダイアモンドホール
7/24(日)大阪 なんばHatch
7/29(金)Zepp DiverCity TOKYO
詳しくはこちら →  https://triceratops.net  


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