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君は妖怪通りを歩いたことがあるか!

天王寺駅で高速バスを降りると秋晴れの空が広がっていた。
温暖化のせいなのか10月中旬を過ぎてもなお、うっすらと汗ばむほどの陽気だった。
ふと気が付くとヘリコプターのホバリング音が聞こえた。
それも複数機。
見上げると、報道ヘリと思しき数機のヘリコプターが旋回しているのが見えた。
何か事件か事故でも起きたのだろう。

この日、別の予定が突然キャンセルとなった。
朝には連絡を受けたものの、既に航空券は購入してチェックインまで済ませていたので、どうしたもんかと思いあぐねていた。
せめて前日ならの思いもあったが、まぁ仕方ない。
縁がなかったって事だろう。

ふと、先日の飛田新地訪問時に大門の写真を撮りそびれていたことを思い出した。うまくすると魔女見習いさんにまた会えるかもしれない。
うむ。
悪くない案だ。
大阪で途方に暮れた際に咄嗟に思い浮かぶのがユニバではなく飛田新地ってのもどうかと思うが(笑)

頭上にヘリの旋回音を聞きながら、金塚西1号線を南下して新開筋商店街のアーケードに入る。
まだ2回目の訪問なのに、なんだか勝手知ったる道だ。
あまりにヘリがうるさいので調べてみると、天王寺動物園のサルが脱走したらしいことがわかる。
当事者には申し訳ないが、凶悪な事件や重大な事故でなくて良かったと、ちょっとホッとする。

新開筋商店街のアーケードをしばらく進むと飛田本筋南商店街に突き当たる。
相変わらずDEEPな商店街だ。
突き当りを左に折れてしばらく進むと大門跡がある。
門柱から続く壁が高い。
入られないようにではなく、出られないようにする壁だ。
少なくとも女性には越えられないだろうなぁ。
往時の遊郭街の暮らしぶりに思いを馳せる。

TOBITAの文字がおしゃれ
高い壁の名残がありました

ぽかぽかとした散歩日和である。
前回訪問時はいろんな事で興味津々だったんだけど、今回はいろんな意味でのんびり気分だ。
前回は初心者にはハードルが高すぎて足を踏み入れなかった通称「妖怪通り」「年金通り」を歩いてみる事にした。
しかし「妖怪通り」ってすごいネーミングだよね。
大阪ならではだよなぁ。
平日の昼間の少し早い時間なので開いているお店は少ない。
恐る恐る座っている仲居さんを遠目から眺めてみるも、近眼と老眼のハイブリットなので良く見えない。
でも、なんか妖怪呼ばわりされる感じではないんだけど。
もしかしたら部屋に上がった途端に変化して、砂でもかけられて身ぐるみ剥がされたりするんだろうか?

飛田新地は、ある意味終身雇用的な側面があるようです。
年金をもらいつつも、女性として働けるだけの懐の深さがある。
それを許す客筋と、大阪特有の良い意味での緩さを感じます。
東京では目先の経済やメンツにとらわれて開発が進み、古い街並みは取り壊され、永井荷風が愛した玉の井や、風俗の聖地、吉原でさえも色街としての街並みが失われつつあるが、ここでは依然現役として遊郭の雰囲気を保ったまま街が残っている。
ちょっと衝撃を受けました。
文化として後世に残して欲しいと思う。

さて、そのまま歩を進めて、生きて妖怪通りを抜けられそうだと気を緩めたところで、ちょっと間口の広い店先で手を振る、やたらと愛想の良い仲居さんと目が合う。
ニコニコと笑いながら手招きをする彼女は、妖怪と言うよりはむしろ妖精だ。
おかしい。
聞いてた話と違う。
もしや歩く道すがら得体のしれないキノコから抽出した毒霧を吸い込んで幻想を見せらてるんじゃなかろうか?
ひとまずここは離脱だ。

飛田新地にはそこここにベンチやちょっと座って頭を冷やすスペースがある。
たぶん三人連れのおにーちゃん達が「お前どこにすんだよ」的な作戦会議を開く場所なんだろう。
ペットボトルのお茶を飲みながらちょっと冷静になってみる。
まぁあれだ。
妖怪通りだから意外性で5割り増しくらいに見えたんだろう。
さすがに青春通りやメイン通りを見て歩けばもっとナイスな出会いもあろうというもの。
そういえば魔女見習いさんにも再会できるかもしれないしね。

相変わらずぽかぽかとした小春日和の中。
中山下筋を北上する。
残念ながら魔女見習いさんのお店は閉まっていた。
曜日の関係なんでしょうかね?
青春通りから山下筋経由でメイン通りをまわる。
前回訪問時に目星をつけていたお店はことごとく閉まってました。
時間が早すぎたのか、曜日が悪いのか。

それでも開いているお店ではS級美女たちがニッコリと手招きをしてくれる。
露出度高めの衣装でスタイル抜群だったり、ツインテールに制服の学園仕様な仲居さん達は皆魅力的だ。
やっぱり飛田新地は楽しいすね!ユニバより好き(行った事ないけど←)

なんだけど、さっきの妖怪通りの仲居さんが心に引っかかって離れない。
容姿だけで比べれば、メインや青春通りの仲居さんも遜色はない。
どちらかと言えば上かもしれない。
それでもこの惹かれ具合はなんなんだろう?
今にして思えば、彼女はやたらと楽しそうだったんである。
他のお店の仲居さんが、当然だけど仕事として座っているのに比べて、この空間を楽しんでる雰囲気がオーラとして伝わったんだろうね。
ただ飛田新地は一期一会の街。
また会えるとは限らないのである。
もしかしたら尻子玉を抜かれて身ぐるみはがされるかもしれませんが、後悔はしたくない。
意を決して妖怪通りに戻ると、いました!

呼び込みのおばちゃんと談笑中にこちらに気づくと、相変わらずの気さくさで手招きしてくれる。
「楽しいからこっちおいでよー」な感じです。
ここまでくれば腹をくくるしかない!
「えぇーい、ままよ」とばかり敷居をまたぐ。

ところで、飛田新地には仲居さんとの自由恋愛にもいわゆる「しきたり」があります。
つまりお店や仲居さんにかかわらず、お客さんはほぼ同じようなひと時を過ごす事になるのですが、妖怪通りや年金通りは容姿でお客さんを上げられない分、しきたりの自由度が高いらしいです。
興味があれば調べてください。

個人的には逆にそこまでされても困るなぁと思ってましたが、ここはしきたり通りのお店でした。
どうやらこの日はヘルプでこっちに来てたらしく、普段は青春通りに座ってるんだそうな。
そりゃそうだよね。
それはそうと、意を決しての出会いは、結果として素敵なご縁をもらう事となりました。

この年になると、つくづく人生は縁だなぁと思います。
新たに出会う縁、消えてしまう縁、繋がる縁
多分この先、新たに出会うより失う縁の方が多いはずだから、今あるご縁を大事にしようと思うのでした。

創るのが好きな妄想系中年。写真、旅、映画