カラシソバ讃歌

【2020.10.22 Facebookより】

京都は老若男女問わず旅行先として人気がある。

たとえ神社仏閣山水に興味が無くとも何よりも「京都に来ている」というだけで羨望のまなざしを受けられる。
むしろ羨望のまなざしを受けるためだけに京都に来ている人もあるのではとも思える。

自分も京都に行くのは好きだ。

東京方面から西に出かけるとき、京都をただ通過するとなんとももったいないような気がする。
何度か訪れて「とりまる…?」「からすまる…?」の読み間違いの変遷を経てきちんと「烏丸通り」も読めるようになった。

その反面、食べ物に困るのも京都である。

京都でうまいものを食おうとすると天井知らずの値段がかかりそうだし、敷居が高い。
うっかり一見さんお断りの敷居を跨ごうものなら京都人特有の婉曲な表現で罵られた挙句にウェルカム・ドリンクならぬフェアウェル・ブブヅケを出されて化野あたりに放っぽりだされるのが関の山だ。

以前、2泊3日で京都市内の天下一品ラーメン5店舗の食べ比べをしてみたこともあるが、
こってりばっかりたっぷりでげんなりした。

毎回、右往左往した挙句に、結局全国展開のファーストフード店でお茶を濁していたのだが、
最近、結論めいたものが生まれた。

京都で食べるべき名物はカラシソバである。

カラシソバと聞いてどのようなものを連想するだろうか。

辛味噌に、ニラのどっさり載った真っ赤なスープのラーメンをイメージされる方もいるかもしれないが、それは台湾ラーメンだ(名古屋の)

カラシソバは見た目はあんかけ焼きそばに似ている。
あんかけ焼きそばとの違いは、中華めんにたっぷりと和辛子を使ったタレが絡めてあるところだ。

カラシソバは和辛子を主役に張った数少ない料理なのである。

今までわれわれは和辛子についておざなりにしすぎていたのではないだろうか。
一般的に、和辛子を使うものと言えばトンカツ、おでん、納豆。
あとは崎陽軒のチルドシウマイについてくる粉のやつを実験感覚でこねくったくらいだろう。

実際、日常の和辛子需要は納豆のパックで使わなかった正方形のアレだけで事足りており、チューブからしをわざわざ常備していない人も多いだろう。
ワサビやトウガラシと違って、どこでどのように育って、どうやってあの黄色い絵の具のような風貌を備えるのかもあまり知られていない。

さて、カラシソバはいかにも京都中華といった上品な風味のあとに、鼻に抜ける鮮烈な辛さが通り過ぎていく。
上品さの中に、少しくツンとしたところがあるというのはいかにも京都人の好みそうな味である(三流グルメレポート)

辛いことは辛いのだが食べ終わるとさわやかな気分になるし、トウガラシのように口中、腹中に残り続けるということもない。
説によると、盆地の夏の暑さを乗り切るためのメニューとして大正年間に生れたという。

カラシソバは、1000円程度で食べられて、美味しくて、京都以外では見ないような物なので、食べる価値のあるものといえるだろう。何かのきっかけがあればブームが起きるかもしれない。

駅の南側、近鉄名店街でも食べることができる。

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