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禅病の治療法(瞑想病の対治瞑想)

「世界の瞑想法」に書いた文章を少し推敲して転載します。


禅病とは


「禅病」と言われる病気があります。
主に、日本の禅宗などで使われる言葉ですが、瞑想を行っているうちに、陥る病気です。

症状は人それぞれなのですが、頭痛や、胸痛、頭がノボせる、手足が冷えるといったものです。

単に身体的な症状ということではなく、心理的な痛みを伴うもので、
「絶え間なく続く、ひりつくような焦燥感」、
「深い竪穴の底に落ちたまま、どうあがいても、上に登っていけない感覚」、
「深鍋の中で煎じられているような、我が身が焦げ付くような感覚」、
(以上「密教的生活のすすめ」正木晃著より引用)
といった表現がなされます。

原因は、はっきりとしたことは分かりませんが、心理的には、瞑想を行う際に、緊張やストレスが過剰にかかったことが考えられます。
また、気(プラーナ)の側面から言えば、気が過剰に頭に登ってしまった状態になったことが考えられます。

臨済宗中興の祖と称される江戸中期の白隠禅師がこれに陥り、「内観法」や「軟酥の法」で治療をしたことが、「夜船閑話」に書かれており、よく知られています。
この2つの方法を、他の方法をからめながら紹介します。

ただ、あくまでも一種の対症療法なので、根本的には、正しい瞑想法を習得するなり、不要な自我意識をなくすことが必要でしょう。


内観法


まず、「内観法」ですが、基本的には、腹部(下丹田・気海丹田)を中心に、足腰も含めて、下半身に意識を集中する方法です。
これによって、リラックスをして、頭部以外の腹部などの下半身へ気を戻します。

これは、仙道の「内丹法」の初歩である下丹田への集中の方法に似ています。
また、自己催眠の「自立訓練法」にも似ています。

具体的には、手足を適度に開いて仰向けに寝ころび、体をリラックスさせます。
そして、腹部を意識して腹式呼吸をし、雑念をなくした無心の状態になります。
こうして、腹部、下半身に、気を充実させます。

朝起きる前、夜寝る前に、寝ころびながら行うと効果的です。

「夜船閑話」では、下記のように念じます。

・我がこの気海丹田腰脚足心、まさに是れ本来の面目、面目何の鼻孔かある
・我がこの気海丹田、まさに是れ我が本分の家郷、家郷何の消息かある
・我がこの気海丹田、まさに是れ我が唯心の浄土、浄土何の荘厳かある
・我がこの気海丹田、まさに是れ我が己心の弥陀、弥陀何の法をか説く

ですが、この具体的な文言や内容にこだわる必要はないでしょう。
むしろ、自律訓練法などを取り入れながら、自分なりにやりやすい方法で行うと効果的でしょう。

ちなみに、「自立訓練法」は、精神医学者J・H・シュルツが開発した、次のようなリラックス法です。

準備:落ち着いた姿勢(力を抜いて座る、仰向けに寝る)、気持ちになって、目をつぶる
1:左右の手・足が、順に、重くなると唱え、想像し、感じる
2:左右の手・足が、順に、温かくなると唱え、想像し、感じる
3:心臓の動きが、安定したものになると唱え、想像し、感じる
4:呼吸がゆったりして自然になると唱え、想像し、行う
5:お腹が温かくなると唱え、想像し、感じる
6:額に涼しい風を受けていると唱え、想像し、感じる
終了:3つ数えると目が覚めると唱えて、数え、覚醒する、そして、手足を動かし、背伸び、深呼吸をする

瞑想をやっている人なら、すぐにできるようになるかもしれませんが、普通の人の場合は、それぞれのステップを何日も掛けて、順に習得していきます。


軟酥の法


「軟酥の法」は、頭の上にバターのようなものがあって、それが融け落ちて全身を癒すとイメージする観想法、イメージ療法です。
こちらは座って行います。

チベット密教の、懺悔による浄化のための瞑想法である「金剛薩埵の瞑想」の中で行われる「甘露下降法」と似ていて、これをシンプルにした形です。
こちらもリラックスすると共に、気を頭部以外に戻す瞑想法です。

ハタ・ヨガにも、これに似た気をコントロールする瞑想法がありますが、「軟酥の法」や「甘露下降法」はあくまでも観想法であり、間接的に気をコントロールする方法です。

具体的には、頭の上に、卵くらいの大きさの、よい香りして生暖かい軟酥(バターのような乳製品の薬)があるとイメージします。
これが融け落ちてきて、まず、頭全体を潤し、さらに両肩、両上肢、胸…と足までを潤し、すべての障害を直すとイメージします。

頭に気が昇っている場合は、融け落ちた軟酥と共に、気が下りて行くとイメージし、コントロールすると良いでしょう。

ちなみに、「甘露下降法」では、心身の障害が、黒い液体や膿などとして、身体の下部から排出されるとイメージします。


* 緊張を緩和しリラックスするとか、気を頭から下半身に戻す、といったことは、必ずしも瞑想的な技術を使わずとも、半身浴や足湯に浸かるといった方法も効果的でしょう。
浸かりながら瞑想するとより良いかもしれません。

* タイトル画像は白隠の自画像です。

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