悪の華(新堂冬樹)

「指先で、イチゴのように毛穴の開いたベルゾーネの鼻を思い切り摘んだ。毛穴から回虫のような白く細長い脂肪を噴き出すベルゾーネの顔が、赤黒く怒張した。」

作中に在る一節です。良い文章ですよね…そう思い、感動したのでここに載せました。

Twitterでたまに見かけるのですが、小説の一部分を掲載するbotのようなアカウントがあります。これも是非、そこに加えていただきたい。そう思いました。

そんな光景は目にした事がない人でも、目を閉じるとその情景が目に浮かぶような、素晴らしい表現力です。
新堂先生は汚い表現が本当に、ずば抜けている!

新堂冬樹は汚い表現がずば抜けて上手いのですが、今作は残念ながらわりと綺麗め。しかし個性豊かなキャラクター描写、読ませる文章は変わらずなので楽しめます。

序章の舞台はイタリアのシチリアという都市。シチリアって、こんな治安悪いとこだったの?!警察や司法も、日本以上に腐っています。よくこんなんで先進国名乗れたな!
そんな無法国家の様なイタリアでマフィアをやっているガルシアは所属する組織のナンバー2であるマイケルの裏切りにより、家族を殺され自らも追われる身となりました。

実は日本人とのクオーターであるマイケルは叔父のいる日本へ逃亡、マイケルへの復讐資金を稼ぐために日本ヤクザの依頼を引き受けます。

このガルシアに依頼する片桐というヤクザがまた、非常に面白い。ろくでもない、情けない奴なんですが、それがコミカルに描かれていて笑えるんです。一言で言えば見栄っ張りなんですが、虚飾もここまで突き抜けてると潔いですね。
ガルシアと、不破というヤクザの視点で語られるのですがまるで漫才のボケとツッコミです。
新堂先生はろくでなしを書くのが上手いなあ!
まるで少年漫画の雑魚キャラの様な片桐、実は思わぬダークホースとなります。私はこういうキャラがすごく好きなので「やったね片桐!」と思わずガッツポーズしました。ガルシアも、不破も馬鹿にしていた片桐の掌で踊らされていたというのが面白い。
片桐は同作者「溝鼠」の主人公、鷹場英一を彷彿とさせますね。最低で最高!

そんな片桐がガルシアに依頼したのは、前述した不破という同組織のヤクザを暗殺する事。
この不破もまた生首の、眼球をくり抜いた眼窩に切断した性器を差し込み、それを街中に晒して見せたりするような、ちょっと普通じゃない人です。

不破は上海マフィアと協力しつつ、彼らを出し抜こうと画策しており、チャイナマフィアを巻き込んだ抗争へ発展。
チャイナマフィアと言えば馳星周の不夜城シリーズを思い出すのですが、それよりも今作の方がチャイナマフィアの組織図に関して作り込まれている気がしました。
そして出てくるチャイナマフィアがまた、見てて楽しい。


特に福建マフィアの呂は、汚い下品な表現を得意とする新堂冬樹の才能が発揮されており、なかなか見ごたえがあります。

チャイナマフィア、不破、不破の雇うヒットマン、強敵と思われた彼らが皆あっけなく死んで、敵にすらなり得ないと舐めくさっていた片桐が実は全てを操っており、ラスボスとして立ちはだかるというのは意外性があってかなり好きでした。
こういう、思わぬ人物が全て持って行くって展開良いですね~

そして新堂冬樹はガルシアや不破といった定番ヒーローよりも、片桐みたいな滑稽な人物の方がペンが光る気がするんですよね…溝鼠シリーズは新堂先生のそんな特技を思う存分発揮した作品と言えます。

個人的に新堂冬樹と言えば、肉蛆炒飯を筆頭とする変態料理です。レシピを必ず掲載し、目を閉じるとその光景が浮かんでくるような…素晴らしい表現力で毎回読者に吐き気を催させています。
しかしガルシアは普通に料理する人という設定なんで、まともな美味しい料理しか出てきません。ガーリックピラフ、オニオンサラダ、苺、という風に普通の食事に興味が無さそうな新堂先生が、それでも一生懸命ひねり出した感があります。

新堂先生、「カリスマ」とかでも普通の料理の描写を頑張っているのですが、不思議と食欲そそらないんですよね。
やはり新堂冬樹の真骨頂は汚い、下品なのですよ。

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