北海道大学大学院2023年入試[2]

問題

確認事項

定理1   距離空間において次の 3条件は同等である.
     (1) 任意の開被覆は有限部分開被覆をもつ.
     (2) 任意の数列は収束部分列をもつ.
     (3) 任意の無限集合は集積点をもつ.

定理1 の条件を満たす空間をコンパクト距離空間と呼ぶ.     実際にどの条件をコンパクトの定義に採用するかは書籍による異なるが, (1) を採用するものと (2) を採用するものが多い.     また, 一般の位相空間におけるコンパクトの定義は (1) を採用するのが普通である.

距離空間 $${X}$$ が全有界であるとは, 任意の $${\varepsilon>0}$$ に対して $${X}$$ の有限被覆 $${\{U_1,U_2,\dots,U_n\}}$$ で

$$
d(U_i)<\varepsilon\quad(i=1,2,\dots,n)
$$

を満たすのもが存在することをいう.
ただし, $${d(A)}$$ は部分集合 $${A}$$ の直径である.
全有界な距離空間は有界だが, 有界な距離空間は必ずしも全有界ではないことを注意しておく.

命題2     コンパクト距離空間は全有界である.

位相空間 $${X}$$ において高々可算の部分集合 $${E}$$ が存在して $${\mathrm{Cl}(E)=X}$$ を満たすとき $${X}$$ は可分であるという.      ただし, $${\mathrm{Cl}(E)}$$ は $${E}$$ の閉包である.

命題3     全有界な距離空間は可分である.

位相空間に $${X}$$ がすべての点において高々可算の基本近傍系をもつとき $${X}$$ は第1可算公理を満たすといい, $${X}$$ が高々可算の基底をもつとき第2可算公理を満たすという.     距離空間は第1可算公理を満足する.

定理4     距離空間が可分であることと第2可算公理を満たすことは同値である.

定理5    距離空間がコンパクトであるための必要十分条件は全有界かつ完備であることである.

上の定理を実数全体の集合や(有限次元)ユークリッド空間に適応するとこれらの空間ではコンパクト集合であることと有界閉集合であることが同値であることが導かれる.     さらに, コンパクト距離空間上の(実数値)連続関数は最大値と最小値をもつことがわかる.

定理6(ルベーグ数)     コンパクト距離空間 $${(X,d)}$$ の任意の開被覆 $${\mathcal U}$$ に対してある $${\varepsilon>0}$$ が存在して次の命題を満たすようにできる.

$${X}$$ の部分集合 $${E}$$ が $${d(E)<\varepsilon}$$ を満たすならばある $${U\in{\mathcal U}}$$ が存在して $${E\subset U}$$ が成り立つ.

この $${\varepsilon}$$ を開被覆 $${\mathcal U}$$ のルベーグ(Lebesgue)数と呼ぶ.

解答

定理1の (1), (2), (3) のどれをコンパクトの定義に採用するかによって証明が変わるのだが, ここでは (1) を採用した場合の解答を紹介し, それ以外の定義を採用した場合の証明は別解(有料)で紹介する.

点 $${a}$$ の $${\varepsilon}$$ 近傍を $${U(a,\varepsilon)=\left\{x\in X|d(a,x)<\varepsilon\right\}}$$ とおく.

(1)

(a)   自然数 $${n}$$ に対して, $${X}$$ の開被覆 $${\displaystyle\left\{U\left(x,\frac1n\right)\right\}_{x\in X}}$$ を考える.     $${X}$$ はコンパクトだから, 有限部分被覆

$$
\displaystyle U\left(a^{(n)}_1,\frac1n\right), U\left(a^{(n)}_2,\frac1n\right), \dots, U\left(a^{(n)}_{n_k},\frac1n\right)
$$

が存在する.     $${\displaystyle A_n=\left\{a^{(n)}_1,a^{(n)}_2,\dots,a^{(n)}_{n_k}\right\}}$$ とおき, $${\displaystyle A=\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n}$$ と定める.     $${A}$$ は可算集合である.

背理法により $${\mathrm{Cl}(A)=X}$$ を示す.     $${\mathrm{Cl}(A)\subsetneqq X}$$ と仮定すると $${y\in X\setminus\mathrm{Cl}(A)}$$
が存在する.     $${\mathrm{Cl}(A)}$$ は閉集合だから $${\displaystyle X\setminus\mathrm{Cl}(A)}$$ は開集合であり $${U(y,\delta)\subset X\setminus\mathrm{Cl}(A)}$$ を満足する $${\delta>0}$$ が存在する.     $${\displaystyle\frac1n<\delta}$$ を満たす自然数 $${n}$$ について

$$
X=\bigcup_{a\in A_n}U\left(a,\frac1n\right)
$$

だから $${\displaystyle y\in U\left(a,\frac1n\right)}$$ を満たす $${a\in A_n\subset A}$$ が存在する.     このとき $${\displaystyle d(a,y)<\frac1n<\delta}$$ だから $${a\in U(y,\delta)}$$ となり,

$$
a\in U(y,\delta)\cap A \subset U(y,\delta)\cap \mathrm{Cl}(A)
$$

を得るが, これは $${U(y,\delta)\subset X\setminus\mathrm{Cl}(A)}$$ に反する.     したがって $${\mathrm{Cl}(A)=X}$$ である.

(b)     開集合の集合(族) $${\mathcal O}$$ を

$$
\mathcal O = \bigcup_{(a,n)\in A\times {\mathbb N}} U\left(a,\frac1n\right)
$$

と定めると, $${\mathcal O}$$ は開集合の可算集合である.     ただし, $${A}$$ は問題 (a) で定義した $${X}$$ の可算部分集合, $${\mathbb N}$$ は自然数全体の集合である.     $${\mathcal O}$$ が $${(X,d)}$$ の開集合の基であることを示す.

$${X}$$ の開集合 $${O}$$ に対して $${x\in O}$$ とする.     このとき, $${U(x,2\delta)\subset O}$$ を満たす $${\delta>0}$$ が存在する.     $${n}$$ を $${\displaystyle \frac1n<\delta}$$ を満たす自然数とする.     部分集合 $${A}$$ の定義より $${\displaystyle d\left(a,x\right)<\frac1{2n}}$$ を満たす $${a\in A}$$ が存在する.     $${\displaystyle y\in U\left(a,\frac1n\right)}$$ に対して

$$
d(y,x)\leqq d(y,a)+d(a,x)<\frac1{2n}+\frac1n<\delta+\delta=2\delta
$$

だから $${y\in U(x,2\delta)\subset O}$$ である.     $${\displaystyle x \in U\left(a,\frac1n\right)}$$ は明らかだから より $${\displaystyle x\in U\left(a,\frac1n\right)\subset O}$$ である.     したがって $${\mathcal O}$$ は $${(X,d)}$$ の開集合の基である.

(2)

任意の $${\varepsilon>0}$$ を固定する.     任意の $${x\in X}$$ において $${f}$$ は連続だから

$$
\exists \delta_x>0; \quad d(x',x)<2\delta_x \Longrightarrow
\left|f(x')-f(x)\right|<\frac{\varepsilon}2
$$

が成り立つ.

$${X}$$ の開被覆 $${\displaystyle\left\{U(x,\delta_x)\right\}{x\in X}}$$ は有限部分被覆

$$
\left\{U(x_1,\delta{x_1}), U(x_2,\delta_{x_2}), \dots,
U(x_n,\delta_{x_n})\right\}
$$

が存在する.    $${\delta=\min\left\{\delta_1, \delta_2, \dots, \delta_n\right\}}$$ とおく.

$${X}$$ の任意の 2点 $${x, x'}$$ に対して $${d(x,x')<\delta}$$ が成り立つとき,

$$
x\in X = \bigcup_{k=1}^n U(x_i,\delta_i)
$$

だから, $${x\in U(x_i,\delta_i)}$$ を満たす $${x_i}$$ が存在する.     すると $${d(x',x_i)\leqq d(x',x)+d(x,x_i)<\delta+\delta_i\leqq2\delta_i}$$ だから $${\displaystyle \left|f(x)-f(x_i)\right|<\frac{\varepsilon}2}$$ かつ $${\displaystyle \left|f(x')-f(x_i)\right|<\frac{\varepsilon}2}$$ であり

$$
\left|f(x')-f(x)\right|\leqq\left|f(x')-f(x_i)\right|
+\left|f(x)-f(x_i)\right|<\frac{\varepsilon}2+\frac{\varepsilon}2=\varepsilon
$$

が成り立つ.

独り言

この問題はコンパクト空間の基本的な性質の証明を扱う問題であり, コンパクトという概念の理解とその性質を取り扱う技量を計ることを意図していると思われる.     設問 (1) (a) は命題2 と命題3 を示す問題であり, 設問 (b) も定理4 を示す問題である.     (2) もコンパクト距離空間の重要な性質であり多くの文献に証明がある.     (2) の証明はルベーグ数を用いるのが簡単だが, より一般的(証明が困難な)性質を用いるようで ”非紳士的” な気がする.     コンパクトの定義 (1) から示す証明が多くの文献で採用されている証明だと思われるが, 定義 (2) または定義 (3) から示すことも可能(有料)である.     とくに, (3) から一様連続を示す方法はかなり技巧的なものになってしまった.

最後に,今回の記事を書くにあたって参考にしたコンパクト距離空間に関して詳しい文献として河田-三村の現代数学概説II ([1])と小山の位相空間論([2])を挙げておく.     現代数学概説II は距離空間論, 位相空間論を詳細に紹介した文献で著者は辞書的文献として愛用している.     小山の位相空間論には距離空間, 位相空間の多く紹介されていて興味深い.

参考文献

[1] 河田敬義, 三村征雄. 現代数学概説II, 現代数学, 第2 巻. 岩波書店, 1965. ISBN: 978- 4000052917.
[2] 小山晃. 位相空間論 — 現代数学への基礎—. 森北出版, 2021. ISBN: 978-4-627-07861-1.

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