忘却


ミスディオールを身に纏ったところで、

赤毛のアンに憧れた、そばかすも色とりどりのセロハンもおさげに結った赤髪もきらいめいて見えた。蝶は見るだけなら綺麗であるし海の香りは好きではないけれど水辺が揺れる音はなんだか心地がいい、湯本香樹実の文章に触れるとやさしくなれるしテナーサックスの音を聞くと何故だかひどく泣きたくなる。

捻くれているので夢や希望といった言葉には信頼を寄せていない。嘘も間違いもほんとうはあってもいい。けれど純粋無垢な少女に誰もが憧れる。戻れない昨日に想いを馳せてさよならもありがとうも飲み込んでいる、夜明け前に指先が生み出した言葉の羅列を読み返して満たされる、すべては自分の為に、許しを乞う為に。

戦争を知らない、政治を語らない、ジェンダーへの関心がない、歴史を学ばない、芸術は理解できない、文章を生み出すことができない、けれど愛はある。彗星が落ちたのもキリストの誕生もバレンタインの戦略も解けた靴紐も知り得ない、やり直せない、恥ずかしながら、知識はない。語らない、綴らない、アウトプットは彼や彼女の本心を暴く物ではない。


意味のない文章をつらつらと書き殴りたい夜があってもいい。すべてはテンポと字面と思い付き、深掘りも何もない、今日が終われば全て忘れる。

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