月へと向かう道すがら


友達が言う。「月が綺麗ですね」の月は、
満月なのかな?。
僕は答える。どこか欠けている気がする、と。
満月だと、それ自体で完結していて、
例えばあなたと2人で見上げる月は、
だから、どこか欠けている方が美しい。

夏の空を見上げながら、小さな詩人の歌声に耳を傾けている。
「今日からはふたりぼっち」
ことばはいらない。ひとりぼっちのまま、
同じ星を見ている。
「流れ星に願いを込めよう」なんて茶化して、星が流れてくるのを待つけれど、
今夜は落ちて来ないみたいだ。

たくさんの約束を交わした。
たくさんの約束を、そして果たせないまま。
いつか離ればなれで暮らしている。
「忘れないよ」
いつか、呟いた誓いは、
日々に追われ、忘れたことも忘れ、
月に消えていく。
欠けたままの月に。

「きれいだね」
いつか黙って待っていた流れ星が、
ようやくいま目の前に、降ってくる。
愛おしさは、時に懐かしさをはらむ。
僕たちの未来の小さな破片、断片。
それは積み重ねて来たいま。
「さあ、手を伸ばせ」
美しい日々のはじまりは
連なる記憶、
綴られては消えていったメロディ。

耳をすませば、小さき声が歌い出す。
僕もあなたもひとりぼっちで、それでも、
それぞれの視線の高さが同じで、
見ている景色もまた同じなら、
ふたりのくちびるには、
歌が溢れてくるのでしょう。
「さあ、歌い出せ」

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