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なんでもないよ、

遠距離恋愛を続けてもうすぐ一年。

すれ違う日々の中で
お互い傷つけあって否定し合う毎日。


今日は君が僕の家に来てくれた。

君はキッチンに立ちながら
僕の好きな春巻きを作っている。


「昨日は沢山怒ってごめんね」

そうだ、昨日も喧嘩したんだ。

「大丈夫だよ」
「仲直りしよう?」
「うんごめんね」


「でもさ、こんなに喧嘩して
好きになってくれた頃に比べて
嫌な部分沢山見せたのに
どうして好きでいてくれるの?」


君は僕にそう聞いてきた。
自信が無い君と僕はお互いによくこの質問をする。


「もうなんか前ほど思いつかないな〜」


包丁を動かす手が止まる。


「なにそれ!?
じゃあ、もう好きじゃないってことだね」

「そういうことじゃないよ」

「好きなところ聞かれて答えれない人いる?
他に好きな人でもいるんでしょ
それならそうって言って欲しかった」

「そんなことなにも言ってないよ」

「じゃあなに?」

「はあ、だってさ
いつもそうやって決めつけてさ」

「何が言いたいの?」

「 ┈┈┈┈┈なんでもないよ、」

「もういいよ、帰る」


そう言って君は出来たての春巻きを置いて
荷物をまとめて玄関に向かう。

僕は追いかけなかった。

一人部屋の中でため息をつく。


また喧嘩か。
そう思うことも増えたな。
なんでこんなに上手くいかないんだろう。
また言葉が僕らの邪魔をする。
一人の方が楽なんだろうな。
僕はそんなことを考えたりもした。

君の作ってくれた春巻きを一人で食べ終わって
片付けた時。
机の下に紙袋が見えた。

「なにこれ?忘れ物?」

開けてみると二人の写真が貼られた
コルクボードと手紙だった。


┈┈┈┈へ

一年記念日だね。

最近無理してない?
仕事大変だと思うけど無理しないでね

最近会えてなくて喧嘩ばかりしてたけど
無理しすぎて体調崩して
なにかあったら遅いからね
私より長生きしてもらわないと
困るんだからね!

いつもありがとう。



はぁ、まただ。
君はいつも僕が少し無理をしている時
僕より先にそれに気づく。

僕はその手紙を持って家を飛び出した。


好きなところがどこかを考えると
前ほどパッと言葉に出せなくなった
というよりかは思いつかなくなった。

それは喧嘩したからとか、
冷めてしまったからとかではなく

君のことを思うと
胸の中が凄く穏やかな気持ちなる。

君とくだらない話をしている時の僕は
とっても素敵な笑顔をしている。

君の声を聞いている時僕はとても癒される。

君の怒った顔も愛おしく感じて
寝ている時のマヌケな顔は僕の心をほぐす。

そんなこと言わなくったって
伝わるだろって思ってた。

電源も切られてどこにいるかわからないけど
僕は一生懸命がむしゃらに走った。

確かあの時も僕は一生懸命
まっすぐ走ってた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈⠀見つけた。


「これどうしたの?」
「薔薇の花束、さっきお花屋さんの前通って
昔二人でここの公園来たなって思い出したの」

「あぁ(笑)
そんな事もあったっけ」

「なにそれ、忘れないでよ!
君が私にくれたんだよ?バラの花束
だから今日は私からこれ渡すね、はい」

「ありがとう、、ん?6本?」

「そうだよ〜意味は調べてね!
てかなんでそんな大事な日も忘れちゃうかなあ」


本当は覚えてるんだ。
それは人生で初めて告白した日。
あのお花屋さんの近くの公園に呼び出したのに
勇気がなくてずっとたわいも無い話をして
そろそろ暗いから帰ろうって君の言葉に
気づいたら僕はその場から
お花屋さんに向かって走った。


「薔薇の花束、3本で作れますか?」


「なんで笑ってるの?」
「んーん、なんでもないよ」
「君はすぐなんでもないよって言うよね
よくない!ちゃんと教えて?」


「あの頃はさ、君の方が仕事とか無理しちゃってさ
自分が壊れちゃうぐらい大丈夫じゃないのに
大丈夫ってばっか言ってて
自分で自分のこと沢山傷つけて苦しくなってて
本当心配ばっかかけてきてさ」


「なにそれ覚えてたの?」

「忘れるわけないよ
だからそばにいたいって思った。
君が嫌なこと忘れるぐらい笑わせられるように
責任感強い君が僕の前では休めるように
君が自分のこと責めずに
自分を認めてあげられるようにさ

その時から気持ち変わってないよ
いつも言葉選びが悪くて
誤解させてしまうことも多いけどさ」


「私もあの時苦しくて辛くて
誰にもいえなくて悲しくて
でも苦しいとか、辛いとか
悲しいだけじゃなかったのは
君がいてくれたからなんだよ
あれから沢山喧嘩しても
嫌な部分見せてもずっとそばにいてくれたね」

「僕が勝手にそばにいたかっただけだよ」

「そういう相手に負担にならないように
言える優しいところが好きだよ」

「僕はね、さっき言えなかったけど
上手く言えないけど、
君といる時の僕が好きでさ」

「うん?」

「もちろん君のことが好きなのは大前提で
けどこんなに大切に思える君に出会って
確かに喧嘩とかすれ違いもあって苦しいけど
君と過してる僕はとても幸せそうで
君を大切に思えるこの日々が心地いい」

「そんなこと思ってくれてたんだね」

「だから君も僕といる時の君だけは
好きでいて欲しいなって思うんだ
それをお互いに感じれたら
ずっとそばにいられるかなって」

「そうだね、前にネットで見たの
二人の関係が二人にしかわからない
理由で続けばいいって」

「いいね、それ」

「君のことも君といる時の私も
大切に好きでいれるようになるね」

「うん、聞いてくれてありがとう
あと、一年間ありがとう」

「ふふ喧嘩ばっかりで
忘れちゃってたよねこんな風に
ありがとうって伝え合うのも」

「そうだね、
一番大切なことだったのにごめんね」

「んーん、大丈夫だよ
よし、帰って春巻き食べよっか」

「あ、ごめん食べちゃった」

「え〜!?私の夜ご飯は?」

「、、、笑
なんか僕が作るよ」

「じゃあ久しぶりにふたりで作ろ!」

「わかった」

「じゃあ、スーパーいこっか」

「あ、ちょっと寄るところあるから
先にスーパーいってて!」

「ん?なんかあるの?」

「なんでもないよ!」

「わかった気をつけてね」


すみませんまだ空いてますか?
薔薇の花束、9本でお願いしたいんですけど





言葉だけじゃ上手く伝わらない離れた関係でも
こんな風に君と乗り越えて行けたら

いつか終わりが来ることを考えて不安になるより
今ある幸せを沢山噛み締められる関係になりたい。

そんな僕らは今日も言葉足らずに
なんでもないよ、って口にするけど

なんでもないよ、のあとは
いたずらに笑ってる君がいて
隣に幸せそうな私がいたらいいな。

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