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【トンデモ歯゛スターズ】つまようじ法は歯周病を治す画期的な歯みがき法!?

 つまようじ法という特殊な歯みがき法で、歯周病を改善して免疫力をアップするという発信が繰り返されています。この方法は訪問歯科衛生指導説明書という公的文書にも記載がありますが、多くの歯科医師にとってなじみのないものです。また免疫力アップというのは歯周病改善に伴う副次効果と位置付けられているようです。

今回はつまようじ法で歯周病が改善するのか、免疫力増強効果があるのかについて検証したいと思います。

執筆:中田先生@NakaDash_
チェック:2名以上のトンデモ歯゛スターズメンバー
(見出し画像とグラフ作成:akina先生@nakixa)

トンデモバスターズ的結論


 その他の歯みがき法と同様、つまようじ法単独で限定的な歯周病の改善効果がある。一方で、その他の歯みがき法からつまようじ法に切り替えることで歯周病治療において歯肉縁下処置(後述)が不要になる効果や、免疫増強効果があるとは考え難い。セルフケアに制約がある等の理由で大量のプラークが付着している場合、つまようじ法はその他の歯みがき法より効率的にプラークを減少させる可能性がある。
一方でつまようじ法が他の方法より常に優れているというエビデンスは現時点では見つけられなかった。

参考になった文献

The effect of supragingival plaque control on the progression of advanced periodontal disease
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1600-051X.1998.tb02484.x

抜粋:重度慢性歯周炎患者において歯肉縁上プラークコントロールのみでは歯周組織破壊を予防することはできない。

M Morita, K Nishi, T Watanabe. Comparison of 2 toothbrushing methods for efficacy in supragingival plaque removal The Toothpick method and the Bass method. J Clin Periodontol. 1998
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9797056/

抜粋:つまようじ法はバス法よりも有意に多くの歯間部プラークを除去した。

森田学ら つまようじ法とフロッシングを併用したバス法とのマッサージ効果の比較 口腔衛生学会雑誌 1997
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/47/2/47_KJ00003929014/_pdf/-char/

Rajwani AR, et al. Effectiveness of Manual Toothbrushing Techniques on Plaque and Gingivitis: A Systematic Review. Oral Health Prev Dent. 2020
https://www.quintessence-publishing.com/deu/en/article-download/842364/oral-health-and-preventive-dentistry/2020/01/-effectiveness-of-manual-toothbrushing-techniques-on-plaque-and-gingivitis-a-systematic-review


I. Magnusson,J. Lindhe,T. Yoneyama,B. Liljenberg. Recolonization of a subgingival microbiota following scaling in deep pockets. J Clin Periodontol. 1984
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1600-051X.1984.tb01323.x?sid=nlm%3Apubmed


Jae Young Lee, Yoon Young Choi, Youngnim Choi, Bo Hyoung Jin. Efficacy of non-surgical treatment accompanied by professional toothbrushing in the treatment of chronic periodontitis in patients with type 2 diabetes mellitus: a randomized controlled clinical trial. J Periodontal Implant Sci. 2020.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7192821/


T. Yoneyama, M. Yoshida, T Matsui, H Sasaki. Oral care and pneumonia. The Lancet, 1999
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(05)75550-1/fulltext


I. Uno 1, T. Kubo. Risk Factors for Aspiration Pneumonia among Elderly Patients in a Community-Based Integrated Care Unit: A Retrospective Cohort Study. Geriatrics (Basel)
. 2021

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34940338/


トンデモ歯゛スターズ的見解


1,つまようじ法とはどういった方法か

 歯みがき法は目的に応じて無数にありますが、つまようじ法は歯科大学教育では取り扱われていない比較的マイナーな歯ブラシの使用法です。

 Morita(1998)の論文によると「毛先を歯冠側へ30度程度傾けて当て、歯と歯の間に毛束が入るように押し、1部位につき8-9回出し入れする」のがつまようじ法だと定義されています。教科書にも載っているチャーターズ法と毛先の位置づけ等は同じですが、つまようじ法は歯と歯の間(歯間部)の清掃に特化するために「毛束が2列で内向きに傾いている」特殊な歯ブラシを使用します。

 同論文では、48時間歯みがきを禁止した20名の歯科大生に対しつまようじ法専用歯ブラシを使用して、つまようじ法とバス法でのプラーク除去率を比較しました。結果は頬舌側のプラーク除去率は同等、歯間部のプラーク除去率はつまようじ法で有意に高かったことがわかりました。

 歯周病患者に対しては歯間部の清掃のためにフロスや歯間ブラシを歯ブラシと組み合わせて使用するよう求めることが多いですが、つまようじ法ならば専用歯ブラシ一本で対応できるため時間効率に優れていると言えます。

 一方でつまようじ法に関係する原著論文は一つの研究グループから発表されているだけで、別の研究グループによる追試は行われていません。またプラーク残存率の評価法であるQuigiey & Hein Indexは目視による判定であるため、他の評価法と比較して「プラーク無し」とされる範囲が広い方法です。

 歯周病の治療効果を明らかにした論文はプラーク染色液によって口腔衛生状態を判定することが多いので、歯周病外科治療を想定した本格的な歯周病治療で求められる水準が達成できるかは更なる研究が必要です。

(図)https://www.pmjv7.co.jp/v7.html

2,つまようじ法だけで歯周病は治るか

 歯周病学の研究では歯みがきの習熟や非麻酔下での目視できる歯石とりが該当する『歯肉縁上処置(supragingival treatment)』と、麻酔下での歯周ポケット内部の歯石とり『歯肉縁下処置(subgingival treatment)』で分けて研究されてきました。

2者を比較した代表的な論文として、Westfelt(1998)は12名の40-65才の重度慢性歯周病患者に対し、test部位は歯肉縁上処置のみ、control部位は歯肉縁上処置に加え歯肉縁下処置を行い、12/24/36ヶ月後に比較しました。

結果として歯肉縁上処置だけでもある程度歯周病の症状は改善する一方、4mm以上の歯周ポケットのある部位では歯周病の進行を止められないことがわかっています。

またWestfeltの実験の口腔衛生状態は両部位ともに磨き残し率10%を維持しています。つまようじ法の実験はプラークが点状に付着している程度までの改善を観察しているので、それよりもルーズな口腔衛生状態までの改善を観察したものと解釈できます。

 つまようじ法であれば歯肉縁下処置が必要なくなることを示した他の論文も見つけることはできず、以上から従来の歯みがき法にはない免疫増強効果等を発揮すると考えるのは難しいのではないでしょうか。

Westfelt(1998) test部位
Westfelt(1998)control部位

3,介護現場で活躍できる可能性あり

 しかし一方で、重度歯周病の診断がついたといえ、全ての患者に対して歯肉縁下処置や歯周外科手術ができるわけではありません。

例えば介護施設に入居する高齢者などには自分自身の歯みがきを行うのが困難な者も多いです。口腔衛生状態が改善していない状況で歯肉縁下処置をおこなっても治療効果はほとんど得られないことがMagnusson(1984)の論文で分かっています。

 そういった「大量のプラークが常に付着しており、歯みがきの改善が期待できない」ケースに対してつまようじ法の術者みがきは合理的です。ある程度プラークを減らせば、歯周病の症状や口臭の抑制からQoLは大いに改善します。
Yoneyama(1999), Uno(2021)の報告によれば誤嚥性肺炎などの防止にもつながり得るとされており、介護施設における歯科医療従事者による口腔ケアは2000年の介護保険制度導入時より採用されています。

 もちろんこういった対応はつまようじ法でなければできないというものではなく、小型の歯ブラシであるタフトブラシで同様の目的を達成する場合が多いです。もし今後つまようじ法専用歯ブラシのほうが使いやすいと感じる人が多ければ、シェアが広がる可能性はあるでしょう。

とはいうものの「自分で歯みがきできない介護施設入居者の誤嚥性肺炎を減らす」ことと、「自立した生活をしている人のウィルス感染を減らす」のはまったく条件の違う話で、混同してはなりません。


 以上をまとめると、つまようじ法は他の歯ブラシ法と比較し限定的な場面で優先して採用される可能性があるが、常に優先度が高いとは言い難く、独自の追加効果があるとも考えにくいと位置づけられるでしょう。

トンデモ歯゛スターズの活動は、基本的に全てボランティアで行っております。本活動を持続可能なシステムにしていきたいと考えておりますので、是非ご支援いただけると幸いです。