ロープ
繋がる安心
あのちょっとしたヒモに命預けるとか変わってますね?とゆうのが登山をやらない人たちの偽らざる感想であろう。
しかしだ、登山やクライミングをやる人達にとって、あんなに素晴らしいのものはない。
多くの犠牲と試行錯誤の末に現在の安全だなぁってみんなが思えるロープが出来たのだ。その辺りの事情についてはピットシューベルトの「生と死の分岐点」であるとか、Wikipediaの「ナイロンザイル事件」、井上靖の「氷壁」などを読んでみることを強くオススメする。
そう、ロープは安全のためのもんだ。
オレもそう思ってましたよ。しかしね、違ったね。
あれは2018年の暮れも押し迫った週末のことだ。オレ達のパーリィーはアイスのマルチの入門ルートといえばココ!とゆわれているルートに向かった。
前の年にも来ていたので、シーズン初めはココだよね〜みたいなベテラン風を吹かせていた。
そう、取付きまではね。
取付きの段階で、オレは軽く武者震いしたね。雪が少なくて、滝がその本来の姿をみせている。オレが知ってる初心者でも安心みたいなルートは其処にはなかった。もうね千の風。そこにワタシはいません♪ってゆってた。
パートナーがサッサと登って、早よ来いやとゆう。
意を決してアックスを振り下ろした。
硬い!ダイヤモンドか?
氷瀑の中ほどで、ずり落ちて、他のメンバーに野次られたが、意に介している場合ではない。必死こいて鬼強な相棒についていった。
一番上の滝を登りきって、ひと息ついて後続のペアを待つ。
中々こない。
待ってても仕方ないので、最弱のオレは先にルンゼの上部を目指す。
ロープがいっぱいいっぱいになったところで、さらに待つ。
来ない。
相棒がチャカついてきた。50メートル離れていてもわかる。この人は最強であり、気が最短である。
「ロープ解いて!」
え?
確かに落ちる危険も雪崩に巻き込まれる危険もないし、下の人達を助けなきゃいけないってのはわかるけど、ロープ解くとかあるの?ねえ?
「はやく!」
ハーネスからロープを解く。ロープの末端が遠ざかってゆくのを見ながら、オレは圧倒的な不安感に襲われた。
相棒に対する猜疑心とか、メンバーに対するイラつきとか、それを許せない自分の罪とか全てが雲散霧消するレベルの圧倒的な不安感だ。
ロープを解いただけなのに。
オレはルンゼの下部から吹き上がってくる雪煙を浴びながら、絶望していた。
時間にしたら、20分に満たないくらいの短い時間なのに。
ロープで繋がっていることの安心感の大きさを噛みしめたね。
それと同時に自分が一種のロープ依存症じゃねえかと疑った。
だって、特に危険な場所にいるわけじゃないんだ。視界はクリアで、気温はマイナス15度で、爽やかな風が吹き渡っている。
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