見出し画像

【新刊試し読み】『真夏の刺身弁当 旅は道連れ世は情け』〈わたしの旅ブックス30〉|沢野ひとし

1983年のデビューから現在まで第一線で活躍するイラストレーター・エッセイスト沢野ひとし氏完全書き下ろしの最新刊『真夏の刺身弁当 旅は道連れ世は情け』が3月15日(月)に発売されました。発売を記念して“ まえがき ”を公開します。


本書について

イラストレーター、エッセイストで自由気ままな旅人・沢野ひとし氏がこれまでの人生であちこち飛びまわってきた旅の数々をじんわりと振り返ったら、本になった。
ひとり旅、山旅、海外長期旅、家族旅……。
そしてそこで出会った忘れがたい人たち。
旅の楽しさと侘しさをおなじみのリリカルな絵と独特の筆致で綴った完全書下ろしのイラスト×エッセイ28篇。


まえがき

 十代の頃から山登りをしてきたが、しだいにテントや寝袋、冬山用のピッケル、アイゼンと装備が増えだし、まるで道具に振り回されている気がしてならない時期があった。そんな時、若山牧水の『木枯紀行』を読み、そのシンプルで素朴な旅にいたく感動した。
 憧れはすぐさま行動に移る。秋の小淵沢駅から八ヶ岳の裾野をぐるりと歩いた。
 野辺山から松原湖、千曲川の源流、川上村と幾つもの民宿に泊まった。
 梓山の民宿の囲炉裏で酒を飲んでいると、宿の女将さんに「学生は遊んでいないで勉強するずら」と諭されてしまった。
 その時に鶏肉とレタスの鍋料理を初めて食べた。さらに新そばの味も忘れられない。
 カラマツ林の十文字峠を越えて秩父に下ったが、今でも濃い青空を思い出す。
 旅支度は牧水のマネをして、あえて軽装にした。
 カメラ、食料、山の服装はやめて、運動靴に手ぶらに近い格好でただ無心に歩いた。意外にも牧水は「磁石、地図、列車の時刻表」は肌から離さなかったらしい。
 牧水は「幾山河越えさり行かば」とまるで放浪、漂泊かのごとく旅を続けているように見えるが、きちんと目的を持って旅を続けていた。さらに旅のプロは行き先で揉め事を起こしたり迷惑をかけたり絶対にしない。
 牧水に旅の極意を学んだが、しかしその後の私の旅はというと、やはり目新しいザックやトランク、旅の小物に惑わされて、目移りばかりで困ったものだ。


目次

第1章 旅を知る
第2章 海を越えて
第3章 暮らすように旅する
第4章 旅は道連れ家族連れ


著者紹介

沢野ひとし
1944年名古屋市生まれ。イラストレーター、エッセイスト、絵本作家。児童出版社勤務を経て独立。「本の雑誌」創刊時より表紙・本文イラストを担当する。第22回講談社出版文化賞さしえ賞受賞。著書に『山の時間』(白山書房)、『クロ日記』『北京食堂の夕暮れ』(本の雑誌社)、『ジジイの片づけ』(集英社クリエイティブ)ほか多数。 


画像1

『真夏の刺身弁当 旅は道連れ世は情け』著/沢野ひとし
   2021年3月15日(月)発売
【シリーズ】わたしの旅ブックス
【判型】B6変型判(173mm×114mm)
【ページ数】304ページ
【定価】1,210円(税込)
【ISBN】978-4-86311-288-9


本書を購入する


「わたしの旅ブックス」とは

“ 読む旅” という愉しみを提供する、がコンセプトの読み物シリーズ。さまざまな分野で活躍する方々が、自身の旅体験や旅スタイルを紹介し、人生を
豊かに彩る旅の魅力を一人でも多くの人に伝えることをめざしている。ジャンルは紀行、エッセイ、ノンフィクションなど。