マッサージ屋さんをやってた時

行き場を失った手の居場所をようやく取り戻して
わたしは制服と名札を持って
ロジックと技術を秘めた身体一体で立っている

商店街と住宅街の真ん中にむき出しのホーム
電車が次の駅へと走り去る
踏切が鳴るとみんな少し急ぐ
通り過ぎた電車の埃っぽい空気の中
セーラー服を来た少女達が絵になる

商店街ではおじさん達やおばさん達が
美味しいものを作って売っている
小さな路面店を出して良い匂いをさせている

その中に私達のお店はある

その匂いにつられて
バラバラだった人たちが
ひとつの場所に集まってくる
たくさん集まってくる
いろんな顔のいろんな性格の人達が。
「なんだろう」って集まってくる。

そんな愛おしいお客さんたちが
この作業で喜んでくれるのなら
わたしはいくらでも提供する

少しでも笑顔になるなら。少しでも元気になるなら。
このお店に電気をつけて心から待っていると思う。

・ボディケア・フットケア・タイ古式・クリームバス・・・・

インド式なんちゃらってやつも覚えたな・・・なんてネーミングだっけ(笑)これは今でも身近な人にやるけど、意外にステキなマッサージ方法で右手母指と左手母指をサバクの上に小さな足跡をつけるかのように交互にゆーったりまーったり押していく非常に心地よいマッサージ方法です。

わたしは21歳になる年齢の時にマッサージの世界に入った。

最初はカイロプラクティックの先生の元で勉強しながら半年くらいお金貰わず練習で人を揉んでおり、次は東京に出る(普通のことが知りたいと思った)資金集めで新潟や軽井沢などで住み込みという名の監禁生活の中、何ヶ月もほとんど休みのないままに働いた。新潟のリゾートホテルの店は忙しく「18時~お客さんが途切れるまで」ぶっ続けに揉み続けているにも関わらず、寮に帰ったら好意で夜勤の寮母さんを揉んだ。東京では結局会社の寮に入ることにして、次はゲストハウスに移って、仕事をしながら卒業していなかった高校を卒業した。

25歳過ぎた時には気付いたらお腹に子供が居て流産してて結婚してて1年も立たずバツイチになっていた。そんで気付いたら憧れの結婚生活から会社の寮に戻ってて某ドーム施設のアンケートキャンペーンで個人2位で表彰されていた。

嬉しくなるかなと思った。でもあんまり嬉しくなかった。

ほんとうに自分で何の判断も出来ずすごく疲れていた。

でもずっと温浴施設で働いており「運営元から客が流れ込んでくる」という仕事スタイルしかしていなかったので「そろそろ店舗を経験して運営について勉強しなきゃな!」って思い立ち店舗経営の会社に入社。そんでちょうどこの詩のモデルになった店に配属になって数ヶ月後「リピート率100%」という異名を残した。『会社としてシステムが組まれている条件の元』では特に意識していなくたってそんなことが出来るようになっていた。

「こんなに出来るようになったんだ」と嬉しくなるかなと思った。やはりあんまり嬉しくなかった。

わたしは自己承認欲求を自分で満たすも思いがけず満たすも絶望しか感じない体質なのである。理由は至って簡単。

だってそれってお金にならないから。お金にもならないのに(社内報告になんの意味が)目立つって私の性格上ちょっと恥ずかしいな。だったらお金払って(宣伝費として自己投資として)目立ってたほうがいい。

そして、この次の配属先の店舗でわたしの手の皮膚が終了する。

31歳になる年のことだった。


手の筋肉自体はマッサージを始めた時に完璧に作り上げたから大丈夫なんだけど、手の皮膚がどうしても脆い。それから調理中も掃除中も常々手袋をしていなければ、爪の間の皮膚がどんどん抉れていって気付いたら血が吹き出す。

でも素手が好きだった。

「もうそろそろ水を触る時に手袋したほうがいいよ?」「ハンドクリーム、使ったほういいよ?」

素手が好きだったからあんまり人の言うことを聞かなかった。

技術が空気と一体となって混ざって溶けていくような先輩の手さばきに憧れて「どうすればそうなれるんだろうか?」と抱いたイメージをずっとずっと追いかけ続けた。

手はいつも何かを感じててジンジンと熱気に包まれていた。

「あなたの手って宇宙みたい」

実際そうなのか?どうなのか?は自分ではわからない。たまたま残った言葉や体感もあるんだろうし、不純物だとか余計なものが流れていったり消えていったりでもいいのだけど

自分が何かを持って誰かに何か伝わることがもしあるのであれば

それは今だって伝えたい。

もういろんな身体の人に合わせて揉み続けることが出来ない。つまり自分が思い描くプロの仕事がもうできないのだ。

「10年目からがスタートだ!」そう思って張り切ってたのにな。

それだけガムシャラに働いてたってことにしておくけど

その時の直向きなまっすぐな気持ちと想いをフレッシュなまま文章に残そうとおもった自分は正直エライと思える。

どんな成績を残すことよりも。

#マッサージ屋

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