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ライス🍚センター🍚梅干し-9

「先輩は、大好きな食べ物を最後まで取っておくタイプの人ですか」
 次の日、会社のお昼休みにお弁当を広げ、相手の顔は全く見ずに唐突に聞いてみたわ。
 先輩は買ってきたコンビニのおにぎりを、半分だけラップを剥がして怪訝な顔をしていたようだけど、私はタコさん型シャウエッセンをケチャップまみれにして、ただひたすらに喉に押し込むという作業に打ち込んでいたの。
「何? 心理テスト的な何か?」
「違います。残しますか? 先に食べちゃいますか?」
 おかずを優先的に消費してしまった私は、備え付けてあった大人のふりかけで白いキャンバスを彩ると、誰も踏み入れていない雪原に箸を入れていく。
 中途半端に食事を中断させられた先輩は、溜息を吐くと、セロハンを無造作に引きちぎり、ゴミ箱にポイ。
 一口で三分の一ぐらい山を削り取ると、着ぐるみに入ったような声で返事したわ。
「ほぉんなのひぃてほーすんはほ…」
「御行儀が悪いので、ちゃんと飲み込んでから、返事して下さい」
 既に、インスタ映えしそうだった私の名作は跡形も無く胃の中に納められ、顔の目の前で両手を合わせるとお辞儀を済ませたの。
 先輩、急いでお茶で流し込むと、胸で太鼓の達人しながら二の句をあげようとしていたわ。
 可愛い。
「…最後かなぁ」
「へー。じゃあ好きな子がいる時は、奥手な方なんですか?」
「…それとこれとは話が違うだろ」
「ちょっかい出してくる割には、経験人数少なかったりしたら、吹くんですけど」
「…悪いかよ」
「は?」
 思いもよらない回答が返ってきて、間の抜けた返事をして先輩の顔を見ると、先輩は耳の端までチークを付けたみたいになってて、あれ? イリュージョンメイク? って目を疑う程真っ赤になっていたの。
「だから…経験人数が少ないのが、そんなに悪い事かよ」
 いいえ。
 ビックリしているだけですとも。
 芦田愛菜ちゃんとか福くんが、急に卑猥な発言したらビックリするでしょう?
 それぐらいの衝撃が、今私の身体を突き抜けただけですとも、ええ。
 先輩は、急に立ち上げると、それっきり何も言わずに化粧室へと入って言ったわ。
 私は、お弁当箱を片付けるのも忘れて、ただその後ろ姿を見送ったの。
 可愛い。
 なにこれ、可愛い。

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