ライス🍚センター🍚梅干し-10

「その、惚気話だか自慢話だかよく分からない耳障りなものを悩み相談として、よくこの売れ残り前で必死に婚活パーティー巡りしているアラサー手前の偉大なる先輩に話してくれたよね。流石よね。流石過ぎて涙も溢れない。ただ、私の心は泣いているわ。お前の人生という臍の緒を、ここで断ち切れと内なる鬼が囁いているから」
　親愛なる高校時代からのＪ先輩が、私の頬を龍頭か何かと勘違いしているのか、掴んで捻って三周ぐらいさせようとするので、私は先輩の肩をタップし続けた。
「許して。これは私の意思じゃないの。手が勝手に。内なる邪鬼が手首の回転駆動域の限界に挑戦しようとしている。肘が悲鳴を上げているのにまだいこうとしているわ」
「こぶ取り爺さんでもこんな話があったら、児童が阿鼻叫喚に包まれますから、やめましょう先輩。やめて、今すぐ」
「やめられないとまらない」
「スナック菓子のキャッチコピーなんてそんなベタな事言うの先輩らしくありません」
「邪鬼が勝手に」
「ダメダメダメダメマジでマジでマジで跡が残るから！」
　漸く、手を離してくれた先輩は、さっきまでシャコ万力か何かの化身に変わったのかと思われる右手をグーパーし、名残惜しそうに掌を見つめていた。
　私の頬は、激痛が延々続いているあたり、確実に左右非対称になっている気がする。
　図書館ばりの静けさを醸し出している、行きつけのバーのお客様達が、そんな私達のやり取りを微笑ましく見守ってくれているようだったが、私は見ないフリをした。
　先輩は、目の前にあった蛍光色のカクテルを一気に飲み干すと、目蓋が閉じるくらいギリギリまで下ろし、じいっと私の事を睨み返した。
「……あんたねぇ、それを私に聞かせて、マジでどういうつもり？　イニシアチブを取ったつもり？」
「そんな訳ないでしょう。逆らえません。先輩には。今までも。これからも」
「じゃあなんでこんなに不愉快なのかしら？　生理不順だから？　私のせい？　体質の問題？　ちがう……やっぱお前ムカつく！」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い！　このままでは鳥山明が描くモンスターみたいになるからやめて下さい！」
　反対側の頬は既の所で死守すると、私も一口テキーラのショットを煽る。
　今日は全然酔いが回らない。
　先輩は溜息を吐くと、頬腕突いて、先程よりも優しく私を見つめてくれていた。
「んで？　私のどんな返答を待ってるの？　どう言われたいの？」
「いや、どう言われたいとかじゃなくて、今の私の気持ちをハッキリさせたくて…」
「そんなの」
　先輩は、もう一口カクテルに口を付けてから、続けて言った。
「恋に決まってるじゃない」
　予想だにしない言葉は、一気に私を二日酔いの世界へと誘った。