桂紋四郎

落語家です。上方落語協会。三代目桂春蝶一門。note小説「アフターコロナの落語界〜寄席…

桂紋四郎

落語家です。上方落語協会。三代目桂春蝶一門。note小説「アフターコロナの落語界〜寄席は社会生活の維持に必要か〜」を連載しています。YOUTUBE桂紋四郎チャンネル→ https://youtube.com/channel/UCs3pcwMhv8ADlWQifMz1azA

マガジン

  • 令和三十年 アフターコロナの落語界 社会生活の維持に必要か

    落語家の桂紋四郎です。 緊急事態宣言も今回で三度目となり、高座が激減する中で、文章によってエンターテイメントを届けられたらと思い書き始めました。 このコロナ禍で、もがいたことが、未来に役立てばという思いもあり、令和三十年の落語界の予測小説を書かせていただきます。

最近の記事

小説「令和三十年 アフターコロナの落語会」目次

    • 第九話「令和三十年七月二十一日(火) 初代曽呂利新左衛門」

      「文枝四天王の桂文之助は曽呂利新左衛門になるんですか?ニセ曽呂利ってどういうことでしょうか?」 紗の着物でスタスタと街中を歩く三代目曽呂利新左衛門の後ろを、大きなキャリーバッグを持って半袖姿の吉田が汗だくで歩いている。何処に向かっているとも知らせれずに、ただただ師匠についていく。カンカン照りの日光にリュックサックとポロシャツに汗が染み込むのがわかる。それとは対象的に曽呂利新左衛門は清しそうにしている。 「二世曽呂利新左衛門でニセ曽呂利や。初代の曽呂利新左衛門っちゅうのは、米

      • 第八話「令和三十年七月二十一日(火) ニセ曽呂利新左衛門」

        目覚ましアラームが鳴る。吉田は、自分で書いた紙のメモを読みながら、150年以上前のことを想像しているうちに眠ってしまったようだ。 ジャージ姿のまま、無人コンビニに朝食を買いに行く。サンドウィッチと牛乳を食べる。 吉田は、大阪市湾岸エリアの一軒家を借りている。 このあたりは空き家も多く、新築のマンションを借りるよりも一軒家を借りた方がずっと安い。 リュックサックに着物を畳むための敷紙を入れて家を出る。月額1200円の自転車シェアサブスクリプションサービスに登録している。近くの

        • 第七話「明治期、初めての寄席興行停止命令の理由は?」

          吉田は資料をめくりながら、初代桂文枝が亡くなった1874年の社会情勢について想像する。西郷隆盛が征韓論を巡って政府から飛び出したのが、1873年。木戸孝允・西郷隆盛が1877年没。大久保利通も翌1878年没。明治新政府もスタートしたのは良いものの、建国の父とも言える三人が亡くなり、ぐらぐらに揺れている。 そんな中で、落語界においては、1882年に桂文三が二代目桂文枝を襲名する。それが気に入らない、文都・文之助・文団治ら残りの四天王は次々に文枝を中心とするグループ「桂派」から

        小説「令和三十年 アフターコロナの落語会」目次

        マガジン

        • 令和三十年 アフターコロナの落語界 社会生活の維持に必要か
          9本

        記事

          第六話 「落語の始まりは?」

          吉田は三日の間に「落語は社会生活の維持に必要か?」の問いに対しての回答を用意すべく、机に向かう。 長年の癖として、抽象的な答えを出すときは、goglassを外し、紙の資料を用意する。資料は、インターネット上のライブラリに蓄積された落語の歴史の書籍データを引っ張り出し、わざわざ紙に印刷した。 吉田は、紙のノートとボールペンでメモしていきながら考えをまとめていく。 寄席らしきものが日本で初めて、できたのは、1798年、大阪の坐摩神社の境内である。初代の桂文治という人が創始者で

          第六話 「落語の始まりは?」

          第五話 「令和三十年七月二十日(月)大阪 期限は三日」

          着物をたたみ終えた吉田が、タワーマンション40階荒川宅のリビングへとやってくる。 「あぁ、吉田くん、あなたもこっちに良かったら座ってください。」 吉田は、この場面では遠慮した方が良いのかと思案しつつ、さっき師匠から「君もリビングでお茶を頂けば良い」という言葉があったので、空いている椅子に腰掛けた。 荒川は吉田の分のお茶を湯飲みに注ぎながら「吉田くんはどうして、落語家になろうと思ったの?」と問う。 曽呂利新左衛門も興味深そうな顔をしている。 吉田は、この回答如何で、「見習

          第五話 「令和三十年七月二十日(月)大阪 期限は三日」

          第四話 「令和三十年七月二十日(月)大阪 現代のお座敷(ZAXI)」

          ナイスシニア・荒川の家は今どき、タワーマンションの40階にしては珍しく、奥が和室になっている。和室には一段高く高座が設えられており、赤い毛氈が綺麗に敷かれている。毛氈の上に大きな紫色の座布団がちょこんと置いてある。そして高座の後ろには、金色の屏風まで用意されている。この和室は、落語を聴くためだけに存在し、この設えが変わることはない。 高座に正対して、一段低い畳の上に座布団を敷き、荒川が一人座っている。 高座の座布団に向かって、曽呂利新左衛門が歩き出す。一段高い高座へ悠々と座り

          第四話 「令和三十年七月二十日(月)大阪 現代のお座敷(ZAXI)」

          第三話 「令和三十年七月二十日(月)大阪 高齢者用のタワーマンションで」

          「師匠、よく来て下さいましたね。」 新築の高齢者用タワーマンションの40階。「荒川」と表札のかかった一室の扉が開き、中から現れたのは、小ざっぱりとした70代の男性。自宅にいるにも関わらず、白一色の毛髪を綺麗にとかしてあり、きちんとした身なりで、今どきのナイスシニアである。 「見習いの吉田くんも、よく来てくれたね。師匠のところは、厳しいから。せっかく会えたのに、辞めちゃってたらどうしようと思ってたよ。さぁさぁ、二人ともあがって下さい。」 一人で住むには少し広過ぎる2LDKの

          第三話 「令和三十年七月二十日(月)大阪 高齢者用のタワーマンションで」

          第二話 「令和三十年七月二十日(月)大阪 三代目曽呂利新左衛門」

          大阪市内、北エリアに位置するタワーマンションの1階ロビーの前に、15分ほど前から坊主頭で黒のポロシャツの野暮ったい青年が立っている。防犯カメラはその姿を捉えているが、アラームが鳴ることもない。 自動ドアの内側から、今どき珍しい和装の男性が、大きなキャリーバッグを引いて颯爽と出てきた。パーマをかけた黒髪に、薄いサングラスをかけた姿が、妙に和服にマッチしている。 青年は和装の男性の姿を捉えると、急いで駆け寄り 「おはようございます。」 と大きく声を張り上げ、地面につくのではな

          第二話 「令和三十年七月二十日(月)大阪 三代目曽呂利新左衛門」

          令和三十年 アフターコロナの落語界 寄席は社会生活の維持に必要か 第一話 「若手落語家の独白」

          あの世代の師匠方はいつもこう言う「今の若手はいいよな。苦労がなくて。俺たちが若い頃にはコロナウイルスってのが流行って.......。」 打ち上げでほろ酔い気分になってくると、だいたいの師匠方はこんな苦労話を始める。 そのたびに僕は、わからないようにため息をつく。 そっちこそ分かっていない。 「僕が、師匠方の年齢になる頃には日本の人口は8000万人になってるんですよ。新型のウイルスみたいに分かりやすいのが相手なら一致団結できますけど、人口減少のようにジワジワ侵食してくるものとど

          令和三十年 アフターコロナの落語界 寄席は社会生活の維持に必要か 第一話 「若手落語家の独白」

          天神橋筋オンザブルース

          購入後に全編(02:58)を視聴することができます。

          ¥200

          天神橋筋オンザブルース

          ¥200
          天神橋筋オンザブルース

          金明竹(落語)

          購入後に全編(13:53)を視聴することができます。

          ¥300

          金明竹(落語)

          ¥300
          金明竹(落語)