アニメ『ガールズバンドクライ』のここ好き(1~9話放送時点)

良いシーンが多すぎて全部抜き出して「ここ好き」って言いたいけど、さすがに全部は多すぎるので主要な部分のみで我慢しておく。


中指立ててけ!

"負けたくないから、間違ってないから"と東京に来た仁菜は、桃香との別れの握手に際し「中指立てて見返してください」と言う。そして、すぐなにかと中指を立ててしまう桃香に「中指立てたくなったら、小指立ててください。私もそうするので」と提案する。笑顔で小指を立てあう二人。

トラックに乗って別れる際も小指を立てる桃香、返す仁菜…と、これ以降もことあるごとに桃香と仁菜が小指(=中指)を立てるシーンが出てくる。
これが視聴側としては実に楽しい。

仁菜と桃香は中指立てる気持ちで相手に向けているが、実際には小指を立てているので相手は「なにそれ?」と反応が返ってくる。
仁菜と桃香、そして視聴者だけがその意味を知っているため思わずニヤリとする。視聴者の楽しみ方を作るのうますぎか。
(一応、バンドメンバーや周辺には徐々に伝わっていってるみたいだけど)

「小指を立てる」動作の中に、「中指を立てる」「見返してやる」「負けたくない」という気持ちが入ってることを見ている側は知っているので、キャラクターがその動作をしただけで感情を推し量れて楽しくなってしまう。

中指はオープニング映像でも立ててる。
面白いなあと思うのが「手を伸ばして」の歌詞の箇所で、映像では「過去の自分に掴まれた手を振り払って」から小指を立てるところ。しかも、空から地面に向かって落ちていくような構図の時に。ロック。

ところで、小指を立てる仕草と言えば「約束」を意味する動作であることが一般的なイメージだと思う。

2話で仁菜が提案し、笑顔で小指を立てあう二人を見た時に「ああ、約束の意味も重ねているのかうまいことやるな面白いな」と勝手に思ったが、9話放送時点では、小指を立てる動作が「約束」として使われたシーンは無い。
(そう受け取れるシーンはあっても、登場人物たちが明言してはいない)

多くのシーンに「中指(=小指)を立てる」動作が織り込まれているので、物語のクライマックスでも重要な動作として使われるのではないか!?と思っているが、その時に「約束」の意味も明示するのか、本来の中指のままの意味でいくのか…
この「中指=小指」の変換の発想、とても面白いので10話以降もどんな風に使われるのか楽しみ。


仁菜の行動

1話の桃香と仁菜の会話シーンのアニメーション技術がSNSで話題になり、2話の感想をちらっと見かけて気になって見始めた『ガルクラ』

1話、「この子何かありそうだ」と思わせながらもまずは桃香との交流に徹していて爽快に始まる。ただ、1話では自分はそこまでピンと来なかった。

でも2話を見て、一気に引き込まれた。
桃香と仲を深めた仁菜。しかし、桃香がシェアハウスに戻ってからはしばらく人との会話がない一人暮らし。部屋用のライトを譲ってもらえることになり、ウキウキ気分で桃香に会いに行くが、そこで安和すばるが登場する。

そこから仁菜の感情はどんどん下り坂になる。
(ここの下り坂に向けるための会話や状況の作り方も実にうまい)

2話以降も話が進むにつれて仁菜の行動はどんどんぶっ壊れていくが、ブレーキをこの時に壊してしまったのではないか?と思えるのがこの2話後半。

2話前半、桃香と鍋を囲んでいる時の仁菜は、バンドに誘う桃香に対して常識的な応答をしている。"負けたくないから、間違ってないから"を貫くために、桃香の誘いを断り予備校に行く生活を選べている。

桃香と仲良くなれたと思った矢先に、安和すばるによって嫌な気持ちがフラッシュバック。桃香に気持ちを理解してもらえるわけでもなく、イライラした態度を取って店を出る。
一人になってから「なにやってるんだろう、馬鹿じゃないの」と泣き出してしまう。(個人的にわかりみを感じて泣いた…)

しかしただ悲しい気持ちになるだけじゃない、最高なのがこの後。
通りすがりのオッサンに「うっせえな」と叫ばれて「うるせええええええええ!!」と、もらったばかりのライトをぶん回す仁菜!!!(まじであぶねえ

精神的にガチガチに落ち込んでいる人間に不用意に近づいてはいけないというのがよくわかりますね!
(仁菜のようにライト持ってない相手だとしても、"無敵の人"という面ではまじであぶないです)

自分もよく不快な出来事や理不尽な人間に遭遇した時に「うるせえええ!」ってなってボッコボコにしてやりたくなるけど、たまたま一線を越えずたまたま物的・人的被害が出てないだけなので、気持ちの上では仁菜のように周りをめちゃくちゃにぶっ壊してまで暴れたい(でも後でそんな自分の行動に泣きたくなる)と思っていて、ものすごく共感できるシーンだった。

人によっては仁菜には全く共感できず、ただのやべーやつ扱いされるんだろうなとは思うんだけど(まあ実際ライトをぶん回すのは危ないけどそういうことではなく)、「嫌な気持ち」を感じた時の精神ってこういう状態だよねと思う。

8話でバイト中に「外国人だから」と理不尽な出来事に遭うルパさんが「私にもロックは必要ということです」と口にする。そういうことです。


最高なシーンにはさらに楽しい追い打ちもある。
家に帰った仁菜がライトを点けるのに失敗し「一人じゃ電気も点けられない。一生暗いままなんだ、ずっと闇なんだ」と泣き始める。

この台詞、人によってはちょっと面白く感じるかもしれないけど、実際には"電気を点けられなかったこと"ではなくて「他人とうまく関われない、仲良くなった桃香さんとも喧嘩してしまう、誰とも会話することのない生活を送る自分」をぜーーーんぶひっくるめて、悲しさがあふれてきてそういう言葉になってると思う。
(すべての出来事が悪いことの暗示のように感じてしまう思考の表現、経験がありすぎてわかりみ…)

追ってきた桃香の「やっぱりバンドやろう。仁菜の歌声が好きだ」との誘いに「どうしてそんな嘘言うんですか」と答えるのも、相手の言葉を信じられない心理状態だから。

と、仁菜としてはまったく晴れやかな気持ちではないのに、部屋にはライトが点き、明るくなって見えた仁菜の泣き顔を見て吹き出す桃香とすばる。
「めんどくせぇ~!」と笑うすばるを殴る仁菜。桃香からヨーグルトを受け取りゴクゴク飲むもまだ泣き続ける仁菜。

仁菜にとっては傷ついて悲しい時間だったが、桃香とすばるにとってはひねくれててめんどくさい、そんな仁菜とだから一緒にバンドをやりたい。という、お互いに全然通じ合ってないのに互いの距離が縮まったような感覚がある。なにこれ面白い。

仁菜は桃香の誘いの言葉を「そんなのいらない」って断ってるのに、桃香は「いいから歌にぶつけなよ」とお互いとにかく言いたいことを言い合ってるだけで、意思は合ってない(笑)
こうやって徐々に仁菜のブレーキを壊していった元凶は、桃香なのでは?と思ってる。


エフェクトの使い方

ファンタジー世界だとか能力バトルだとかの作品では、特定の現象を可視化するためにエフェクトが使われる。
一方ガルクラでは、キャラクターの心理描写に使われる。

代表的なのが、公式YouTube動画のコメント欄などで「トゲ」と呼ばれる、仁菜から出る赤と黒の線形エフェクト。
糸のような細い線が、ぞわぞわと湧いてくる。これがとても良い。

言葉だけではわかりにくいので、第1話が公式YouTubeチャンネルで無料公開されてたので該当箇所をクリップしてみた。

このエフェクトが出てくるのは仁菜の中に「鬱屈した感情が高まった時」
エフェクトによって表情・声だけの表現とは違う、切迫感・感情の重みを見ている側が感じやすくなる。

他のアニメでもエフェクトを心理描写に使っているものはあるかもしれないが、仁菜の感情・気持ちの描写が『ガルクラ』の重要部分だと思うので、その魅力を発揮するための表現手法としてこんなに適切なものある?ってくらい良い。

この文章を書いているのは9話放送後時点だが、10話予告映像ではぞわぁっ!と大量に出ていて、仁菜の暗い感情の根幹に関わる部分の物語が展開されそうで期待が高まる。

他にも、7話でも画面表現が目立つ。
「私の最後のライブにぴったりだ。バンドをやめる」と桃香が言った瞬間、仁菜の映る画面がパキンッと割れ、ゆっくりとズレていく。ズレたまま喋る。
仁菜のショックな気持ちが伝わるいい表現だなと思った。

ミネさんと話して、勝手に走り出して花火を見に行って、「予備校をやめる」という決意を伝える直前の歌唱では赤黒エフェクトがずっと出ていて、ただならぬ雰囲気がよかった。


安和すばるがかわいい

アニメ表現・キャラクター表現が全体的に良いのはもちろんなんだけど、
安和すばるの表現がどこ見ても良い。

キャラクター的に好きなタイプとかでは特に無いのだけど、仁菜にとって桃香とは違う、気持ちをさらけ出せる同年代の友だちになっているその立ち位置が良い。

あと、笑顔の時の口の形がクセになる。
キャラクターによって口を開いた時の形を変えてるようだけど、すばるの口の形は大きめでニカッと笑うのが良い。

声も最初は不慣れな感じな印象がしてたけど、ちょっともたっとしてる雰囲気の喋り方こそが「すばるちゃん」って感じがして良い。
「面白いやつらだわ」みたいな口調や、こまごまと入る仕草もいちいち良い。

(上の台詞の後すぐにエンディングに入ってもいいのに、すばるが「よっ」と立ち上がってTポーズするお茶目な瞬間をわざわざ入れている。細部まで行き届いているアニメってこういうのだよなと思う)


10話視聴までに、とにかくそれまでに感じた魅力をメモしておきたくて慌てて書いたけど、書きたいことを急に思い出したりしたらまた書きたい。

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